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イケメンに異世界召喚されたので愛してるって言ってみた

作者: 満原こもじ

 それはアルバイトから帰ってきて、一息吐いていた時だった。


「よし、今回の召喚も成功だ」

「おめでとうございます!」


 ……何だ何だ?

 もやもやっとして浮遊感があったかと思ったら、知らない場所にいた。

 何となくクラシックというかアンティークというか。

 格調高い感じがするところだなあ。


 ファッションセンスの欠片もない、黒いローブ姿のやつらが喜んでいるよ。

 足元には複雑な魔法陣。

 頬っぺたを摘んでみたが夢じゃない。

 あたしはピンと来たね。

 ドッキリじゃなければ、これは異世界転移だと。


 要するにこの異世界の住人に困りごとがある。

 召喚によりチートに目覚めた聖女たるあたしの力を借りたい、ってことなんじゃないかな。

 その手の本を読んだことがあるよ。

 我が身に起きるとは思わなかったけど。


 黒ローブ軍団のリーダーらしき男が言う。


「そこな娘」

「あたしのことかな? リリア・タカセだよ。リリアって呼んでね」

「リリアか。呼びやすいいい名だな」


 ……あたしを尊敬しているようには感じられない。

 とゆーことは聖女設定じゃないのかな?

 名前を褒めてくれたし、粗末に扱うってわけでもなさそうだけど。


「急なことで混乱しているかと思うが、リリアは我らが世界『トコデマ』に召喚された」

「この世界の名前は『トコデマ』って言うのね。了解」

「む? リリアは騒ぎ立てぬのだな。状況を理解しているか?」

「まあ。さっき『今回の召喚も成功』って聞こえたから。何らかの必要性があって、あたしが呼ばれたってことなんでしょ?」

「その通りだ」

「そっちの用件を聞く前に、質問いいかな?」

「何なりと」

「これ、あたしは元の世界に帰れるのかな?」


 この手のお話は帰れない設定のものが多い。

 あたしは両親が亡くなって親戚の間をたらい回しされていたから、元の世界にさほど未練はない。

 異世界『トコデマ』に住むのもいいなと思ってる。

 でも元の世界に友達もいるし、高校くらい卒業したいと思ってるから悩ましいのだ。


「帰ることは可能だ」

「何だ、そうか」

「しかし我らの要求を呑んでくれぬと帰せぬぞ」

「だろうね。じゃあそっちの話を聞こうか」

「何故リリアはそうものわかりがいいのだ?」


 と、言われても。

 多分あたしには失うと惜しいものがあんまりないから。

 薄っぺらい人生なのかなあ?

 ちょっと悲しい。


「……こういうのは個人の資質じゃないの? ものわかりのいい人もいれば悪い人もいる」

「ふむ、話が早くて助かる」

「そっちの用件が何で、あたしが解決できるかはわからんのだけど。というか、召喚が必要になるほどの大問題なら、もっと経験豊富な人を呼ぶべきなんじゃないの? あたしは本当にただの小娘だよ?」

「いや、誰でも彼でも召喚できるわけではないのだ。ピントが合う者は滅多におらぬ」


 ピントか。

 『トコデマ』に来るためには、召喚される側に素質というか相性みたいなものが必要なんだな?

 そしてあたしがすごい力を持ってるから呼ばれたってわけではないらしい。

 しおしお。


「まず、我らがどうして大きな魔力を消費してまで召喚ということを行っているか。その理由なのだが」

「うん」

「リリア達の世界、我らは『アース』と呼んでいるが、『トコデマ』に比べると大変に人口が多い」

「そうなの?」

「うむ、一〇〇〇倍近く多いと思う」


 ってことは、『トコデマ』の人口は一〇〇万人弱ってことか。

 『アース』で言えば小国レベルだなあ。


「『アース』は魔法でない独自の文化が大変進んでいるだろう? それらを取り入れることによって、我ら『トコデマ』を繁栄させたいという考えがあるのだ」


 つまり知識チート系の異世界転移物か。

 でも……。


「ごめーん。『トコデマ』の文化程度はよく知らんけど、確かにあたし達の世界はそれなりに進んでいると思う。ただあたしみたいな女子高生じゃ、技術的に詳しいことはさっぱりわかんないんだわ」

「うむ、これまでの召喚者も似たことを言っておった」

「だよね。それを踏まえた上で、あたしは何をすればいいかな?」


 大したことはできないと思うけど。


「我らの世界にないエッセンスを、少々加えてくれればいいのだ」

「うんうん、便利グッズとかエンタメとかだね? それくらいなら」

「というスタンスでこれまでやってきたのだが、問題が発生してな」

「えっ?」


 問題?

 どゆこと?

 グッズが想定外の使われ方をして、えらいことになったとか?


「これだ」

「本?」

「『アース』からの召喚者が書いたものだ。翻訳してあるから、リリアにも読めるであろう?」


 ははあ、婚約破棄物のストーリーの短編集だ。

 娯楽としてこういうものを持ち込んだ召喚者がいるってことか。

 『トコデマ』にも王や貴族がいるんだな?

 じゃあ受け入れられやすいはず。


「……あたしの感覚では面白いと思う。むしろ傑作の類なんじゃないかな?」


 これで問題化しちゃうのか。

 不敬罪に当たる部分がある?

 それとも『アース』の住人では心当たりのない危険思想とか?


「『トコデマ』でも大ヒットしたのだ」

「だよね。よかった」

「よくはないのだ。男女間に不信の種を蒔いてしまってな」

「えっ?」

「この本が刊行されてから、男は女を、女は男を信用しなくなった」

「そんなことあるん?」

「結婚する者達も出生率もガクンと減ってしまったのだ。慌てて発禁図書に指定したが、闇本が出回るだけだった。このままでは『トコデマ』が滅亡してしまう!」


 全然予想外の事態でござる。

 男女間に不信の種って。

 滅亡が憂慮されるほどの社会問題ってどういうことだ。


「『アース』では有効な対策があるのだろう?」

「聞いたことないな」

「そんな!」


 フード被ってるからよくわからんけど、絶望の表情なのかなあ?

 たかがフィクションを読んで異性不信に陥るとか、『トコデマ』の住人はピュア過ぎない?

 いや、文明って進むほど規制が外され、どぎついものを求めるようになる気がするな。

 『トコデマ』の住人にとって婚約破棄物は刺激が強過ぎたか。


「放っておけば直に正常化すると思うけど」

「男女間で戦争が起きそうなのだ。猶予がない!」

「ええ?」


 刺激に弱い割に刺激的だな。


「元はと言えば『アース』からの召喚者が引き起こした事態だ。何とかしてくれ!」

「そもそも召喚なんてしなけりゃよかったじゃん。責任だけ押しつけないでよ」

「アイデアを出さないと、元の世界『アース』には戻せんぞ!」


 うん、まあそれを交渉の手札にすることはわかってた。

 きっと今までの召喚者は皆帰りたがったんだろう。

 ただあたしは絶対に元の世界に帰りたい、というわけじゃないしな?

 そんな脅しが利くと思うな。


 でもなー。

 こっちの世界にいるとしても、うまくやっていきたいしなー。

 男女間がギスギスしてる世界なんて真っ平ごめんだわ。

 うまい方法はないものか。


 つまりピュアピュアなのが原因なんでしょ?

 じゃあ基本的にはロマンチストなんじゃないの?

 ハートを揺らしておいて、婚約破棄物は所詮フィクションだから本気にすんな。

 目の前の恋人を見ろってふうに持っていけばいいから……。


「……『アース』には愛してるゲームってのがあるんだ」

「愛してるゲーム?」

「男女で向かい合って、『愛してる』って順に言い合うの。照れたり笑ったり過剰反応起こしたら負け」

「ふうむ? それが?」

「やってみた方が早いな。顔がわかんないから、フード取ってくれる?」

「わかった」


 おお、黒フードリーダーったら、ビックリするほどハンサム。

 しかもあたし好みの可愛い系。

 あたしも照れちゃうわ。

 いい勝負になるかも。


「君はすごく美男子なんだね。格好いい」

「そ、そうか?」

「うん、愛してる」

「ぶふぉおおおおおお!」

「弱っ!」


 やっぱピュアピュアだわ。

 ピュアピュアイケメンは萌えるな。

 ごちそうさまです。


「り、リリアに『愛してる』と言われて、動悸が止まらない……」

「『アース』で流行ってるゲームなんだ。面白かった?」

「き、凶悪なゲームだ……」

「凶悪ではないというのに。効果は抜群でしょ?」

「な、何が?」

「本を読んで異性に不信感を持っても、面と向かって『愛してる』って言われることには勝てないってことだよ。たとえゲームだってわかっていても」

「な、なるほど。凶悪な思想だ……」


 何が凶悪なのだ。

 わけがわからんな。


「この愛してるゲームを流行らせるといいと思うよ。その上で婚約破棄本はあくまでもフィクションだから、真実の愛の方が強いって吹聴しよう」

「よし、採用だ。者ども、この凶悪な遊びを流行らせるのだ」


 凶悪ってゆーな。

 ところであたし、お腹減っちゃったんだけど。


          ◇


 ――――――――――半年後。


 結論から言うと、経過は極めて良好だって。

 あたしは召喚された日の内に『アース』へ戻ったんだけどさ。

 学校休みの日にまた『トコデマ』に召喚してもらって。


 召喚って結構な魔力が必要らしいんだけど、一度繋げると抵抗がなくなってその地点には繋がりやすくなるそうで。

 何度も言ったりきたりしている内に、魔道士達が『トコデマ』に行ける扉型の魔道具を作ってくれた。

 ほとんど魔力の消費なしで行き来できるんだって。

 あたしは『トコデマドア』って呼んでる。


「もう『トコデマ』は心配ない。愛は素晴らしいという風潮になった」

「よかったねえ」

「リリアのおかげだ」


 愛してるゲームはメチャクチャ効いた。

 婚約破棄物もそれはそれでという感じで読まれているらしいけど。

 うんうん、正常な状態だと思う。

 つまんないことで異性不信になる方がおかしい。


 ところで『トコデマ』の民芸品の人形ってよくできてるんだよ。

 どことなくユーモラスで、目が離せなくなる感じ。


「所持していると少しだけ運が上がるのだぞ」

「マジか。一種のマジックアイテムなんだね?」

「うむ」


 『トコデマ』の幸運の人形を『アース』のインターネットショップで売ることにしたんだ。

 ボツボツ売れていて、売り上げ金で一〇〇均グッズや書籍、野菜の種などを買い、『トコデマ』に持ち込んでいる。

 『トコデマ』と『アース』で言葉は通じるのだけれど、文字は違ってさ。

 でもあたしが教えたから、『アース』文字を読める人が『トコデマ』で何人も現れてきているんだ。

 今後は知識や技術の導入という意味で、『アース』の本がもっと重要になると思う。


「僕もリリアの世界に行ってみたいのだが」

「うーん、『アース』を案内したい気持ちはある。でも殿下はピントが合わんのでしょ?」


 召喚のピントが合う人、イコール『トコデマ』と『アース』を行ったり来たりできる人って、何万人に一人しかいないみたい。

 だからあたしは結構貴重な人材で。

 『トコデマ』をいい国にするために、あたしも協力するんだ。

 具体的には『トコデマ』発展に貢献しそうな『アース』のものを持ち込むという方向で。


 どうしてあたしがそこまで『トコデマ』に肩入れするのかって?

 だってあたし、ウェリアス殿下の婚約者になったんだもん。

 ウェリアスが誰か?

 おお、名前出てなかったか。

 あたしを『トコデマ』に召喚した黒ローブ達のトップだよ。

 『トコデマ』の第一王子。

 最初にあたしと愛してるゲームをやったイケメン。


 王子だから近距離で面と向かって知らん人間と話す機会なんかないわけで。

 だからこそ『愛してる』が過剰に効いちゃったのかもな。

 ピュアなことはピュアなんだろうけれども。


 『トコデマ』という世界には国が一つしかなくて、『トコデマ』は国の名前でもあるんだ。

 というか『トコデマ』の人達には、国がいくつかあるという状況が理解できないみたい。

 ところ変われば郷に従えとはよく言ったもんだ。


 ウェリアス殿下の話に戻るよ?

 愛してるゲームであたしにメロメロになった殿下は、ぜひとも婚約者になってくれと言うの。

 あたしもハンサム王子の要求を断るほど人間が贅沢にはできていないから、受けるわけよ。

 『アース』では幸薄者のあたしも、『トコデマ』では危機を救ったヒロインで発展を担うキーウーマンなわけだ。

 誰も王子との婚約に文句をつけない。


 もうすぐあたしも高校卒業だからさ。

 そうしたら家を出て、本格的にネットショップを展開かな。

 『トコデマ』ではウェリアス殿下と結婚だ。

 ふふっ、ちょっと忙しくなるかも。


「リリア」

「どしたの殿下」

「リリアは僕に対して冷たい気がする」

「そんなことないよ。愛してる」

「そのイントネーションは愛してるゲームの時と同じじゃないか」


 うるさいこと言うなあ。

 ピュアピュアの王子が懐かしいわ。


「僕の方をしっかり見て言葉にしてくれ」

「ごめんね。殿下はとってもいい男だから、視線が合うと照れちゃうの」

「くわああああああ!」


 ハハッ、ちょろいわ。

 まだまだピュアピュアだわ。


「でも殿下には感謝してるの」

「む? それは?」

「召喚で『トコデマ』という世界を教えてくれたじゃん? あたしの未来は『トコデマ』にあったんだ」

「……過去の召喚者の中で、リリアほど落ち着いている者はいなかったと思う。僕が召喚に関わる以前のことでも、大体大騒ぎするものと聞いていたからな」

「かもねえ。『アース』での生活に満足していると、いきなり召喚されるのはストレスかかると思うよ」

「リリアは……『アース』での生活に満足していなかったのか?」

「両親が事故で亡くなってさ。以来ずっといらない子扱いだったから」


 親戚中ではね。

 友達は優しかったけど。

 ぎゅっと手を握ってくるウェリアス殿下。


「今は僕がいる」

「うん、頼りにしてるよ。あたしの王子様」

「うおおおおおおお!」


 何だろうな、一々雄たけび上げるの。

 まあいいや、可愛い王子に惚れられて。

 今のあたしは結構幸せだ。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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