第102話 あのハンカチ
───すると………しばらく歩いていたら屋敷全体に轟音が響き渡る。扉が蹴破れ、互いの勢力による雄叫びが交じり、刃をぶつけ合う激しい金属の音が、そしてパラパラと天井から土煙が舞い、耳を澄ませば聞こえてくる。
物騒な音に子供達は「怖いよ」と、プルプルと震わせ、スラム地区のオジサンは質問する。
「おい、何が起こっているんだ?」
オジサンの質問にミランダは耳を澄ませ、立ち止まって答える。
「おそらく、レオナルド様率いる帝国騎士隊です。この屋敷に潜伏している共和国系の武装工作員を制圧しに来たのでしょう」
───という事は、領主様が助けに来たのかい?
───なら、早く保護してもらおうぜ?
スラム地区のオジサン2人は助かりたいのか、刃をぶつけ合う金属音がする方に足を運ぼうとする。
しかし、ミランダは忠告する。
「ダメです、音がする方に行けば戦場になっていて、巻き添えを食らうだけですよ」
ミランダの忠告に、スラム地区のオジサン2人は黙る。
「とりあえず冷静に、私が引率するので付いて来て下さい」と、ミランダは改めて言う。そして………ソフィアと孤児院の子供、スラム地区のオジサンらはミランダに引率され、ホコリが舞う通路を歩いていた。
皆は頭を低くくし、歩く。屋敷の大広間は帝国騎士隊の兵士達と、共和国系の武装工作員と交戦している。
(何か、前世での避難訓練を思い出すわね………)
ソフィアは前世を思い浮かべる。クラス委員長が、ヘルメットを被った生徒達を整列させ、姿勢を低くくして体育館に向かったっけ………。
「ソフィア様」
「え、何?」
するとミランダが話しかけ、思わずソフィアは振り向く。
「これを、レオナルド様に………」
ミランダが渡したのは、チューリップの刺繍を施したハンカチだった。
「えっ?このハンカチって確か………」
ソフィアは思い出す。それは裁縫の作法の際、レオナルドにプレゼントをする為、ヒラリーおばさんと共同で作ったハンカチである。作った際、レオナルドにプレゼントしようとしたが途中で落としてしまい、落ち込んだ。
「はい、今日という日の伏線の為、大事に取って置きました」
「ええっ?」
ミランダの言葉に、ビックリする。
「ふふ、冗談です………やはりソフィア様は、冗談を言うと面白い反応しますから好きです」
ミランダはクスクスと笑って言った。
「この状況で、その冗談は心臓に悪いって………」
ソフィアは溜め息を吐き、困惑した様子で言う。
───ミランダに引率され………皆は姿勢を低くくして身構える。階段を降りたり、曲がり角を曲がったりして、出口を目指すのである。




