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インターホン路上ライブ ~うるさいわの奇跡~

作者: Dud

売れない歌手が突飛なきっかけでバズったらどうなるか――そんな思いつきから始まった物語です。駅前ライブすらできない、貧乏ヒリヒリ生活の主人公が、思いも寄らない形で“インターホン”という奇妙な舞台に行き着きます。

「いつかは人に聴いてもらいたい」「埋もれずにこの歌を届けたい」という切実な願いが、なぜか笑いとともに世間に広まり、“うるさいわ”と自分が叫んでいたはずなのに、周りからは「もっと聴かせて」と望まれてしまう。誰しも、いつどこで人生の扉が開くか分からない。そんな予測不能の面白さと、音楽を愛する純粋な心を感じ取っていただければ幸いです。

第1章 売れない歌手の憂鬱


 斎藤拓也さいとう・たくやは、築四十年を超える木造アパートの一室でため息をついていた。エアコンの効きもいまいちな部屋の中、足の踏み場もない床に置かれたギターやコード譜、録音機材はどれも安物ばかり。それもそのはず、活動資金が尽きかけているのだ。


「はぁ……また再生数が増えてない」


 パソコンの画面には、昨日投稿したオリジナル曲の動画ページ。エネルギーを注ぎ込んで作曲し、苦心して録画・編集したにもかかわらず、再生数は三桁止まり。コメント欄をのぞいてみれば、ファンらしき人からの「今回も良かったよ!」という優しい一言があるだけで、実際に熱心に聞いているのはほんの一握りらしい。


 拓也はシンガーソングライターとして、三年前から「斎藤タクヤ」名義で音楽活動を続けてきた。大学を中退してバイト代をつぎ込みながら、“独学”と“勢い”だけで始めたため、当然ながら下積み生活は長い。音楽仲間の何人かはすでに活動をやめ、就職しているというのに、拓也はいまだに夢を捨てきれないでいた。


「このままじゃダメだよな……」


 とりあえず何か動かねばと考えた拓也は、バイト先の先輩や音楽仲間からも勧められていた“路上ライブ”を思い浮かべる。確かに、自分の曲を多くの人に聴いてもらうにはうってつけだ。しかし駅前の広場や繁華街で本格的にやるには、アンプやマイク、スピーカーなどの機材が必要。それらは総額でウン十万円ほどかかるし、警察や自治体からの許可もいる。とてもじゃないが、無資金で始められるものではなかった。


「路上ライブって簡単だと思ってたけど、結構ハードル高いんだな……」


 そんな思いを抱きながら、彼はギターを抱えて布団の上に転がる。何もする気が起きない。動画を投稿しても目立った反応はないし、貯金は切り崩し続ける一方だ。これまで積み上げてきた曲も、世に広まらないまま消えていくのか――そう考えると、気持ちはますます沈んでいく。


 そのとき、不意に部屋のインターホンが鳴った。


「ピンポーン」


 拓也はまどろみから引き戻されるように体を起こす。訪問客は珍しい。友人も家族も、わざわざアポなしで来ることなんてまずない。まさか、取り立て屋……? 心当たりはないはずだが、一瞬だけ胸がざわつく。


「はーい……」


 重い腰を上げてインターホンの受話器をとってみると、そこに映るのはスーツ姿の見知らぬ男。どうやらウォーターサーバーだか光回線だか、何かのセールスマンらしい。


「こんにちはー! お忙しいところすみません、少しお時間よろしいでしょうか?」


 拓也は正直、それどころではない。売れない焦りと、空腹までもが彼を苛立たせる。そのまま断ってしまおうかと思ったが、相手はなかなかしつこく喋り続ける。何度丁寧に「必要ありませんので」と言っても通じない。


「……はぁ、めんどくさい」


 インターホン越しとはいえ、相手の声が耳障りに思えるほど弱っている自分に気づく。普段ならもう少し我慢強く対応するはずが、今日はやけに神経にさわる。すると、拓也の口から思わず音程付きのフレーズが飛び出した――


「早く帰れ♪ 帰れ、めいわーーーく♪」


 ギターを弾くでもなく、単なるアカペラ。本人も驚くほど、メロディがそのまま言葉に乗ってしまった。セールスマンは怪訝そうな表情を浮かべていたが、さすがに相手が歌い出すなど思わなかったのか、それを機に諦めて去っていく。


 ピッとモニターが消えると、拓也は我に返った。なんてことをしてしまったんだろう。むしゃくしゃしていたとはいえ、こうして人に歌で当たり散らすなんて、音楽をやっている人間として正しい姿だろうか。


「ま、いっか……もう誰にも聞かれてないし」


 そうつぶやき、拓也は再びギターを枕代わりにする。部屋の窓から差し込む夕日が、彼の部屋を橙色に染めていた。まだ“あの女子高生”が、すぐ近くの通りでその光景を見ていたことなど、拓也は知るよしもない。


 こうして奇妙な“インターホンと歌声の共演”は、思わぬ形で彼の運命を変えていくこととなる――まだ本人は一ミリも気づいていないのだが。




第2章 思わぬ拡散


 その日の夕方。都内の私立高校に通う女子高生・奥山美咲おくやま みさきは、スマートフォンを片手に友人と連絡を取り合いながら、部活帰りの道をとぼとぼ歩いていた。通い慣れた住宅街の中を通り抜けようとしていたとき、不意に聞こえてきたのが、あの「インターホン越しの歌声」だった。


「帰れー♪ 帰れ、めいわーーーく♪」


 まさか本当に歌っている人がいるなんて、と驚いた美咲は思わずスマホを向け、カメラを起動。インターホン越しに応対している男が、本気か冗談か分からない調子でセールスマンを追い返している様子をこっそり撮影した。男の顔はモニター画面の向こうでしか見えなかったが、その必死さと妙なリズム感に、何とも言えない面白さを感じたのだ。


「なにこれ……めっちゃウケる……!」


 美咲は悪気があったわけではない。ただ「SNSに上げたらバズるかも」と軽い気持ちで、自分のフォロワー向けに短い動画として投稿しただけだった。普段は部活や友達との写真を載せるくらいで、大きく注目を集めることなんてまずない。しかし、今回ばかりは違った。


 投稿してから数時間後、美咲は家に帰り、食事を済ませてほっと一息ついたタイミングで、スマホの通知音が絶え間なく鳴り続けていることに気づく。フォローリクエストやコメント、いいねが止まらない。あっという間に何十件、何百件という勢いで増えていく。


「えっ、なに、どういうこと……?」


 美咲は慌てて投稿した動画を確認する。そこには驚くほどたくさんのコメントが並んでいた。


「この人、セールス撃退法が斬新すぎる!」 「笑い過ぎてお腹痛いww」 「誰かこの人の正体知らないの? 歌声はガチかもしれない」


 どうやら動画を観た人々は、単に面白がっているだけではなく、「歌が上手い」という反応もちらほらあるらしい。もっと長いバージョンを聴きたい、という声まで上がっている。美咲は当初、自分の手で勝手に撮影したことへの後ろめたさを感じていたが、まさかこれほど反響があるとは思っていなかった。


「こんなに拡散されるなんて……やばいかも。でも、ちょっとすごい……」


 一方、その頃。アパートで眠りにつこうとしていた斎藤拓也は、まだ自分がネットでプチ炎上――いや、プチブレイクしつつあるなどとは露ほども知らない。いつものようにギターを枕代わりにして、ひとり悶々とした夜を過ごしていた。


 翌朝、拓也はスマホをチェックしてその異常事態に気づく。普段は静かな通知欄が、「フォロワーが増えました」「コメントが付きました」などで賑やかだ。チャンネル登録者数や再生数も、これまで見たことのないスピードで上昇している。最初はバグか何かだと思ったが、コメント欄に「インターホンの人だよね!」「セールス撃退ソング最高!」といった言葉が並んでいるのを見て、ようやく合点がいった。


「まさか、あの瞬間を誰かが撮ってたのか……」


 正直言って気恥ずかしい気持ちはあったが、実際に再生数が一気に伸びているのは事実だ。しかもコメントの大半は好意的で、ちょっとシュールで笑える歌詞や、意外としっかりしたメロディのセンスを称賛している。


「こんな形でバズるなんて……人生分からないもんだな」


 拓也は苦笑しながら、これまでの地道な投稿にはなかった勢いに戸惑いを覚えつつも、心のどこかでワクワクを感じずにはいられなかった。売れない日々に突如差し込んだ“バズり”という光。次はどう動けばいい? ここで尻込みしてはもったいない。かといってただ浮かれているだけでは、せっかくのチャンスを逃してしまうかもしれない。



 そんな思いが頭を巡る中、拓也はギターの弦を張り替えながら、心を新たにするのであった。あの“インターホン越しの歌声”が自分をどこまで連れて行ってくれるのか、まだ誰にも分からない。彼の長く暗かったトンネルの先に、一筋の光が見え始めていた。


第3章 インターホンシンガーへの道?


 翌日、斎藤拓也はいつものようにバイト先のコンビニでレジ打ちをしていた。だが、その日の休憩時間はいつにも増して落ち着かない。ポケットのスマホが鳴りっぱなしなのだ。SNSの通知はもちろん、なぜか地元のフリーペーパーやネットニュースサイトまでもが、「インターホンで歌う謎の男」の話題を取り上げていた。

 ただセールスマンを追い払うためにやった即興の一曲が、これほど注目を集めるなんて――拓也はバイトのエプロンを脱ぎながら、心の中で何度も首をかしげる。音楽活動を三年も続けてきて、どんなに頑張っても手応えを感じられなかったのに、「ふざけ半分」に歌った曲だけが世間に刺さるという現実が、少し皮肉に思えた。


 とはいえ、これをチャンスと捉えない手はない。休憩室でスマホを開き、いくつかのコメントやメッセージに目を通す。

「もっとアカペラ聴きたい!」

「この人、マジで才能あるんじゃね?」

「インターホン越しのライブ配信してほしい!」

 そんな声が次々と飛び込んでくる。確かに歌ってほしい、と言われるのは嬉しい。しかし同時に、「こんな路線で本当にいいのか?」という不安が頭をもたげる。もともと真剣に音楽を続けてきたのに、自分が求めていた形はこれなのだろうか……。


 いや、そもそも人に聴いてもらえてなんぼの世界だ。売れずに埋もれたままよりは、変なきっかけでもバズって注目を集められる方がいいはず。自問自答の末、拓也は“インターホン路上ライブ”とでも銘打って、この勢いに乗ってみることを決めた。過激な炎上狙いをするつもりはないが、インターネット上に「インターホン越しで即興歌を披露する」という一種のシリーズ企画を立ち上げてみてもいいかもしれない。何より、一度は諦めかけた自作曲を世に知ってもらうチャンスがここにあるのだ。


 バイトを終えた夜、アパートに帰りつくと早速、スマホで生配信の準備を始める。部屋のドアを開けっ放しにして、インターホンのマイク部分をなるべく拾いやすいように工夫。視聴者数は最初こそ少なかったが、あっという間に「さっきの動画見ました!」という人たちがどんどんやって来て、画面のコメント欄はにぎわいを見せた。

 しかし、問題が一つ。肝心のセールスマンや宅配員は都合よくやって来てくれない。そこで拓也はリクエストに応じて「普段作っていたオリジナル曲」をアカペラで披露するという形に切り替えた。

 しばらくすると、視聴者から「予想外にガチで歌うとこが最高」「こんなにちゃんと歌えるなんてビックリ」というコメントが続々と届く。面食らいながらも、「いつか本当に路上ライブができるようになるまで、ここで練習させてください!」と頭を下げる拓也。カメラ越しのファンに微笑みかけ、ちょっと気恥ずかしそうに話す姿はどこか朴訥ぼくとつでありながら、その奥に秘めた熱意が伝わってくるようだった。



 部屋に響く拍手スタンプや応援メッセージ、そして数件の投げ銭。これまで感じたことのない手応えに、拓也の胸は高鳴る。普通の歌手が当たり前のように経験する“観客との一体感”を、今さらながら思い知ったのだ。

 奇妙な形で「インターホンシンガー」として注目を集め始めた拓也。彼はまだ、これが自分の人生を大きく変えていく始まりに過ぎないことを、はっきりとは分かっていなかった。だが、思いがけず手にした追い風に、少しだけ勇気をもらったのも確かだった。今夜、また新たなメロディを生み出しながら、彼は次なるステップを模索し始めるのだった。


第4章 近所騒然! インターホン前の行列


 インターホン越しの生配信が思いのほか好評を博し、斎藤拓也さいとう たくやの自宅アパート周辺は、にわかにざわつき始めていた。ある日曜の午後、彼がいつものように配信の準備をしていると、外からやけに人声が聞こえる。そっとドアの隙間から覗いてみると、ギターケースを背負った若者や、スマホを片手にキョロキョロしている数人が、どうやら拓也の部屋を探しているではないか。


「え、ちょっと待って……なんか増えてない?」


 動画やSNSで“インターホンシンガー”の存在を知った視聴者が、面白半分にアパートを訪ねてきているようなのだ。元々築古の木造アパートは壁が薄く、周囲の音が筒抜けになりやすい。管理人も年配のおばあちゃんで比較的ゆるいとはいえ、これだけ人が集まるとさすがに目立ってしまう。


 それでもせっかく訪ねてくれたファンを無下に追い返すのは気が引ける。どうしようかと迷った末、拓也は思い切ってドアの前に出てみることにした。すると、待ち構えていた学生らしき数人が、「あ、ほんとにいた!」「インターホンの人だ!」と一斉に声を上げ、スマホのカメラを向けてくる。


「ええと……み、みなさんこんにちは。なんかすみません、こんなとこまで来ていただいて……」


 予想外の歓迎ムードに照れながらも、拓也は「あの歌、もう一度聴かせて!」とリクエストされると、意を決してギターを抱える。普段はアカペラで歌っていた曲を、今日は初めて外で、しかも“ちゃんとした観客”の前で披露するのだ。周囲に住む住人の手前もあるので、音量には気を配りつつ、小さめの声でストロークを刻む。


「早く帰れ♪ 帰れ、めいわーーーく♪」


 あの日セールスマンを追い返した即興ソングは、わずかなフレーズとはいえ、多くの人を笑顔にする不思議な力を持っていた。後からやってきた人々も含め、十数人が狭いアパートの廊下に集まり、思わず手拍子や笑い声を上げる。下手をすると苦情が飛んできそうな危うい状況だが、幸いにも管理人の姿は見えない。


「すごーい! 生で聴けるなんて嬉しい!」 「もっといろんな曲を聴いてみたい!」


 ファンたちは気軽なテンションで声をかけてくる。もちろん、彼らの大半は“おもしろ半分”が先行しているのかもしれない。それでも、心から応援してくれる人がいるのは確かだ。長らく売れずに苦しんできた拓也にとって、この小さな共感の輪は驚くほど温かく、そして大切に思えた。


 しかし、その日を境に近所の住人たちは、日を追うごとに騒ぎに気づき始める。「なんだか最近、あそこの部屋に若い子が集まってる」「夜に歌声が聞こえてきて眠れない」など、苦情の声も少しずつ増え始めたのだ。拓也は“インターホン越し”というアイデンティティを武器にしつつも、今度は“普通にうるさい奴”として睨まれるリスクに直面することになる。



 だが、逆風にばかり気を取られているわけにもいかない。そもそも拓也は、音楽で食べていくことを諦めたくないがために、どんな無茶でもやってみようと心に決めていた。とはいえご近所トラブルを起こしてしまえば、せっかくの好機も自ら潰してしまうかもしれない。次の手を打たなければ――。

 拡散による追い風と、増え始めた騒音クレーム。思いがけず二つの波に挟まれた拓也は、その夜もギターを抱きしめながら答えを探し続ける。やがて、あるアイデアがふと頭に浮かび、思わず彼の口元にはほのかな笑みが浮かんだ。

 いつかは本当に大勢の前でライブをやるんだ。今はその入り口に過ぎない。管理人や近所の方にも迷惑をかけずに、もっと上手いやり方があるはず――。そう心に誓い、拓也は窓の外に広がる夜の街を見つめながら、静かに爪弾き始めるのだった。


第5章 インターホンを鳴らせ! 部屋の中から響く歌声


 「これなら……ワンチャン、いけるかも」

 夜更けのアパートの一室。ギターを抱えた斎藤拓也さいとう たくやは、ノートにびっしり書き込んだメモを見ながら、目を輝かせていた。近所からの苦情を避けるために、路上ではなく“部屋の中”でライブをする――しかも、インターホンをスピーカー代わりにして外へ音を届けるというアイデアだ。


 きっかけは、以前ネット配信のときに視聴者から飛んできたコメントだった。

 「外で騒ぐから問題になるんじゃ? インターホン越しに歌えば近所迷惑にならないのでは?」

 確かに、ドアを開け放って歌うと騒音になる。ところがインターホンのスピーカーを活用すれば、外に向けてある程度の音量を届けつつ、自分は家の中で演奏できる。しかも自慢(?)の“インターホンシンガー”らしさを最大限に活かせそうだ。


 早速、翌日の昼間から準備に取りかかった。ホームセンターで買ってきた細いオーディオケーブルを、部屋に備え付けのインターホン本体にこっそり繋げてみる。もちろん正式な方法ではないため、賃貸物件の設備に勝手に改造を施すのはかなりグレーゾーンだが、ここは“売れない歌手の執念”が勝っていた。どうにか応急処置としてギターの音声をインターホンに流せるようにしてみると、予想以上にはっきりと外へ音が響く。これには拓也も思わずガッツポーズだ。


 問題は、実際にどのくらいの音量で外に届くかという点。小声で歌っただけでも、廊下に響く声が意外にクリアに聞こえた。試しに近くのコンビニバイト帰りの友人を呼んで、外でチェックしてもらうと、

 「いや、これ普通に聞こえるわ! しかもなんか妙にレトロなエコーがかかってて面白い」

 と興奮気味に報告を受ける。どうやらヘタにスピーカーを買うより、インターホンを通すことでユニークな音質に仕上がっているらしい。


 さらに拓也は配信用のカメラを自室にセットし、「外にいる人にはインターホン越しに実演、オンラインの人にはいつもの映像と音を届ける」という二段構えの作戦を思いつく。近所迷惑を極力減らすため、事前にSNSで「○月○日の夕方にインターホンライブをやりますが、よかったら聴きに来てください」という軽い告知をするにとどめ、具体的な住所は伏せた。でも、どうやら一部の熱心なファンたちは、すでにアパートの外観を知っている。ちょっと怖くもあるが、彼らの期待に応えたい気持ちも募る。


 そして当日。部屋にこもってギターを構えた拓也は、自作曲「はやく帰れ♪ 帰れ、めいわーーーく♪」を軽快なストロークで奏で始める。インターホンから漏れ出る歌声を受け取った廊下のファンたちは、薄暗い共用灯の下でケラケラと笑いながら、手拍子を合わせてくれる。その様子を部屋の中のカメラ越しにも確認できると、心が躍るのを感じた。

 今はまだ数人規模の小さな“路上ライブ”――正確には“室内インターホンライブ”だが、画面の向こうにはさらに多くの視聴者がいる。コメント欄には「新しい!」「天才かよ」「インターホンの音質がクセになる」といった意見が並び、投げ銭もちらほら飛んでくる。


 前途多難な状況は変わらない。管理人にバレたらアウトかもしれないし、引き続き近所からクレームが来る可能性も高い。だけど、どんな無茶でもやってやる――拓也の中で、そんな小さな反抗心とも言える決意がメロディに乗って燃え上がっていた。

 「このインターホンが、俺の“ステージ”になるかもしれない……!」



 インターホンを通じて響く、少しノイズ混じりの歌声。立ちこめる熱気に、一足早い興奮を覚える数人のファン。そして画面越しに沸き立つオンラインの視聴者たち。賑やかで少し危うい新境地が、いま幕を開けようとしている。




第6章 管理人の逆鱗と新たな挑戦


 インターホンをスピーカー代わりにした“室内ライブ”は、これまでにないユニークなスタイルとしてSNS上でじわじわと注目を集め始めていた。ファンの間では「インターホン路上ライブ」と呼ばれ、ちょっとした話題になっている。いっぽうで、斎藤拓也さいとう たくやが住む木造アパートの周辺では、しばしば人だかりができるようになり、近所の住民たちからは「邪魔」「うるさい」という声が上がりつつあった。


 そして、その不満はついにアパートの管理人である大家のおばあちゃん・川島かわしまの耳にも届いたらしい。ある日の昼下がり、拓也がコンビニバイトを終えてアパートに戻ると、玄関前に川島が腕を組んで立っていた。


「おや、川島さん……こんにちは」


 拓也が恐る恐る声をかけると、川島は険しい顔のまま、ズイと一歩前に出てきた。


「最近、なんだか騒がしいんじゃないかい? 夜に若い子が来て声を上げたり、歌が聞こえてきたり……。アタシの耳が遠くなったんじゃないっていうんだよ」


 元は気さくで優しい川島だが、建物や住人を守る立場として見過ごせないのだろう。管理人室にはすでに数件の苦情が寄せられているようで、次にトラブルが起これば強制退去を検討するとの話までちらりと漏らした。


「そ、そんな……。うちは古いアパートだから、壁も薄くて、音が漏れやすいのは分かってます。なるべく気をつけますから……」


 拓也は頭を下げるしかない。外での騒ぎよりはましとはいえ、インターホンを通じた歌声も決して無音ではない。最近ではファンがわざわざインターホンを押しに来て、「歌ってください!」とリクエストすることも増えている。最初のうちはそれでも小規模だったから気づかれずにすんだが、ここ数日は人が増えてきているのだ。


「とにかく、これ以上大きな騒ぎになったら困るからね。みんなが安全に暮らせるのが第一だよ? 分かったね?」


 川島は厳しい口調ながらも、「本当はあんたの歌が嫌いってわけじゃないんだけどね……」と最後にポツリと漏らす。どうやら、なんとか続けさせてやりたいという思いもあるようだ。ただし、それはトラブルなくやれるなら、という条件つきである。


 大家に注意されてしまった以上、これまでのように好き放題に“インターホン路上ライブ”を続けるわけにはいかない。とはいえ、このスタイルが生まれたからこそ、拓也の音楽は初めて多くの人に届きつつある。ここで諦めてしまったら、せっかくのチャンスを棒に振るようで惜しい気がした。


 悩んだ末、拓也は友人やネットの仲間たちに相談し、「回数や時間帯を限定して、配信スケジュールをしっかり決める」という折衷案を考え出す。夜の遅い時間は配信をせず、代わりに夕方や土曜の昼間など、周囲に迷惑になりにくいタイミングで短時間だけライブを行う。SNSでも「ご近所様に配慮しながら楽しくやります!」と宣言し、ファンにも理解を求めた。


 すると、思いのほか多くの支持や協力の声が寄せられた。「好きなアーティストを応援したい気持ちはあるけど、周りに迷惑をかけたくはない」というのはファンの本音でもあったのだ。これにより、インターホン路上ライブは表面上、なんとか“平和路線”へとシフトすることに成功する。


 もっとも、問題はそれだけではない。話題になってきたことで、今度は音楽関連の雑誌やテレビのローカル番組から取材申し込みが届き始める。なかには悪意こそないものの、“面白おかしく”取り上げようとするメディアも多かった。


「こちら、芸能関係の〇〇プロダクションなんですが、面白い企画をやりませんか? インターホンを使った企画ライブで……」


 本人にとっては命懸けのアイデアでも、多くの人からすると単なる“珍ネタ”扱いなのが現実だ。嬉しい反面、そこには“本気のアーティスト”として評価される喜びは少なく、いくばくかの寂しさも混ざっている。それでも、今は自分の音楽を広める機会になり得るのだから、うまく乗りこなすしかない。


 「まずは、ちゃんとした曲を一曲完成させよう」


 そう思い立った拓也は、インターホン越しの即興ソングだけではなく、“人に聴かせられる完成度のオリジナル”を作り始める。夕方のショートライブで歌い、SNSや動画配信でアーカイブを公開するのだ。メディアの取材が来ても、ただのネタ要員として終わるのではなく、「ミュージシャンとしての斎藤拓也」を印象づけるために。



 大家の川島に強く睨まれながらも、次なるステップを模索する日々。視聴者数やSNSの反響は増え続けているが、常に“退去命令”という危険が隣り合わせだ。一方で心の奥には、“ここを乗り越えてこそ、新しい景色が見える”という期待が膨らんでいる。

 音楽をやめたくない――その一心で、拓也は深夜のアパートの一室でギターを爪弾く。管理人と住民への申し訳ない気持ちを抱えながら、それでもメロディは止まらない。後戻りできない、いや、したくない――そんな思いが、彼の指先に熱を与え、真夜中の静寂に小さな音を刻んでいくのだった。


第7章 思わぬ取材オファーと新曲の行方


 「えっ、ほんとに取材来るの? しかもローカルテレビ?」

 薄暗いアパートの一室で、斎藤拓也さいとう たくやはスマホを片手に目を丸くしていた。そもそも“インターホン路上ライブ”は、ご近所トラブルを回避しつつ細々と続けていた企画。話題になっているとはいえ、多くのメディアからすれば“ちょっと面白いネタ”程度の扱いだと思っていたのだ。

 だが今回、ローカルとはいえテレビの制作スタッフから直接連絡が入り、「ぜひインターホンを使ったライブの様子を撮影させてほしい」という申し出があった。これまで雑誌の短いコラムやネットニュースの紹介はあったが、映像媒体でしっかり取り上げられるのは初めてのことだ。


 「でも、どうなんだろう……?」

 嬉しさ半分、不安半分。わざわざテレビクルーが来たら、アパートの住人や管理人の川島かわしまにまた睨まれやしないか。しかも“ちょっとオモシロ変人”として茶化されるのがオチかもしれない。結局は“本気のアーティスト”というより“珍妙パフォーマー”として扱われるだけなのでは――そんな懸念がぬぐえない。


 「でもまあ、せっかく声をかけてもらったし……このチャンス、逃してたら一生後悔しそうだな」

 結局、拓也は取材の話を受けることにした。どうせ今のスタイル自体が“奇策”なのだ。だったらその奇策を逆手に取って、自分のオリジナル曲をアピールすればいい。最近こつこつと作り込みを続けている、新曲の構想もある。テレビクルーの前で歌ってみせれば、ちょっとは“本気度”が伝わるかもしれない――そう思うと、不安の奥にワクワク感が芽生えてくる。


 数日後。アパートの前で待ち合わせたスタッフは、思ったよりもしっかりしたカメラや照明機材を抱えていた。小さなワゴン車から次々と現れるスタッフに、近所の住民たちは早速ざわつき始める。

 「あんた、またなんかやらかすんじゃないでしょうね」

 と川島が心配そうに声をかけてきたが、拓也は頭を下げつつ胸を張るように返事をした。

 「大丈夫です。ちゃんと時間も短くしますし、音量にも気を配ります。取材後には絶対、みんなで騒がないようにしますから」


 こうしてカメラが回る中、拓也は部屋の中からインターホンを通していつもの即興ソングを披露し始める。スタッフはその様子を撮影しながら、ワイワイと盛り上がり、笑い声や驚きの声が飛び交う。やっぱり“ネタ”としては相当おもしろいのだろう。しかし、ここまでは想定内。

 「ここからが本番だよ……」

 拓也は一呼吸おいて、最近作り始めた新曲のイントロをギターで奏でる。タイトルはまだ決まっていないが、少しメランコリックなメロディに、“誰かに届いてほしい”という想いを込めた歌詞が乗る曲だ。


 インターホン越しなので音質は微妙かもしれない。それでも、拓也の声には、路上ライブを夢見ていたころの挫折や、細々と音楽を続けてきた“リアル”がにじむ。取材スタッフたちは最初こそ「なんだこれ?」という顔だったが、その歌が始まると段々と真剣な表情に変わっていった。

 「斎藤さん……面白いだけじゃないんですね」

 スタッフの一人がつぶやいたのを、拓也は聞き逃さなかった。



 その瞬間、拓也の胸を熱いものが突き抜ける。茶化されるだけでなく、ちゃんと音楽として聴いてくれる人がいる――それがたった一人でも、彼にとってはかけがえのない手応えだ。

 取材班が帰った後のアパートには、微妙な静けさが戻る。近所の住民の視線は冷ややかかもしれない。でも、拓也は今日の収穫に胸を弾ませていた。この“インターホン”からまた一歩、別の扉が開くかもしれない。次はどんなステージが待っているのだろう。

 そんな期待と不安の入り混じったまま、拓也はギターをしまい、インターネットに「取材おわった! 新曲作成中」と短いコメントを投稿する。見知らぬ誰かに届くことを願いながら――。




第8章 突如訪れた大反響と新たなファン


 ローカルテレビの取材を終えた翌週。番組は平日昼間の情報バラエティ枠で放送され、斎藤拓也さいとう たくやの“インターホン路上ライブ”の様子が、お茶の間に流れた。さすがにゴールデンタイムでも全国ネットでもないが、それでも映像で見るインターホン越しの歌声は妙なインパクトを放ち、視聴者からは「なんだこれ!?」という反応が続出したという。


 放送日の夜、拓也のスマートフォンは通知の嵐。SNSのフォロワー数は見る見るうちに上昇し、コメント欄には「テレビ見ました!」「あの歌、耳に残る」「まさか本当に住人に怒られながらやってたとは」など、好奇心と興味本位が入り交じった書き込みが殺到した。もちろん、苦情めいたものもある。「ご近所迷惑だろ」とか「もっとちゃんとした場所で歌えばいいのに」といった声も少なくない。


 それでも、思わぬ形で幅広い層の人々に名前と歌声が届いたのは事実だった。特に、これまでネット配信をあまり見なかった中高年層にまで“あのインターホン青年”として印象に残ったらしく、「一度リアルで聴いてみたい」という問い合わせや、差し入れの品物がアパートに届くことも増えていった。


 しかも、そんな中にひと際目立つファンが現れる。かつて路上ライブ仲間だったという男性や、音楽好きの主婦グループなど、“共感”をベースにした人たちだ。彼らはただ笑いのネタとして消費するのではなく、拓也のオリジナル曲を本気で応援してくれようとする。

 「笑えるけど、なんか聴いてると癖になるんだよな」

 「歌詞に本気が見える。これからも新曲楽しみにしてるよ」


 こうした真剣なコメントに触れるたび、拓也は胸が熱くなる。自分が長い間夢見てきた「アーティストとして評価される感覚」に、ようやく少しだけ近づいている気がした。


 だが、その一方でアパート周辺の状況は決して安泰ではない。テレビで取り上げられたのをきっかけに、以前にも増して見物客や冷やかしが押し寄せ、夜遅くに「インターホン鳴らしてみていいっスか!?」と騒ぐ学生が現れることもしばしば。管理人の川島かわしまからは、あれほど厳重注意されたばかりだというのに、またもや「これ以上うるさくしたら即退去だからね!」ときっぱり通告されてしまう。


 さらに、最近は差し入れの量が増えすぎて、玄関前がちょっとした“宅配倉庫”状態に。インスタント食品やスナック菓子、挙げ句の果てには手作りクッキーやら果物やらまで山積みになり、さすがに食べきれないどころか、衛生面でも不安が出てきた。厚意とはいえ、これでは迷惑になってしまう。

 「嬉しいんだけど……これ、どうしたらいいんだろう……」

 拓也は頭を抱えながら、ひとまず近所の友人やバイト先の同僚にお裾分けをしたり、SNSで「差し入れはもう十分です!」と呼びかけたりと苦慮する日々。それでも次々に荷物が届く状態がしばらく続いた。


 そんな中、テレビの放送を見たという地元の音楽イベント関係者から、「商店街の夏祭りに出てみないか?」というオファーが舞い込む。しかも、ちゃんとステージを用意してくれるらしい。インターホンを使ったパフォーマンスで人を集めたいとのことだが、屋外でのライブに飢えていた拓也にとっては渡りに船だ。

 「やっと正々堂々と人前で歌える! しかも機材まで用意してくれるなんて!」

 久しぶりの“外での本格ライブ”に胸を弾ませながら、拓也は参加を即決した。管理人と近所トラブルに怯えながら歌うよりも、正式な場で堂々と歌ったほうがよほど健康的だし、何より観客にもしっかり聴いてもらえるだろう。


 ただし、イベント主催者からは「ぜひインターホンっぽい感じを再現してほしい」という要望もあった。いわば“珍ネタ”枠での出演であることは間違いないが、それを上手く逆手に取って自己アピールを狙えるかもしれない。

 「ここから一気にバズって、有名になれたら最高だよな……」

 管理人の怒声を背中で受け止めながら、拓也は大きな決断をする。まずは地元のお祭りで成果を残そう。そして、みんなに“インターホン越しの一発屋”ではなく、“本物のミュージシャン”だと証明するのだ。



 果たしてこの出演が、彼の音楽人生をさらにステップアップさせるのか、それとも一時のバブルで終わってしまうのか――。胸の高鳴りを抑えきれないまま、拓也はギターを抱え、夜な夜な新曲の仕上げに取りかかるのだった。




第9章 夏祭りパニック! インターホンの巻


 人混みと屋台の煙が渦巻く商店街の夏祭り。当日は猛暑にもかかわらず、斎藤拓也さいとう たくやは早朝からステージ設営の手伝いに借り出されていた。なにしろ「インターホン路上ライブ」という珍パフォーマンスを期待されているので、関係者からは「できればステージ上に“インターホン”を置きたい」という、とんでもない要望まで飛び出している。


「いや、インターホンってそもそも壁に埋め込むもんじゃないですか……どこに置くんですか?」


 拓也は汗だくになりながらステージ裏でスタッフに尋ねる。するとスタッフは得意げな顔で、どこから引っ張り出してきたのか分からない年代物の呼び鈴付きドアをドーンと指さした。


「じゃーん! これを舞台に置いて、コードでアンプにつないじゃいましょう! ほら、なんかシュールでウケるでしょ?」


 ウケるのは結構だが、どう見てもガタついていて今にも倒れそうだ。しかもドアの向こう側が丸見えなので、これでは“家の中から歌っている感”はゼロ。拓也は一瞬、「こんなのただのコントでは?」という不安がよぎったものの、せっかくの機会を棒に振るわけにもいかず、やむなく了解することに。


 その後、イベント開始直前になっても、機材の調整はまるで終わらない。インターホンから音が出たと思えばキーンというハウリングが起き、ドアがバタンと倒れてケーブルが引きちぎれそうになる。あげくの果てには、「ドアを一回叩くと電源が切れる」という謎の事象が発覚し、スタッフ全員が顔を真っ青にする始末だ。店先でかき氷を売っているオバちゃん達からは、「あんたら、どこのリフォーム業者なの?」と怪訝な視線を浴びる。


「やばい……このままだと演奏すら始められないかも……」


 誰より焦っているのは拓也本人だった。せっかくの“正式ステージデビュー”とも言える場を、ただの珍パフォーマンスで終わらせたくはない。しかしマイクテストのたびに謎のノイズが入り、どうにも締まらない状況が続く。


 そんなドタバタが続くうちに、本番の時間が迫る。周囲ではお囃子はやしが鳴り、浴衣姿の人々が往来を埋め尽くしている。ステージは小さいながらも観客がじわじわ集まり始め、「あ、インターホンの人だ!」と携帯を構える姿が見える。盛り上がりそうな空気は十分にあるが、機材が肝心の“インターホン部分”でトラブル続出という笑えない事態。


 結局、開始数分前にスタッフが強引にケーブルをガムテープで固定し、ドアの上には「押さないでください」とマジックで走り書きされた紙がぺたりと貼られた。さらに見栄えを気にするリーダーが、唐突に提灯を吊り下げようとしてドアの角に脚立をぶつけ、ガクンと揺れるドア。観客の失笑交じりのざわめきが広がるなか、司会者がマイクを握って一言――


「それでは皆様! 本日のスペシャルゲスト、“インターホンシンガー”斎藤拓也さんの登場でーす!」


 割れるような拍手とともに、半ば破壊しかけのドアから拓也がひょっこり顔を出す。ギターのストラップを肩にかけ、汗でテカるおでこをタオルで拭いつつ、苦笑いを浮かべながらご挨拶。


「えー、まさか夏祭りのステージにドアを持ち込むことになるとは思いませんでしたが……みなさん、楽しんでいってください!」


 会場のあちこちから「インターホン!」「ドア倒れるなよー!」と軽口が飛ぶ。しかし、拓也はここで曲を始めると同時に急にスイッチが入ったように真剣な顔つきになる。妙にノスタルジックな響きのする“インターホンを通した”ギターサウンドに乗せて、あの即興ソング「早く帰れ♪ 帰れ、めいわーーーく♪」をユーモラスに歌い上げると、会場は一気に笑いと拍手で包まれた。


「なにこれ、めちゃ面白い!」「でも意外とちゃんと歌えるのね!」


 笑い声と称賛が入り混じる中、続けてしっとりと新曲を披露するころには、観客たちの表情は“面白いだけじゃない”という雰囲気に変わっていた。テンポよく楽曲を回していくうちに、最初は倒れそうでヒヤヒヤしたドアすら“味”のように見えてくるから不思議だ。


 こうして夏祭りのステージは、ドタバタしつつも大成功を収めた。終了後、息つく暇もなく「サインください!」や「一緒に写真撮りたいんです!」と人だかりができ、拓也は嬉しい悲鳴を上げる。インターホンとドアが醸し出したシュールな光景はSNSでも拡散され、「シュールだけどクセになるライブ」「なんか、すごく元気出た!」と好意的なコメントも多く寄せられた。


 ただひとつ、片付け中にスタッフがうっかりドアをぶっ倒してしまったらしく、電気コードは完全に断裂。もはや再起不能の状態で発見されたという。祭りの片隅で放置された壊れドアを見つめながら、拓也は苦笑を浮かべつつ、心の中でこっそり合掌する。


「ありがとう、ドアよ。君の尊い犠牲はきっと音楽史に刻まれる……はず」



 薄暗い夏の夕空を見上げながら、彼は次の目標を胸に秘める。アパートの管理人を気にせずともいい、ちゃんとしたライブ会場で歌える未来――でも、そこにもきっと“インターホンの魂”は持っていくのだろう。妙な手ごたえと熱量を感じながら、拓也はシャツをぐっしょり濡らした汗をぬぐい、商店街のアーケードを一人、歩き出すのであった。




第10章 タワマン・インターホン大作戦


 ある日、斎藤拓也さいとう たくやのもとに、にわかに信じがたいオファーが飛び込んできた。どうやら以前の夏祭りライブを見たスポンサーが、「超高層マンション、通称タワマンのロビーで“インターホンライブ”をやりたい」という、実にぶっ飛んだ企画を立てていたらしい。

 「マジですか……タワマンって、あのテレビとかでよく見る雲の上にあるようなマンションですよね……?」

 バイト先のコンビニでレジ打ちをしながら、拓也はすっかり上の空。全く想像がつかない。木造アパート暮らしの自分が、いきなりタワマン最上階なんて……まるで異世界転生じゃないか。


 それでも「詳細は後日」と告げられて迎えた本番当日、拓也は高鳴る胸の鼓動を抑えきれないまま、都心のど真ん中にそびえ立つガラス張りの超高層マンションへと足を運んだ。エントランスの自動ドアが開くと、まるでホテルのような広いロビーが広がり、きらびやかな照明が来訪者を出迎える。

 「す、すげえ……高級ホテルかと思った……」

 心の中の“田舎者”が思わず叫ぶ。奥には警備員が常駐し、シャンデリアみたいな照明が豪勢に天井を照らしている。普段は完全に住民専用のスペースで、外部の人間が入れるような場所ではないはずだ。


 だが、今日に限っては様子が違った。会場(と呼んでいいのかは不明だが)となるロビーの端には、仮設ステージならぬ「インターホンスピーカー」設置エリアが設けられ、そこへ続く形で自然に人だかりができている。噂を聞きつけたファンや、面白がってやって来た一般客が、すでに大勢ロビーに集まり始めていたのだ。

 その数はざっと100人、いや、200人、さらに続々と増えている。管理会社のスタッフがあたふたと動き回り、なんとか誘導しようとするものの、高揚した観客はまるで観光名所の行列みたいにうねりを作っている。


 「ま、まじでこんなに人来るの……?」

 拓也が戸惑っていると、背広姿の主催者らしき男性がツカツカと近づいてきた。

 「斎藤さん、いよいよですね。今日は最上階からインターホンを使って音を飛ばします。すでにマンションの管理組合と打ち合わせは済んでるんで、思いっきりやっちゃってください!」

 唐突に差し出されるエレベーターキー。どうやら特別に、エレベーターで最上階まで行ける“住民限定キー”を貸してくれるらしい。


 こうして拓也は警備員に促されるまま、ガラス張りの超高速エレベーターに乗り込む。背後にはカメラマンやスタッフがバタバタと追いかけてくる。ボタンを押すと、一瞬にして視界がぐいっと持ち上がり、東京の街並みがみるみる下に沈んでいく。頭がクラクラするような浮遊感に襲われながら、拓也はギターケースをギュッと握りしめた。


 やがて辿り着いたのは、雲を突き抜けるような最上階の部屋。まるで高級ホテルのスイートルームのような広さだが、壁際にずらりと並んだインターホン関連の機器が、今日の“舞台”であることを主張している。どうやら、この部屋の管理室からロビーのスピーカーに音声を飛ばす仕組みになっているらしい。

 「じゃあ、ここでギターを弾いて、歌えば、あのフロアにいる人たちに届くってことか……」

 想像するだけでドキドキする。しかも下のロビーには、もはや数百人規模の観衆が待っているというではないか。確実にこれまで経験したことがない“大舞台”だ。


 主催スタッフが手早くマイクやオーディオミキサーをセッティングしてくれ、音声チェックが始まる。ヘッドセットを通して聞こえるロビーのざわめきは、まるでコンサートホールさながらだ。

 「テステス、あ、あー。皆さん、聞こえますか?」

 たどたどしくマイクに声を通してみると、ロビーにいた観客が一斉に「おおー!」と歓声を上げるのがわかる。インターホンを媒介していながら、この反応とは……思った以上にハイテクな配線らしい。


 いよいよ本番の時間が来る。エレベーターホールで待機していた司会者が合図し、ロビーから拍手喝采が巻き起こる。カメラが回っている。SNSのライブ配信もスタートしている。

 拓也は大きく息を吸い込み、まずはお馴染みの“伝説(?)の即興ソング”から始めた。

 「早く帰れ♪ 帰れ、めいわーーーく♪」

 最上階から聞こえてくるまさかのセールス撃退ソングに、ロビーのあちこちから笑い声が上がり、手拍子が巻き起こる。見上げれば大きな吹き抜けがあり、その先に天空が広がっている――まるでマンション全体がコンサートホールと化したような不思議な感覚だ。


 続いて、しっとりとしたバラード曲を披露する段になると、空気が一変する。みんなが一斉に静まり、真剣に“天から降り注ぐ歌声”に耳を傾けている。その様子をモニター越しに見た拓也は、少しだけ目頭が熱くなった。

 「なんか……夢みたいだな。こんなにたくさんの人が、俺の歌を聞いてくれてる……」


 曲が終わるたびに、大きな拍手と歓声が湧き上がり、インターホン越しにも伝わってくる。“インターホン路上ライブ”が、まさかこんな形で発展するなんて、誰が予想できただろう。最上階の部屋に響く拍手の余韻に、拓也はただただ感謝の気持ちを噛みしめる。


 ライブ終了後、ロビーでは即席のサイン会(というか握手会)が開かれ、警備員は対応に追われていた。あっという間に千人近い人々が詰めかけたらしく、もはや“ライブ”というより“フェス”状態だ。すっかり大騒ぎになったマンションの住人たちは、呆れ顔で遠巻きに見つめていたり、逆にノリノリで参加したりと反応はまちまち。

 最上階の部屋を後にしてエレベーターに乗り込むとき、拓也はガラス越しに東京の街を眺めながら思う。

 「この景色から、次はどんな歌が生まれるんだろう。インターホンじゃなくても、もっと大きな舞台で歌ってみたい……」


 タワマンとインターホン。まったく釣り合わないと思っていた組み合わせが、思いがけず素晴らしいハーモニーを作り出した。自分の音楽が広がっていく手応えとともに、ふと胸に芽生える野心。

 「次はどこで、どんな風に俺の歌を届けようか。もっと、とんでもない企画ができるかも……」



 満員のエレベーターの中、首にタオルをかけた拓也は、汗とともに新たなアイデアが湧き上がってくるのを感じていた。夢はまだまだ、天井知らずだ。




第11章 衝撃のメジャーデビュー宣言?


 タワマン最上階からの“インターホンライブ”を大成功に収めた翌週。斎藤拓也さいとう たくやはまだ夢見心地だった。なにしろ当日はマンションのロビーに1000人近い人々が詰めかけ、SNSでも「天から降ってくる歌声」「タワマンとインターホンが融合する神イベント!」と大盛り上がり。家に帰ってからも通知が鳴り止まず、コメントやメッセージの数に埋もれるような状態だった。


 そんな中、ひときわ目を引いたのが、ある大手レコード会社からのDMダイレクトメッセージだった。最初は悪戯か広告だろうと思いつつ、ざっと本文に目を通してみると――


「突然のご連絡失礼いたします。私は○○レコードのA&R担当・室井むろいと申します。

先日のタワマンライブの動画を拝見し、ぜひ一度お話を伺えればと思い、ご連絡させていただきました。

近いうちにお会いできる機会があれば幸いです。」


 ……どう見ても本物じゃないか。A&R担当というのは、要するにアーティスト発掘と育成を行う部署の人間だ。売れない時期が長かった拓也にとっては憧れの存在でもある。「まさかあのインターホン芸(?)が本物の音楽業界人に届くとは……」と、思わず天井を仰いでしまう。


 数日後、指定されたカフェで待ち合わせた室井は、思ったよりも若く落ち着いた雰囲気の男性だった。資料を整然とテーブルに並べながら、こう言葉を切り出す。


「正直、最初は“おもしろ動画”として話題になってるのかなと見ていたんです。でも、歌詞とメロディのインパクトもさることながら、歌声に芯があるんですよね。これは単なる一発芸じゃないぞと」


 あまりに真面目なトーンで語られるものだから、拓也は「あの、俺、インターホンでふざけて歌ってただけなんですけど……」と言いかけて言葉に詰まる。実際、自分ではネタ感を否定できない部分が大きい。ところが室井は、まるで発掘した原石を磨く職人のように目を輝かせながら、続けた。


「この“インターホン”はキャッチーなフックになります。いまやSNSで一目置かれているし、ライブの演出としても斬新です。それをきっかけにして、きちんとした音楽性をアピールできれば、化ける可能性は十分あると思いますよ」


 ――きちんとした音楽性。

 その言葉を聞いた瞬間、拓也の胸は少し熱くなった。これまでは周りから「インターホン芸人みたいで面白いね!」と言われることが多く、本当に自分がアーティストとして認められているのか不安になることもあった。けれど、こうやって大手レコード会社のA&Rが“音楽的魅力”を感じ取ってくれたというのは、素直に嬉しい。


「もしよろしければ、うちでシングルを出してみませんか? もちろん、まだ企画段階ですが、こちらとしては本気で検討してます。タイトルは……そうですね、すでに話題になっている“うるさいわ”なんてどうでしょう?」


 “うるさいわ”――。

 言われてみれば、インターホンを通じてセールスマンに怒鳴ったり、タワマンライブの時もファンに連呼したり、何かと口走ってきたフレーズだ。自分の代名詞にするにはインパクト十分。まさか、こんな言葉がメジャーデビュー曲のタイトルになろうとは……。


 話はトントン拍子に進み、後日、本社ビルで室井と上司を交えた打ち合わせが開かれることが決まった。すでに会社内でもプレゼンが通っており、「インターホン路上ライブの男を売り出すぞ!」というプロジェクトが着々と立ち上がっているとのこと。

 ただし、その過程で問題点も指摘された。まずはやはり“騒音トラブル”のリスク。インターホンを使ったライブスタイルはユニークだが、ファンや野次馬が殺到して近隣に迷惑をかける恐れがある。そこでレコード会社としても「公式に管理された場所」「安全に開催できる舞台」でのライブを強く提案してきたのだ。


「アパートの管理人さんや近所の住人に迷惑をかけるのは、本末転倒ですからね。プロとして活動するなら、なおさらルールは大事です」


 室井の言葉は至極真っ当である。拓也も自分がどれだけ周囲に負担をかけてきたか、痛感している。「メジャーデビュー」となると、これまで以上に多くの注目が集まる。音楽活動を続けるためにも、無謀な“ゲリラインターホンライブ”は控えなければならないと覚悟を決めた。


 帰り道、拓也は浮き立つ気持ちを抑えられず、街中をスキップしたい衝動に駆られながらも、「いや、ここで舞い上がってはダメだ」と自分に言い聞かせる。

 実際、メジャーデビューという言葉は甘美すぎる響きを持つ。だが、それが約束されたわけではない。まだ契約書にサインしたわけでもなければ、CDプレスの最終決定が下りたわけでもない。「企画段階」という不確定要素のかたまりだ。

 それでも――。

 「俺の音楽が、いよいよ本当に届くかもしれないんだ……」

 何度も何度も、心の奥から小さな炎が燃え上がるのを感じる。ギターケースを抱きしめる手に力がこもる。木造アパートに帰り着くと、部屋のインターホンを見る目つきが、いつもと違っていた。

 これまでただの“愉快な道具”だったそれが、いまや自分の世界を一気に拡げてくれたシンボルに見える。

 「よし……。このまま突き進むしかないっしょ!」



 床に広げたノートには、まだ書きかけの曲がいくつも転がっている。いつも布団の枕元に置いているギターを手に取り、拓也は夜遅くまでペンと弦を行き来しながら、新たなフレーズを探し続けた。

 “うるさいわ”というタイトルが、明日にはもっとかっこいい曲になっているかもしれない。そんな期待とともに、彼の夜は更けていく。




第12章 レコーディングで大パニック!


 「それでは、スタジオ入りまーす!」

 明るい声とともに案内されたのは、都内の有名レコーディングスタジオ。床はふかふかのカーペット敷きで、壁には無数の吸音材が貼られている。売れない日々が長かった斎藤拓也さいとう たくやにとって、こんな本格的な場所は初体験だ。

 しかも今回のプロジェクトは、彼の“メジャーデビュー”の足がかりになるかもしれないというのだから、否が応でも緊張は高まる。下手なことをして「やっぱりインターホン芸人だったな」などと言われたら、もう先はない。


 「あ、どうも……よろしくお願いします!」

 拓也は巨大なミキサー卓の前に陣取るサウンドエンジニアと、今回プロデュースを担当する室井むろいにペコペコ頭を下げる。カンペキな挨拶をするはずだったのに、緊張で声が裏返った。


 さて、今日の収録曲はもちろん「うるさいわ」。もともとはインターホン越しのセルフツッコミや即興フレーズとして誕生した曲だが、レコード会社側の提案で改めて歌詞をふくらませ、サビもキャッチーに仕上げてある。

 問題は、その“インターホン要素”をどう再現するかだ。ミュージックビデオなどでネタとして扱うのは簡単だが、音源としてどう反映させるかは試行錯誤の連続。途中で「ピンポーン」という電子音を差し込むべきか、いや過度な効果音は安っぽいかもしれない……など、スタッフたちの意見は割れに割れた。


「たとえば、曲の冒頭に『ピンポーン』が鳴って、主人公が『うるさいわ!』って返すのはどうでしょう?」

「いやいや、ナレーションっぽくなるのは避けたいですよ。あくまで音楽重視で行かないと」

「でもインターホンがウリなんだから、外しすぎると“らしさ”が消えませんか?」


 なかなか結論が出ず、スタジオ内は会議室化していく。

 一方、当の拓也はブースに立ったまま、ヘッドホン越しに議論を傍聴し続けている。全員が口々に「インターホン!」「ピンポーン!」と叫んでいる様子は、完全にカオス。バイト先のコンビニには絶対こんな光景はない。


 「ごめん、ちょっとだけ僕から提案いいですか?」

 見かねた拓也が恐る恐る口を開く。

 「『ピンポーン』の音って確かに大事なんですけど、そこは控えめに入れるくらいがちょうどいいかと。メロディに自然に溶け込んでくれたら最高ですね。あとは――うん、僕の声をしっかり聴いてほしいかもです」


 インターホンで注目を浴びたのは事実だ。しかし、この曲は単なるネタではなく“自分のメッセージ”を込めたもの。そこをないがしろにされたくない――そんな思いが、言葉の端々ににじむ。

 すると室井はうなずきながら、「そうだね、斎藤くんの声こそが要だ。よし、エンジニアさん、仮テイク撮りましょうか」と即座に指示。ブース内が一気に準備モードへ切り替わる。


 「じゃ、斎藤くん、本番いってみようか。深呼吸して、リラックスしてね」

 パネル越しの室井がサインを送る。拓也はヘッドホンをぎゅっと押さえ、心を落ち着かせる。背筋を伸ばしてマイクに向き合う姿は、木造アパートで“インターホン越しに”ふざけ半分に歌っていた頃とはまるで別人のようだ。


 音源がスタートする。軽快なギターのカッティングに続き、オケが流れ出す。最初の小節で、自分の声がしっかり乗るように息を整え、拓也は思い切り歌い始めた。


 「うるさいわ……!」


 その瞬間、スタジオの空気がピリッと引き締まる。誰もが、思ったよりも力強く伸びるボーカルに耳を奪われる。あちこちで無言のまま頷くスタッフたち。ようやく“インターホン芸人”から“アーティスト”へと本格的に変わろうとしている瞬間――拓也自身も、それを肌で感じ取っていた。



 収録ブースの向こう側に、インターホンはない。けれど、確かに音楽は届いている。そんな確信に満ちた、熱いファーストテイクが始まるのだった。




第13章 「うるさいわ」発売決定とリリースイベントの騒動


 レコーディングを無事に終えた翌週、斎藤拓也さいとう たくやは早朝から落ち着かなかった。なにしろ今日は、レコード会社で正式に「うるさいわ」のリリース日を決める大事な打ち合わせがあるのだ。

 思えば、木造アパートのインターホン越しに、半ばヤケクソで歌ったのが始まり。それが今、メジャーデビューシングルとして世に出るだなんて、人生は本当に分からない。バイト先のコンビニの防犯ベルが鳴るたび、「ピンポーン」を連想していた昔の自分を思い出し、「あの頃の俺は、こんな展開想像すらできなかったよな……」としみじみする。


 指定の会議室へ行くと、担当の室井むろいとエンジニア、そして宣伝チームのメンバーがズラリ勢揃い。かつてないほど人数が多く、しかも皆が真剣な表情をしている。「うるさいわ」という一見ふざけたタイトルとは裏腹に、社内ではかなり期待が寄せられているらしい。


 「えーと、それでは早速ですが……」

 室井がホワイトボードに“うるさいわ 〇月〇日リリース決定”と書き込み、会議室内に拍手が起こる。拍手を受けつつも、拓也本人はまだ実感が湧かない。が、それも束の間。今度は宣伝チームの女性が矢継ぎ早に説明を始めた。


 「今回のシングルは、まず配信でリリースし、それからCDを限定プレスします。初回限定盤には“インターホン仕様”の特製ジャケットを予定していて……」

 「さらに発売日の週末には、イベントスペースで“リリース記念インターホンライブ”を開催します。例のタワマンライブみたいに、“上階から音を飛ばす”演出とか面白そうですよね!」


 彼らのプランは、もはや“インターホンをフックにした総合エンタメ”と言っても過言ではない。ジャケットに小さく「ピンポーン」と書かれたステッカーを貼る案や、当日限定で「インターホン型キーホルダー」を配布する案など、次々に斬新なアイデアが飛び出す。テンション高めのスタッフ陣を前に、拓也は嬉しい反面、若干の戸惑いも覚える。

 ――本当にこれでいいんだろうか。ギャグっぽくされすぎていないか?

 とはいえ、ありがたいことに“音楽性”もきちんと評価してくれているのは確か。デビューのチャンスをつかむなら、この波に乗らない手はない。拓也は覚悟を決めて、「どんと来い」とばかりに胸を張る。


 こうしてリリースイベントは、都心の大きな商業施設のホールで行われることに決まった。屋内の多層構造を利用して、最上階からインターホン越しに歌声を流す――要は“タワマンライブ”の商業施設版だ。問題は、どうやって機材をセットするかだが……そこはレコード会社のスタッフがノリノリで準備を進めている。

 やがてイベント告知がSNSや公式サイトで解禁されると、あっという間に拡散され、「楽しそう!」「またあの天井から響く感じを体験したい!」「うるさいわ、いよいよデビューか!」など、大勢のファンが湧き上がる。昔は動画再生数が二桁か三桁しかなかったのに、今では何万ものいいねがつくまでに成長しているという事実が、拓也の胸を熱くした。


 しかし、準備が進むにつれて案の定、ハプニングも続出。

 まず、ホールと最上階を繋ぐインターホンの配線が異常に長い上に規格が合わず、専用の音響機材屋を総動員して改造する羽目に。しかもテスト中に「ピンポーン」の音が延々とホール内に鳴り響き、館内放送と混線して「ただいま2階売り場でセール実施中でーす、ピンポーン♪」と奇妙なアナウンスが流れる騒ぎになった。

 当日リハーサルに立ち会った館内のスタッフからは、「うるさいどころか混乱します!」と本気で怒られ、室井は平謝り。この時点で“うるさいわ”が本格的に実行されている感が漂いはじめる。


 そして、いよいよリリースイベント当日が訪れた。休日のショッピングモールは朝から多くの家族連れやカップルで賑わい、ホールのあるフロアには長い列ができている。開演直前には、すでにキャパシティを超えそうな熱気に包まれ、警備員やスタッフは誘導に大わらわだ。


 控室で待機していた拓也は、いつものギターケースを握りしめながら、大きく深呼吸する。

 「緊張するけど……せっかくここまで来たんだ。思いっきりやるしかない!」

 そこに室井が駆け寄ってきて、「準備OKだ、斎藤くん!」と力強く頷く。なんでも最上階の臨時スペースにインターホンを設置し、ホール側には巨大なスクリーンをセット済みだという。あとは拓也が登って歌うだけ――と言いたいところだが、予想以上に群がる観客をかき分けてエレベーターへ向かうのが既に一苦労だ。


 舞台裏から会場を覗けば、ステージ付近にびっしりと詰めかけた観客。そして2階や3階の吹き抜け回廊には見物する人がズラリと並び、まるでコロシアムのような大騒ぎになっている。

 しかし、不思議と拓也はその光景を見た瞬間、かえって落ち着いた。かつてはアパートの狭い玄関で、インターホン越しに小さく歌っていただけなのに……今やこんな大勢の前で“インターホンライブ”を披露できるまでになった。

 「よし、行くぜ!」


 ギターを背負って大慌てでエレベーターに乗り込み、最上階の簡易スタジオへ。扉が開くと同時に、通信テストの「ピンポーン」が鳴って、下のフロアからは割れんばかりの歓声がドッと押し寄せる。

 マイクの前に立ち、息を整える。ブースのパネル越しに室井の声が聞こえる。

 「みんな待ってる。最高の“うるさいわ”を、頼むよ!」


 拓也は胸に手を当て、アパートで夢を追っていた自分の姿を思い出す。もう二度と引き返せないし、引き返したくもない。笑われてもいい、インターホンを押したその先に、きっと大きな扉が開くはずだ。

 「――よし……いくぞ!」



 深呼吸してマイクに向かうと、画面の向こうで待ち受ける観客の熱気がビリビリと伝わってくる。こんな場所で、こんな規模の“路上ライブ”をやるとは、誰も想像していなかっただろう。だけどこれが、“インターホン”を武器にした男の道。その先にある大きなステージを夢見ながら、拓也の指先は弦を弾き始める。

 その瞬間、ホールのフロアに響き渡るギターと歌声――“うるさいわ”。発売日当日の狂乱と熱気に包まれた“声”が、吹き抜けを震わせるのだった。




第14章 「うるさいわ」リリース記念、大混乱の一日


 発売日当日のリリースイベントは、まさに予想をはるかに超えた大盛況だった。巨大ショッピングモールの最上階とホールフロアを繋いだ“インターホンシステム”は、テストを重ねた甲斐あってか、驚くほどクリアな音質で斎藤拓也さいとう たくやの歌声を響かせた。

 冒頭こそ「ピンポーン」というコール音に観客がどっと沸き、スマホを掲げる人の森が一斉にゆらめく。ホールのステージ上には誰もいないのに、天井から音楽が降ってくるのだから、そりゃもうシュールな光景だ。だが、曲が始まるやいなや、その歌声に飲み込まれるようにみんな一斉に聴き入っていく。


 「うるさいわー!」

 アップテンポで始まるサビに、会場では手拍子が起こり、謎の「うるさいわコール」まで巻き起こる始末。思わず施設の警備員が「静粛にお願いします……」とアナウンスするが、アナウンスそのものも「ピンポーン」と混線しそうになり、もう何がなんだか分からない混沌こんとん状態だ。

 その上、ファンの間ではいつの間にか曲中の“合いの手”として「はーやく帰れ♪」を入れる文化が生まれており、あちこちから聞こえてくるそのフレーズに、買い物に来ただけの一般客は目を丸くして通り過ぎていく。「あの人たち、いったい何を帰そうとしてるの……?」と首をかしげる子どもまでいて、微笑ましいやらカオスやら。


 一方、最上階の簡易ブースでは、室井むろいをはじめレコード会社スタッフが総出でサポートしていた。インターホン接続を扱うオペレーターからは、「例の“うるさいわコール”が大きすぎると、マイクにハウリングが起きます!」と悲鳴が上がる。あちこちでメーターが赤く振り切れ、慌てて調整に走る音響チーム。

 「斎藤くん、盛り上がってるのはいいんだけど、声がこっちに戻ってきてる! マイク離して! マイク!」

 室井がパネル越しに絶叫するが、拓也も演奏に集中していてなかなか気づかない。ギターをかき鳴らしながら、歌詞の合間にインターホンを通じて「お前ら、楽しんでるかーーー?」と叫ぶと、そのたびに下のフロアからは爆音の返事が返ってきて、さらにフィードバックがかかるという悪循環だ。


 しかし、その混乱ですらライブの熱狂を加速させるスパイスになった。SNS配信を通じて様子を見ていた人たちが次々に駆けつけ、気づけばホールだけでなく周辺の吹き抜けフロアまで人で埋まっている。

 「うわ、こんなに集まっちゃって大丈夫か……?」

 警備員が真剣な顔で心配するが、ここまで来ると収拾はつかない。館内放送が「現在、ホール付近が大変混み合っております。皆さまご移動の際は安全に……」などと繰り返し流すものの、興奮気味のファンたちは誰一人として動こうとしない。「帰れと言われても帰りませーん!」と“帰らないコール”まで飛び出し、いよいよスタッフはパニック寸前である。


 とはいえ、肝心のライブ自体は大成功。曲が終わるたびに大きな歓声と拍手がロビーやフロアにこだまし、拓也はその反応をイヤモニ(イヤーモニター)越しに聞いて胸を震わせていた。

 「ほんとに……たくさん来てくれたんだなあ……」

 最初は“インターホン芸人”扱いされるのが怖かった。しかし、彼の声を、音楽を、本気で楽しみたい人がこんなにいると実感したら、むしろ笑われることすら愛おしく思える。「お祭り騒ぎが好きなんだよ!」と高らかに笑ってもらえるなら、それこそこの“ヘンテコ路上ライブ”がやってきた意味があるというものだ。


 イベント終了後、ようやく下のフロアへ下りた拓也を待ち受けていたのは、あまりの熱気でクタクタになった室井と宣伝チームの面々。警備員や館内スタッフから軽い説教を受けつつも、みんなの顔にはどこか安堵と達成感がにじんでいる。

 「ご迷惑おかけしました……でも、最高の盛り上がりでしたね……」

 室井が肩で息をしながら微笑むと、拓也は弾けるような笑顔で答える。


「いやあ、本当に“うるさいわ”だった……でも、こんな“うるさいわ”なら、何度でも経験したいですよね!」


 館内放送がようやく通常モードに戻るころ、フロアにはまだ熱気の残り香が漂っていた。あちこちでスマホを見返してニヤニヤする人や、友達同士で「もう一回ライブやんないかな」なんて話しているファンの姿が見える。

 ギターケースを背負いながら、拓也はそんな光景を胸に焼きつける。この“うるささ”こそ、今の自分の音楽が放つエネルギーの証。いつかもっと大きなステージで、もっと多くの人に響かせたい――そう強く思う瞬間だった。



 あの古いアパートの小さなインターホンから始まった奇妙な挑戦が、こんな規模でうるさく盛り上がる日が来るなんて。人生というインターホンは、どこで鳴るか分からない。ひょっとすると次は、さらにとんでもない場所から声が降ってくるのかもしれない……そんな予感を抱えながら、拓也は汗ばんだシャツを拭って、笑顔で手を振り続けていた。




第15章 「もうお腹いっぱいです、ピンポーン」


 「いや~、マジで傑作だわ……どこまで行っても“うるさいわ”だな、俺は……」

 休日の午後、斎藤拓也さいとう たくやは木造アパートの自室でギターを抱えながら、苦笑いを浮かべていた。リリースイベントを経て、シングル「うるさいわ」は好調な売れ行きを見せ、各種配信チャートでも上位に食い込む。しかもSNSやテレビでは“インターホンの歌手”としてすっかり有名になり、連日のように仕事やコラボのオファーが舞い込んでくる状態だ。


 だが、拓也は正直ちょっと嫌になっていた。あまりに「おいしい話」が多すぎるのだ。

 たとえば、あるCM企画では「家電メーカーのインターホン新商品とコラボしませんか? あなたが“うるさいわ”と歌うとドアが自動で閉まるギミックを考えています」なんていうぶっ飛んだ内容。ほかにも「ショッピングモール各店の呼び込みソングを作ってほしい」「営業マン向けの研修ビデオに出演してくれ」とか、奇妙な依頼が次々に舞い込む。

 確かに悪い話じゃない――いや、おいしすぎるくらいだ。でも、なんというか全部が“インターホン芸人”としてのイメージに寄りかかっていて、彼の胸には少しだけモヤモヤが残る。


 レコード会社からも、「ここが踏ん張りどころだよ、斎藤くん。一気に有名になって、もっと大きいステージに行こう!」と熱心に言われる。室井むろいを始めスタッフは皆、善意と情熱にあふれていて、決して悪い人ではない。むしろ「もっと斎藤拓也の曲の魅力を伝えよう」と頑張ってくれている。

 しかし、こうして天から降るように“おいしい話”が連発すると、逆に「インターホンを外した俺に興味を持ってくれる人はいるのか?」と不安に駆られることも増えたのだ。


 そんなある晩。帰宅後にアパートの階段を上りながら、ふと玄関脇のインターホンを眺めると、なぜか懐かしい気持ちがこみ上げてきた。あの日、セールスマン相手にヤケクソで歌ってしまったのが、すべての始まり。売れなくてイライラしていた自分が、こんな未来を想像できただろうか。

 「なんだかんだ言って、この子のおかげなんだよな……」

 拓也はそっと指先でインターホンを撫でる。いまや自身の代名詞であり、成功のきっかけでもあるこの小さな装置が、時に窮屈なかせにも感じられるのだから不思議だ。


 部屋に入ってカバンを投げ出すと、今日は珍しくインターホンが鳴る気配はない。以前なら騒ぎを聞きつけたファンが押しかけてきたり、管理人の川島かわしまさんが苦情を言いに来たりするのが日常だったのに、ここ数日は、やけに静かだ。

 「やっぱりアパートって落ち着くよなあ……タワマンも商業施設もいいけど、家賃3万円台の味わいってのも捨てがたいぜ……」

 クーラーの効きがイマイチの古い部屋で、のんびりギターを爪弾いていると、不思議と心が和む。


 ところが、翌朝。コンビニでバイトを終え、携帯を確認してみると、まるで集中豪雨のように新着メッセージがたまっていた。

 「ど、どうした?」

 慌ててSNSを開くと、フォロワーからの書き込みが殺到している。


「新曲いつ出すの? 教えて~!」

「テレビでもうインターホン封印って言ってた? 本当?」

「“うるさいわ”に続く第2弾期待してます! でも次は静かな曲希望!」


 噂によると、どこかのバラエティ番組で「斎藤拓也、インターホン卒業を検討中!?」みたいなテロップが出たらしく、それが一人歩きして騒ぎになっているらしい。実際、そんなことは一言も言っていないのだが……。


 さらに、レコード会社からも「次の新曲候補が数曲あるけど、全部“ピンポーン”要素を入れてほしい」と要望が来ていて、拓也は思わず頭を抱える。

 「俺の人生、どこまでインターホンまみれになるんだ……」


 それでも、その夜は曲作りに没頭した。なぜなら、彼は確かに“インターホン”でブレイクした男ではあるが、“音楽”そのものが好きで、それを続けるためにあらゆる奇策を打ってきたのだ。結果としておいしい話が山のように来るのはありがたいが、毎日「インターホン! ピンポーン!」と言ってばかりでは、さすがに自分を見失ってしまう。

 だからこそ、今ここで“斎藤拓也”としての歌を作る意味がある。


 気づけば夜が更け、窓の外が薄明るくなり始めていた。ギターを抱えたまま眠気で朦朧もうろうとしていた拓也は、唐突にあのフレーズを口ずさむ。

 「……早く帰れ……帰れ……」

 元祖インターホンソングの一部が、ふと静かなメロディに乗って出てきた。この歌は“ネタ”として生まれたはずなのに、なぜか人を笑顔にし、勇気を与え、ついにはメジャーデビューまで導いてくれた。

 「嫌とか言いながら、やっぱり俺、コイツ(インターホン)と一緒に歩んできたんだな」


 目を閉じてもう一度弦を鳴らす。すると、不思議と新しいメロディが湧いてくる。今度は“帰れ”だけでなく、その先へ進む言葉が生まれそうな予感がした。静けさの中にほんの少しの優しさを添えて、インターホンの音を思わせるアクセントを曲に加える――それは、かつての自分には想像もしなかった“進化”のかたちかもしれない。


 数日後。朝日の差し込むアパートの玄関に、再び「ピンポーン」という電子音が響いた。

 「はーい……」と出てみると、そこに立っていたのは意外な人物――なんと、管理人の川島さんだった。

 「どうしたんですか、こんな朝早くに……?」

 怪訝な顔の拓也に、川島はテレたような笑みを見せる。

 「あんたのCD、買ったよ。アタシんとこにも回ってきたからさ。聞くつもりはなかったけど、やっぱり気になってね。そしたら……うるさかったけど、いい曲だったじゃないか」


 思わぬ言葉に、拓也は胸が熱くなる。

 「ありがたいっす……あ、いや、ありがとうございます!」

 川島はあくまで素っ気ない態度ながら、「まあ、ちょっとだけうるさくても、あんたが立派になってくれるならそれでいいさ」とつぶやいて踵を返す。長いようで短かった“インターホン路上ライブ”の日々が走馬灯のように蘇り、拓也は一瞬、泣きそうになるのを堪えた。


 こうしていま、彼のもとには大きなステージの話からインターホン製造会社のCM出演オファーまで、あちこちから「おいしい話」が雪崩のように押し寄せている。人によっては「なんで文句言ってんの? こんなにチャンスあるのに」と思うかもしれない。

 でも、拓也にとっては自分の音楽を守りつつ“インターホンの呪縛”とも上手く付き合っていく、そんな新たな試練の始まりだった。


 ピンポーン――

 今日もどこかで訪問者がやって来る。そのたびに、「おいしい話、もうお腹いっぱいだよ!」と苦笑しながらも、拓也はギターを掴む。だって自分は結局、音楽を続けたいのだ。どんな騒ぎが起きようと、最後に笑って歌えるなら、それが最高の人生だと思うから。

 「うるさいわ」から始まった奇想天外な物語。どこで終わるのかは、まだ分からない。いつか本当に“インターホンの呪縛”を卒業する日が来るのか――それは神のみぞ知る。


 それでもきっと、彼の胸にはあの小さなインターホンが、ずっと響き続けている。ドアの向こうにいる見えない誰かとつながりたいという願いとともに。

 木造アパートの一室で、今日も斎藤拓也はギターを抱え、笑いながら口ずさむ。

 「早く帰れ……じゃなくて、どんどん来いよ、ピンポーン――」



 いまはまだ“おいしい話”がいっぱいで困るけれど、本音を言えば、そんな騒がしさも嫌いじゃない。インターホン路上ライブから始まったこの奇妙な旅は、これからもきっと大きな音を立てて続いていくのだろう。

最後まで本書をお読みいただき、ありがとうございます。人生とはままならないものですが、ときとして偶然や冗談めいた出来事が、大きな転機をもたらすことがあります。この作品では、まさに“インターホン”という一見しょうもないアイデアが、主人公の運命をぐいっと押し上げていきました。

「うるさいわ」「帰れ」といった言葉が、いつしか励ましや希望の音色に変わっていく――それこそが“音楽”の面白さであり、“物語”の不思議な力かもしれません。今後も、主人公のようにユーモアと熱意を武器に、思いがけない舞台へ飛び込んでいく人がいるかもしれない。そんな予感を胸に、ここで筆を置きたいと思います。最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

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