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5話

 イギリスから帰ると僕は再びりえちゃんと離れ離れの生活に戻った。海外の仕事も増えて、日本にいる事も少なくなった。りえちゃんとも電話のやり取りでしかコミュニケーションが取れないので僕の鬱屈は溜まる一方である。


「りえちゃんに会いたいな。」


声だけのやり取りしててもりえちゃんを感じられないのでどうにかデートできないかどうかスケジュールを見る。1ヶ月後に1日空いている場所があったので、早速りえちゃんに電話をかけてみる。


「もしもし。」


「りえちゃん、僕なんだけど今大丈夫?来月の15日ドライブでも行かない?」


「来月は友達と一緒にディズニーランド出かけるの。」


「そうか。」


近頃のりえちゃんはそっけない。前まで僕の誘いを喜んでくれていたのにむしゃくしゃする。僕はりえちゃんとの時間が欲しいのにどうしてこうもすれ違うのだろう。


「節さん、またすごい賞取ったんだってお母さんから聞いたの。おめでとう。」


「ありがとう、別にたいした事じゃないよ。」


「それとね。節さん、私好きな子がいるの。」


「は?」


僕は思わずりえちゃんにどすの利いた声で返してしまう。


「どうしたの?」


「ううん、ごめん。そうなんだ。どんな男子なの?」


「かっこよくてアイドルみたいな子なの。」


りえちゃんは僕が聞いてもいないのに好きな男についてベラベラと話し出す。サッカーが上手いだとか面白いだとか正直子供過ぎて話にならない。実際問題りえちゃんと同級生という時点で子供なのだが、りえちゃんの心を奪ったなんて論外だ。


「節さんって、デートとかどんな場所に行ったりするの?」


「僕?僕はあんまり経験ない。けど、行きたい場所に行けばいいんじゃないかな。」


「そっか、明日その子と友達の3人で遊びに行くの。だから、どんなこと行けばいいか分からなくって困ってるんだ。」


「そうなんだ。」


むしゃくしゃする。りえちゃんが僕以外の男に心奪われるなんてあってはならない事だ。これはなんとしてもその子供への興味を無くしてもらわないと。


「ちなみにどこら辺行く予定なの。」


「最近出来たショッピングモールだよ。一応、朝イチで映画見てから中を巡ろうって話になってる。」


「そうすると夕方までいる感じかな。」


「うん、その予定だよ。」


りえちゃんは明るい声で言った。明日は現場の打ち合わせと大学で講義があるから4時過ぎなら時間が空く。りえちゃん達の様子を伺いたいが、流石に間に合わないだろう。


「でも、男の子夜のイルミネーション見たいって言ってたんだ。だけど、夜遅いのはダメって言われるかも。」


「それなら、僕が家まで送ってあげようか。夕方で仕事終わるし大丈夫だよ。」


「いいの?」


「うん、いいよ。僕から雅美さんに言っておくから心配しないで。友達も僕が家まで車で送ってあげる。」


「節さん、ありがとう。」


りえちゃんは本当に嬉しそうな声で言った。りえちゃんを喜ばせられて僕も浮かれてしまう。邪魔者がいるものの、りえちゃんに会えるのだ。それに相手は子供だし、僕が何とか言えばりえちゃんも考えを改めてくれる筈だ。


 週が明けての金曜日、大学の講義を終えて大急ぎでりえちゃんがいるショッピングモールへ行くと3人はゲームセンターで遊んでいた。クレーンゲームに夢中なようで男子がぬいぐるみを取ってりえちゃんの友達に渡していた。


「那由多君ってユーフォーキャッチャー上手だね。」


「得意なんだ。なんだって取れるよ。」


りえちゃんの言っていた男子はりえちゃんの友達と思しき女子に照れ臭そうに言った。りえちゃんはと言うと2人の様子を何とも言えない顔つきで見ており、悲しそうだ。


「理恵子ちゃん、どれ欲しい?俺、なんでも取ってあげるよ。」


「えっと、どうしようかな。」


りえちゃんは慌てて目を泳がせていくつも並ぶクレーンゲームを眺めていると遠目から様子を見ていた僕と目が合った。


「私、トイレ行ってくるね。」


りえちゃんは僕の方に駆け寄ると僕の腰にしがみついた。


「大丈夫?」


「うん。けど、あまり2人の邪魔をしちゃ悪いから。」


りえちゃんは仲良さそうにしている様子を見て言った。


「那由多君、瑠夏ちゃんの事好きなんだって。友達がトイレ行ってる時に相談されたの。」


「そっか。辛かったね。」


僕は舞い上がる胸の内を悟られないようにりえちゃんの頭を撫でる。


「那由多君、イルミネーションを見ている時に友達に告白すらみたいなの。私、どうしたらいい?」


「悲しい事だとは思うけど、今回は諦めるしかないかな。あの様子だと変に割り込むのは不粋だし。」


僕は見てもいない2人の様子をあたかも見ている体でりえちゃんに言った。


「そうだよね。」


「このまま2人一緒にいるのりえちゃん嫌でしょ。これから僕と行動しない?2人の事もちゃんと家まで送るし、そっちの方が角が立たなくっていいと思うんだ。」


僕の提案にりえちゃんは悲しそうに頷くと僕の手を握り彼らの方へ戻っていった。

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