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一話

 「大きくなったら、お嫁さんにしてください。」


これは僕が大学院生だった時分、5歳のりえちゃんから言われた言葉だ。


「うん、いいよ。」


僕はりえちゃんから一生懸命作っていたたんぽぽの花冠をもらって母や母の着物教室の生徒さん達からの優しい眼差しの中、そう答えた。


 僕には前世の記憶がある。僕の前世は異世界の精霊でりえちゃんの前世であるリリアに恋をしていた。リリアもりえちゃん同様に魂が美しく、僕はりえちゃんを見て再び恋心を燃やしてしまっていた。


「りえちゃん、可愛かったな。」


夕方になり、りえちゃんがお母さんの雅美さんと一緒に家に帰るとたんぽぽの花冠を自室の机の上で眺めながら顔を赤くしてプロポーズしてくれたりえちゃんの姿を思い浮かべる。


 僕は今、23歳で来年から随分前に死んだ父の友人の建築事務所に行く事が決まっていた。しばらくしたら独立をするつもりでいるので、りえちゃんが結婚できる18歳になるまでには地盤を固める事は可能だろう。


「りえちゃんと住む家はどんな風にしようかな。」


僕はまだ先の未来に思いを馳せて、取り掛かっていた修士論文の仕上げに入った。


 僕は前世でも建築家として仕事をしていたので、建築の経験は他の誰にも負けなかった。その証拠に僕は数多くのコンペを勝ち取り、28歳に独立すると間も無くイギリスの図書館の設計をする事になった。


「節ちゃん、すごいわね。」


僕の家に遊びに来ていた雅美さんが母の話を聞いて僕に言った。


「別にすごくないです。」


「そうよ。話を聞いてればすごい話だけど、この子建築しか頭にないのよ。これで彼女の1人か2人いれば、私も安心できるのに。」


「そんなのいらない。」


僕はしつこくりえちゃん以外の女をすすめてくる母に言った。


「節ちゃんいい男だし、そのうち来るわよ。なんなら

うちの理恵子をもらってほしいくらい。」


「こんな息子でよければ、是非もらって欲しいわ。」


「今それどころじゃないし、必要ない。」


「全くすぐこれなんだから。」


母は困ったと言わんばかりに僕を見るとお茶を淹れ直す。


「雅美さん、朝りえちゃんと挨拶したんだけど大きくなったわね。」


「大きくなったのは良いけど生意気になっちゃってダメよ。この前なんか、テレビのアイドルが付けてたアクセサリー欲しいって騒いでたんだから。」


「アイドル。」


僕は思わず聞き返す。


「それって、メータっていう若い男の子のグループ?」


「違う違う。アイドルの葉月っていう女の子の付けていたのハートのネックレスが欲しいって言ってたのよ。そんなの無くすか壊すしかないんだから、いらないって言ってるのに聞かなくて。」


「可愛いじゃない。男の子のアイドルが好きなら一緒に応援出来るし、女の子ならそのファッションに話せるじゃない。うちはそういうのなかったから羨ましいわ。」


母は僕の方を見て言った。


「節ちゃんはどういう子が好きなの?」


「可愛くて、美味しそうに何かを食べる子が好きです。」


僕はうちでお菓子をたくさん食べて幸せそうにしていたりえちゃんを思い出して言った。


「りえちゃんは今日、学校ですか。」


「土曜授業で午前中だけね。午後からは友達の家に遊びに行くって言ってたわ。」


「そうですか。」


僕は雅美さんが来るならりえちゃんも来るものだと思っていたので肩を落としてしまった。りえちゃんは小学3年生の頃からうちにめっきりと来なくなっていた。それまでずっと僕のそばにいて遊んでいたので寂しくって仕方がなかった。


 それから雅美さんは母と色々話して帰って行き、僕は自室でりえちゃんが欲しがっていたというアイドルのネックレスについて調べた。カラフルなビーズで大きなハートのあるネックレスは確かにりえちゃんに似合いそうであった。僕は迷わず購入するとりえちゃんにプレゼントして喜んだ顔を想像して口角が緩んだ。


 2週間後、僕が学校帰りのりえちゃんを待っていると数人のランドセルを背負った小学生が群れを成して歩いて来た。その中にりえちゃんはおらず僕はその後も1時間近く家の前で待っていたが、りえちゃんが来る事はなかった。


 それから数日後、僕がイギリスに行っている間に母からりえちゃんてんかんの発作で入院した事を知らされた。その時の僕の心はりえちゃんの無事を確認したい思いでいっぱいになっていた。しかし、目の前の仕事をキャンセルする事は出来ない。僕のキャリアのかかったこの仕事を失敗に終わらせる事は今後の将来に深く関わる一大事だ。母のメールからは命に別状はないという事なので戻ったらすぐにりえちゃんの元に行く事を決めて目の前の仕事に取り掛かった。

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