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どうして乙女ゲームに転生してしまったのだ!



 つり上がった鋭い深紅の瞳。濡羽色のストレートヘア。毒を吐きそうな真っ赤な唇。いかにも悪役といった姿が鏡に映っている。何度も見てきた自分の姿だ。今まで必死に目を逸らしてきたが、そろそろ認めざるを得ないだろう。私は乙女ゲーの悪役令嬢に転生してしまったのだ!





 前世でマンガやラノベ、ゲーム等のヲタクだった私は、流行りに流行った乙女ゲー悪役令嬢転生ものも多少嗜んでいた。読者の立場としては非常に面白いジャンルだが、自分がその立場に置かれるとなると話は別だ。

だって、悪役令嬢転生ものといえば。定められた運命(はめつ)に抗ううちに、気づけばゲームの攻略対象者(イケメンども)から愛されていた……というのが定番である。私はそんな未来絶対に御免だ!なぜならば私はイケメンがだいきら……苦手だから!!どうして乙女ゲームに転生してしまったのだ!どうせ転生するならバトルものかギャルゲーに転生したかった!

 自室で頭を抱えていると、コンコンコンコンとノック音。恐らく彼女だろう。


「失礼します、お嬢様。もうすぐご到着されます。」


凛としたよく通る声。


「ええ、今行くわ」


 軽く乱れた髪を整え、部屋の外へ出る。出迎えたのは私の侍女のエレン。ブロンドヘアに琥珀の瞳。美しい容姿をした彼女は私が生まれる前から我が家に仕えているが、全くと言っていいほど見た目が変わらない。一体いくつなのだろうか……。


「では行きましょう。」


 向かう先はエントランスホール。今日はとあるお方が訪れる。





 私がこのバチェンス家の一人娘ダリアとして生まれて9年。この9年間、私はこの世界が乙女ゲームの世界であることを()()()()()()。まあ、ヲタクとしての知識から薄々察してはいたが、確信は持てなかった。なんせ私は()()()()()()()()()()()()()()()。では何故この世界が乙女ゲームの世界であると確信が持てたか。それは――


「おや、来たかね。ダリア。」


「おはようございます。お父様。」


 エントランスホールに既にいたのは今世の父親であり、バチェンス家の現当主であるビアード・バチェンス。威厳を保つために伸ばしていると以前に教えてくれた立派な髭に触れながら、彼は優しさが溢れ出たような柔らかい笑みをこちらに向ける。私と同じ紅い瞳であるはずなのに、この人の目からは優しい印象を受けるのは何故なのだろうか……。


「ああ、とうとうこの日が来てしまったのか……。ダリア、嫌になったらすぐに言いなさい。きっと、きっとどうにかしてみせるから……!」


「お父様、そんなことを言ってはいけませんよ。私は大丈夫ですから。それに高貴なお方と婚約できるなんてとても光栄なことですから、嫌なんて思っていません。」


「そうか……。ああ、それにしても私は何故あんなことを……!」


 ここ数日同じように繰り返している会話だ。

 ――国の第三王子と一介の令嬢の婚約。それは7年前、ただの酔いどれの口約束から決まったものだった。

 この国の国王と私のお父様は友人関係にある。同時期に生まれるそれぞれの子どものお祝いと称して一緒に飲むことになるのは自然な流れだったそうだ。そうして出来上がった二人の酔っ払い。先に言いだしたのがどちらかは分からないが、気づけば二人の子どもを婚約させることで話が盛り上がり、軽い冗談のつもりで婚約の約束が交わされた。数年経って国王が本気だったことを知った時にはもう既に正式な手続きが終わっていた――と。


 嫌になったらすぐに言えとお父様は言うが、そんなこと言えるわけがないだろう。バチェンス家は決して位の低い方ではないが、高いとも言えない。むしろこの婚約が結ばれること自体が奇跡とも言える。この婚約でいくつか位が上がるとはいえ、こちらから取り消すことなど不可能だろう。そう、いくら私が嫌がってもこれは既に決まったこと。決まったことなのだ……!お父様には大丈夫だと言うしかないが実際は嫌で嫌で仕方がない。だって、だって!第三王子は私の苦手なイケメンなのだから!


「遅くなって申し訳ありません。」


 決して大きくはないのによく響くアルトボイス。我が家の自慢の立派な扉が開かれ、真っ直ぐに視線をこちらに向けたのはとてつもない美少年。輝く金髪に透き通ったエメラルドの瞳。扉の向こうから差し込む日光によりまるで後光がさして見える。立っていたのは、私がこの世界が乙女ゲームの世界であることを確信した理由であるその人。


――私の婚約者兼『前世の弟の推し』であるオリバー・ノーゼンであった。



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