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露呈

「そんな、未来の話てたいそうやな。いったい何が言いたいの?」


 俺は言葉を選び、すこしおどけて未希ちゃんの話をうながす。未希ちゃんは、よっこいしょといいながらこたつに入った。


「りょうちゃんと六花って。高校の時つき合ってたやろ」


「えっ――」


 短い驚きの声がもれた。


「まあ、六花はすごいブラコンやったし。ふたりは血もつながってへんし。別におかしくはないわなあ。この村では白い目で見られるけど」


 未希ちゃんは、ニタリと笑い俺を見る。


 ここは、ふたりの関係を否定するべきなのか判断がつかない。というか、いったい何が目的なんだ。それに、神隠しの話とどうつながるのか。


 俺が何も言わないのを認めたと思ったのか、未希ちゃんの口は滑らかになる。


「あの日、うちに泊まることにしてって六花にお願いされてん。彼氏できたんやって悔しかったけど、そん時は相手、りょうちゃんやと思わんかったんやで」


 ねっとりとした言い方に、わけもなく追い詰められていくのを感じる。正座している足がしびれてきて、そのしびれが全身に広がっていった。


「六花がうちに泊まるって嘘ついた日の夕方、コンビニでりょうちゃんがコンドーム買ってんの見たて、うちのお兄ちゃんが教えてくれてん」


 唾を飲み込む音が、しずかな室内に響く。あの日のコンビニに未希ちゃんの兄がいたかどうか記憶を探っても、頭の片隅に何も残っていない。


「六花が誰かと泊まる予定の日に、りょうちゃんがコンドーム買ってた。そしたら、六花が行方不明に。これって偶然?」


 あの日、六花とサンマイで待ち合わせをして、俺はゴムを買いに行った。笑いが込み上げてくる。


 家を出る前にゴムの箱を見たら、残りがひとつしかなかった。足りないと思って俺はコンビニに走ったのだ。


 俺は、どれだけ性欲があったんだよ。やることしか考えてない、サルか。いや、今もサルか。毎晩六花の体をしたナニカとやってるんだから。


 自分を罵倒したところで、眼の前でニヤニヤしている未希ちゃんが消えるわけもなかった。


「あの日はたしかに、六花と会う約束してたんやけど、約束した場所に六花が来なくて」


「ほな、昨日聞いた時素直にそう言うたらええのに。やましいから、否定したんよなあ」


 嘘に嘘を重ねると、自分が何を言ったのかも忘れる。嘘を貫き通すほどの度胸が、俺にはない。


 窓の外から、雨音が聞こえてきた。とうとう雨が降り出したのだ。


「まあそういうことに、しといてあげてもええけど」


 未希ちゃんは俺の下手な嘘に、ごまかされたふりをしてくれた。でもその代償は?


「とにかく、うちはりょうちゃんにいますぐ六花と別れてほしいねん。六花が邪魔やし」


「はっ? ちょっと、意味が――」


 未希ちゃんの話は、脈略もなく飛躍する。ついていけずに、思考がとまる。


「もうとぼけんでもええって。ふたりはまだ関係続いてんのやろ。りょうちゃんがこの村に帰ってきて、焼け木杭に火が付いたって感じ? まあ、顔は六花やしなあ」


 若いくせに、えらく古臭い言い方をする。でも、『顔は六花』とはどういう意味だ。


「うちな役場の仕事、三月いっぱいで契約きれんの知ってる?」


 未希ちゃんは役場の臨時職員をしていると、たしかおばさんから聞いたが、三月いっぱいまでとは知らなかった。


「そしたらまた仕事探さなあかん。めんどくさいっていうか、この村出ていきたいねん」


「出ていったらええやんか」


 未希ちゃんの言葉に機嫌をとる思惑もあり、追随する。


「りょうちゃんも、そう思う? ほな、東京のりょうちゃんのとこに住まわして。そこで、職探すし。というか結婚してくれへん?」


 本当に未希ちゃんの話は飛躍しすぎる。今度はあっけにとられて、言葉さえ出てこない。なんなんだ、いったい。話の行く先がまったく見えず、それが逆に怖い。


「りょうちゃん、めっちゃ優良物件やん。イケメンやし、東京の大きい商社で働いてるんやろ。りょうちゃんのお母さんが自慢してたて、うちのお母さんが言うてたわ」


「いや、職探しは手伝ってあげられるけど。俺と住むのは無理や」


 ここで、いったん息を大きく吸い込む。こういうタイプの子にははっきり言った方がいい。そうしないと、どんどん要求がエスカレートしていく。


「俺と六花もここを出て、東京で結婚するつもりや」


 俺の台詞に未希ちゃんは目をみはり、大きな声でケラケラと笑いだした。


「えー!! 嘘やろ。あんなキモいのと。信じられへん」


「キモいって、そんなひどい言いか――」


 最後まで言えず、遮られる。


「キモいやろ。あれの中身、六花と違うやん」


「なんで、そんなこと知って――」


 俺のうっかりもらした言葉に、未希ちゃんは畳みかけてくる。


「なんやりょうちゃんも、知ってたんや」


「あ、いや、その――」


 声が、自分でも信じられないくらい震えている。本当に俺は大事な時にミスをおかす。


「うちと六花はずっといっしょに育ってんで。別にいっしょにいたくていたわけ違うけど、こんな狭いとこで遊べる子供なんて六花しかおらんかった」


 未希ちゃんの顔に、かすかな怒りが滲んでいく。


「ずっといっしょに育ってん。りっちゃんは素直でかわいいけど、未希ちゃんはなあって陰口たたかれながらな」


 そういえば高校の同級生が、未希ちゃんのことを六花の引き立て役と言っていたことを思い出す。俺はその時、否定も同意もしなかったが、その通りだと心の中で思っていた。


「最初は神隠しにあって、混乱してるんやと思ってた。けど、ちぐはぐやねんあれ。気持ち悪い。一生懸命六花のフリしてたけど、ばればれやって」


 未希ちゃんは勝ち誇った顔をして、高らかに言い切った。




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