29.推しが…推しがっっっ!
「アルゲイ…様?」
メルナの呼びかけに座っていた少年の方がビクッとと波打った。
そして、そろり振り向いた。
「…メルナ嬢?え。どうしてこんな時間に図書館にいるの?」
いえ、こちらのセリフですが。
なんなら、図書館のお爺さんに軽くあんたのこと連れ帰れ的な顔されて仕方なく声かけたんだよ?
アルゲイはジッとメルナを見つめる。
その表情は以前この場所で見せた明るいものではなく真顔で目つきはまるで、メルナの考えを読み取ろうかとするようだった。
「まぁ、私は本を返すのを忘れていたので返しに来ただけです。…では、ごきげんようっ」
えぇ。なんか今日の私の推しちゃん機嫌悪めじゃん?こーゆーときは変に話し込むよりさっさと帰る方が得策ね。
メルナはそのまま踵を返す。
パシッ。
メルナの腕を掴むアルゲイ。
「待って。夜も遅いし送るよ」
なんか怖いんだがっ!!
「いえ、外にノルド、護衛の者が待っておりますので1人で平気です」
「さぁ、行こっか」
アルゲイは開いていた本をパタリと閉じお爺さんに渡すと歩き出した。
もちろん、メルナの腕は掴んだままだ。
アルゲイさーーん、私達会話成り立ってませんよー?私ー、1人で帰れますってば!
「あ、あの?」
メルナがもう1度断りを入れようとした時、アルゲイが話し出す。
「国立図書館はね、だいたい19時を過ぎたくらいからめったに人が来なくなるんだ〜。
だから僕はその時間を好んで勉強に使ってる。どう?宰相の息子だって人並みに勉強してるんだよ。…がっかりでしょ!」
アルゲイは笑いながら語った。
がっかり?え?私が推しに!?
いやいやいやいや、むしろ笑顔の裏で努力してる系とかきゅんなんだがっ。
「私はかっこいいと思いますけど」
「え?」
私も前世で言われたなぁー。ちょーーーっと研究が好きなだけなのにガリ勉とか根暗とか。
そんなに勉強ばっかりして楽しい?とかも言われたっけ…楽しいわっ。
好きだからやってるだけでなんでそんなこと言われなきゃなんないんだろーね、バカバカしい。
「勉強せずに賢い人なんて神様くらいです。まぁ、貴族は努力なんてと笑う者も多いでしょうが。
実際国を動かす人が勉強もしたことないお馬鹿さんだったら国はすぐ滅びるでしょうね」
「お、お馬鹿さん…」
アルゲイは歩みを止めてボソッとつぶやいた。
「それに、アルゲイ様は本が…というより学ぶことがお好きでしょ?好きなことをわざわざ隠す必要なんてあります?陰口言う人がいたら、それこそ権力使って黙らせればよろしいかと」
メルナは空いている腕を腰に当てて「ふんっ」と鼻を鳴らす。
そのメルナの様子を見てアルゲイは数秒ポカーンとしていたが笑い出す。
「ぶっ。ふふふふ。あはははっ!やっぱりメルナ嬢って最高だねっ。でもそっか。そんな時こそ権力使っちゃうかぁ〜。ふふ、いいねその考えっ」
メルナに向けたアルゲイの瞳には少し涙が溜まっていて、それを指で拭いながら笑うアルゲイはとても美しかった。
夜の図書館の窓に差し込む月の光にふわふわゆれるオレンジ色の髪。
かわい。
「よしっ、じゃあ出口まで急ごうか!遅くなっちゃうと護衛の方心配しちゃうしね」
そう言ってアルゲイは、掴んでいたメルナの腕を離す。
ふぅ、やっと解放っすね。安心したのはほんの一瞬だけだった。
「いこっ」
そして、アルゲイはメルナの手を握った。
「へ?」
っっっ!ふぉぉぉ!?これは、
これはこれは…!もしやっ!!
「へへっ、さっきは腕強く掴んじゃってごめんね。やっぱり手をこうやって繋がないとねっ」
そう言って少し意地悪気に笑ったアルゲイはそのまま恋人繋ぎしたメルナの手の甲にちゅっとキスを落とした。
メルナは途端に顔をぷしゅ〜と真っ赤にする。
もうやだ。10歳怖いよ…と心の中でつぶやくのであった。
もうメルナの耳には届いてないだろうが、顔を赤らめ、素直に手を引かれて歩くメルナの様子を見て、アルゲイは小さくつぶやいた。
「王子には別の人とくっついてもらうしかないねぇ」




