召喚状
今朝方、あんなことがあったにも関わらずお父様は仕事に出掛け、お母様は優雅にティータイム。
私はバッドエンドもとい、死を回避するためにどうすべきか考察中。
最初は攻略キャラの中と結ばれたら未来は変わるかと思ったけど、あの三人から選ぶのは死んでも嫌だった。
となると、望みはこの四人目のシークレットキャラ。
公式サイトではまだ発表されていなかったからな。
公開に合わせて週に一度。そのキャラに関する特徴を出していた。
私が見たのは名前がヴィザ。
今のところはそんなキャラは出ていない。
もしも死んでいなかったらあの日。キャラのシルエットが見られるはずだった。
あーー気になる!!
誰なの!?
四人目は!!
叫びたい思いを抑えて本を読んでいると、執事長が困り果てたように一枚の手紙をテーブルに置いた。
この封印は王室のもの。
ハティは本当に国王様に泣きついたわけね。
自分のプライドが傷つけられるのは我慢ならないなんて、まだまだお子様。
にしても今日の朝だよ。一悶着あったの。
対応が早いのはハティを甘やかしたいダメ親だから?
お母様は無言で封を切り中を改めた。
どうか私のせいでファーラン家が傷つきませんように。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ」
無意識に震える体を抱きしめてくれた。
花の香りが心を落ち着かせてくれる。
「お母様は花の精霊のようですね」
思わす言ってしまった。
するとどうだろう。
「クリーク!」
「何でしょうか。奥様」
「私の娘が可愛い理由を教えて」
「それは……。ケエイ・ファーラン様とユリウス・ファーラン様ご夫妻の愛娘だがらでございます」
「さすがねクリーク。わかってるじゃない」
可愛らしくウインクをするお母様に「恐れ入ります」と頭を下げた。
ちなみにクリークは執事長である。
とても優秀で色んな貴族が大金をはたいて雇おうとするほど。
故にクリークは貴族が嫌い。
お金で人の人生を買えると勘違いしているから。
従わない者には権力や暴力で服従させる家もあると聞く。
でもお父様は違った。
お金ではなく信用と信頼を築きファーラン家の門をくぐらせた。
夜になるとお父様は帰ってきた。
召喚状を見るなり破り捨てようとした。
「旦那様。さすがにそれはマズいかと」
ナイスです。クリーク。
流石にね。ダメだと思うんだ。今の行動は。
中身を改めたお父様はため息をつきながら座った。
「レックスは王宮に行きたいかい?」
質問の意図がわからない。
国王の命令である以上は出向かなければならない。
最初から断る選択肢などないのだ。
王宮には1年前に行ったことはある。
ハティの入学祝いでパーティーを開いた。
学園に入学する貴族は全員参加。
当時は井月薫の記憶がないから、レックス・ファーランとして人に怯えながらパーティーが終わるのを待っていた。
存在しないように壁の一部として。
良い思い出ではないけど、煌びやかな王宮に感動はした。
「正直、行きたくは……ないかな」
あまり攻略キャラには近づきたくない。
それに王宮なんて王族に取り入る貴族がうじゃうじゃいる。
あのプライドの高いハティが婚約を断られたと他人に言いふらすわけはないだろうけど、朝早くにファーラン家を訪れたことは噂になっている。
好奇の目に晒されるのはごめんだ。
「そうか。国王の呼び出しを無視するのは心痛むが、明日はきっと家族仲良く高熱を出してしまうだろう。いやぁ。困ったな」
あろうことか手紙を放り投げてクリークをチラッと見た。
熱を出すと予定に入れられるのは公爵の特権かな?
いいなそれ。
好きなときに病気になれるなんて最高。
「明日は消化にいいものをご用意致します」
はは……。クリークも大変だな。
優秀な執事長だからこそ瞬時に主の考えを読み解ける。
一礼して部屋から出て行く。
実に惜しい。
クリークもイケメンの部類に入るんだけど、おじ様感がない。若いただのイケメンは、イケメンでしかない。
しかもこの感じだと、私好みのおじ様にはならず、イケメンのまま歳を取る可能性が高い。
本当に残念だ。
「お父様はクリークを信用しきっているのね」
「そうだね。持ち合わせた才能故に、周りから疎まれていた時期もあったらしい」
「苦労してたんだ」
「特にフィリックス家では人としての扱いをあまり受けてこなかったようだ」
「………フィリックス家?フィリックス公爵?」
「そうだよ。あれ、言ってなかったっけ?クリークは元々、フィリックス公爵に金で買われてしまったんだ。だから僕が5倍の金額で買い直したというわけさ」
「それっておかしくない?信用と信頼は……?」
「買った、だけだよ」
なるほど。
人としての人生を返してあげたのか。
だからクリークは選んだ。
どこへでも好きなとこに行ける『自分』を与えてくれた、大嫌いな貴族に仕えることを。
その身に流れる血はファーラン家のためのもの。
他の者への忠誠など皆無。例え……王族であっても。
陽だまりのように温かく優しいこの人達を殺したりしない。
そのためにも必ず四人目を探し出さないと。
四人目こそが私を救ってくれるはず。