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最後の攻略者

 特に行く宛てはなく並んで歩く。最初は緊張したけど無理に話題を振って間を繋げなくてもいいのだとわかった。


 アラン団長のカッコ良さにすれ違う女性が頬を赤らめている。


 普通にカッコ良いもんね。


「レックス嬢は思い違いをしているようなので一つだけ訂正させてもらいます」

「は、はい…?」

「ルーナ様は私に微塵も興味ありません」

「え?だっ……え?」


 最悪の環境からルーナを守ったのはアラン団長なんでしょ。


 もしかしてルーナが王女だから身分を気にしてるとか?


「ラファイルです。ルーナ様の想い人。奴の目はルーナ様を庇ったときに傷ついたんです。本人にも確認したので間違いありません」


 謎が解けた。赤面の理由は好きな人を言い当てられたからであって、アラン団長に好意を寄せているからではない。


 安心した。


「それでですね。レックス嬢には私を諦めて欲しいのですが」


 時間が止まったかのように音がしなくなった。


 私がアラン団長を好きだと確信を持った目。困った素振りはなく真剣に向き合ってくれている。


 告白する前にフラれるのは想定外。


 私は想いを伝えるつもりはなかったのに。本当だ。

 そりゃあアラン団長のことは好きだよ。でもね。それだけで良かった。攻略対象にするつもりはなかったのに。


 アラン団長は私にはもっと良い人がいると言った。


 夏休みに騎士寮に来ないかと誘ったのは若い騎士を私に宛てがうためだったんだ。そんなこととは露知らず歓迎してくれているのだと勘違いしていた。


 ──鈍いなぁ、私。


「代わりに今日一日。レックス嬢にお付き合い致しますので」


 着替えず騎士の恰好をしているのもそのため。


 全部…知られてる。私が隊服姿に見とれていたことも。


 叶わない恋なら早くに諦めて他の人を好きになるしかない。例えアラン団長を攻略対象にしても、上手くいく保証はない。


 差し出されたその手を掴めば承諾したことになる。


「レックス嬢には相応しいお相手が現れますよ」


 掴もうとしたその手が止まった。


 アラン団長がここまで自分の評価を下げる理由は人物紹介に書いてあった。


「その相手がアラン団長であることはないんですか」

「ありませんね。絶対に」


 断言された。


 無理やり捕まれた手を反射的に弾く。アラン団長は目を見開いて驚いた。


 たった一日。厳密にはたった数時間。それだけでも好きな人と過ごせるのなら何よりも尊い時間となる。


「それはアラン団長が……アールグ帝国の皇子だったからですか」

「……なぜそれをお前が知っている?」


 敵にしか見せない威圧。


 後ずさると逃げられないように腕を掴まれた。痕が付いてしまうような力。


 痛い痛い!骨が砕ける!!


 痛がる素振りを見せるとすぐ離してくれた。


 質問に答えられるはずがない。キャラクター紹介に書かれていた情報なんだもん。


 アラン団長は少しばかり複雑な環境で育った。


 アールグ帝国の皇族は代々魔力を司る一族で、中でもアラン団長の魔力量は群を抜いていた。

 そのため野心の強い弟三人から疎まれ刺客が送られてくる毎日。妾の子ということもあり誰にも庇ってもらえず、実の母親にさえ冷たくあしらわれる。


 皇帝は我が子を平等に愛しながらも、アラン団長に一目置いてたのだ。


 魔道具を駆使して他の国より豊かな生活と侵略されない力があった。

 国民も、皇族も。全員がそう信じて疑わない。


 そんな帝国を引きずり下ろそうといくつもの国が手を組み戦争を仕掛けた。魔道具に頼りきっていたアールグ帝国の兵士は実戦には弱い。


 城内の皇族は計画的に暗殺され、生き残ったアラン団長は実母によって逃がされた。


 母親はわかっていた。アラン団長に他の皇子達と同じように愛してしまえば、息子の死期を早めることを。母親の想いとは裏腹に、味方のいない皇子の命は毎日狙われていた。


 心を鬼にした意味は……なかったと言える。


 ずっと敵だと思っていた母親に救われ最後の最後に「愛してる」と過去形ではなく進行形で想いを伝えられたアラン団長は身分もプライドも全て捨てて逃げ切った。


 幸いだったのがアラン団長は人前に出ることはなく、皇子であることを知っていたのは当時、まだ王の座に就いていたシエル陛下のみ。


 長年の恨みを晴らすかのように国に火がつけられ民は殺され、一夜にして敗戦国となった。


 そんなアラン団長のハティ達同様の欠点は他者の愛情を信じず疑う。


「もう一度だけ聞く。なぜお前が俺の過去を知っている」

「お答え出来ません」


 瞬間、アラン団長の手が私の首を絞める。指先にこめられた力。


 もかげばもがくほど殺そうとする力は強くなる。


 息が……。


 死を間近に感じ、涙が零れた。


 よく好きな人に殺されるなら本望だなんて言葉を耳にするけど、絶対に嘘だ。


 少なくとも私は……!!好かれていなかったとしても、好きな人の手を自分の血で染めて欲しくはない。


 アラン団長はハッとしながら手を離し、ゆっくりと距離を取った。


 膝から崩れ激しく咳き込んでいると、アラン団長は冷たく私を見下ろすだけで何もしようとしない。


「このことはケエイ殿にご報告して頂いて結構です」


 そうだね。私が殺されかけたと知ればお父様はアラン団長を許さない。


 物理的に私との距離を取れる絶好のチャンス。

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