偉いのは王子じゃない
お父様の言い分が正しいとわかっているからこそハティは黙り込んだ。
何を言っても論破されてしまうからね。
お父様は伊達に公爵家の当主をやっていない。
相手が誰であろうと物怖じしない性格故に、正統派の貴族として成り立つ。
──くぅ!カッコ良い!!
我が父ながら惚れてしまう。
今現在の私の推しだよ。
あ、もちろんお母様と二人でね。
だってもう、二人並ぶとつい拝みたくなるんだもん。これこそ神スチルじゃないかな。
「一報を差し上げなかったのは急いでいたからだ。決して公爵を下に見ていたからではない」
……ん?
その言い方おかしくない?
本当に悪いと思っているのなら謝罪をすべきでは?
次回から事前に連絡する、でいいじゃん。
どうして上とか下とか、階級の話になるの?
それはまるで、自分は王族だから何をしても許されると言っているようなもの。
プレイしてるときから疑問に思っていたことがある。
なぜハティは王族というだけでこんなにも偉そうなのだろう。
「王子というだけで国民に認められる実績なんて残してないのに」
「なっ……!!」
しまった。
つい本音が……。心の声が出てしまった。
ハティは耳まで真っ赤にしながら体を震わせた。
相当怒ってるっぽいな。
怒鳴り散らされるよりも先にクロックの剣が私に向けられた。
揺るぎない殺意。
早く謝らなければならないのに理性が頭を下げることを拒む。
確かに私は頭を下げることは得意だ。履歴書の特技にも書けるくらいに。
私がどれだけ理不尽に頭を下げてきたと思っているの。一度死んでからも、同じ道は辿りたくない。
だって私、悪いこと言ってないもん。
事実、この国で偉いのは国王陛下。王子じゃない。
ハティはたまたま王の息子に生まれただけ。
そんなことに誰一人気付けず、時期国王だと声を揃えていた。その結果、こんなお粗末なバカが誕生。
バカと何とかは使いよう。こんなバカなら権力を欲する悪い貴族に利用されるのが関の山。
自分の考えも持てない傀儡はさぞ周りから好かれることでしょうね。
「ガラルくん。ガラル小侯爵。今すぐにその剣を下ろしてもらおうか」
主人を侮辱されたクロックからすれば今すぐにでも私を斬りたいだろうに、お父様の冷たい声に次の行動に移せないでいる。
お父様は生まれてからこの方、剣を握ったことがない。武術も極めているわけでもなく。
普通に戦えばクロックの圧勝。
でも!それを許さないのがお父様。
もし私に剣を振るおうものならお父様も容赦はしない。
王族に仕えていようが侯爵家が公爵家に傷をつければ大きな責任問題になる。それも令嬢を傷モノにするのだ。
教育云々の前に、そんな家を代々騎士として忠誠を誓わせている王家の品格も疑われる。
護衛を任されるガラル家が王族の顔に泥を塗るなんて失態、あってはならない。
「それに。事実を言われただけでそんなに目くじらを立てるものではないよ」
「ハティ様はまだ十七です。実績は来年以降、築き上げていくのです」
「現王であるイーゼル・エブロ・ロフィーナ様は確か十五歳のときからその才覚を現したそうですよ。それに、婚約をしたいならせめて花の一本でも持ってきてはいかがですか」
クロックと話ながらも視線は常にハティを捉えている。
自分のことなのに従者にはがり発言させるハティへの好感はないに等しい。
「くっ……。今日はこれで失礼する!だが覚えておけレックス・ファーラン!!お前の王族を非難する無礼極まりない発言。父上に報告させてもらう」
最後の最後まで……。
虎の威を借るなんとやら。
そのお父上様の力を借りずに自分で対処しようという気はないのか。
甘えた根性をどうにかしないと将来苦労しそうだな。
二人が帰ると優秀な執事長が塩をまいていた。
心なしか嘲笑ってるようにも見える。
ふむ……。
王子だよね?ここにいたの。
扱いが雑と言うか……。
一体何をしたらお父様をここまで怒らせることが出来るのだろうか。




