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親子の時間

「レックス!!大丈夫かい!?怪我はしてないかい!?」


 帰るなり顔面蒼白でお父様が駆け寄ってきた。


 仕事は?


 屋敷の中も心做しか明るく飾り付けられている。


 アラン団長からの手紙で私が誘拐されたことを知り、傷ついていると思い準備してくれたんだ。


 と言うかこれ、徹夜コースだよね。私のために寝る間も惜しんで……。


「カオルの好きなメロンシャーベットも用意してあるよ」


 耳元でコソッと伝えてくれた。

 手を取りエスコートをされる。


 部屋には誰も近づかないように申し付け、お父様は話を始めた。


 私が一番気にしているであろう国議会について。


 国を変えるためには常識に囚われない私の発言が必要だと。


 評価されるのは名誉なこと。


 前世での私の扱いを不憫に思ってくれたのか場を設けてくれた。


 だとしても場違いすぎる。娘自慢したくてヴィザを脅したわけじゃないよね。


 私なんかの浅知恵で国が良くなるならいくらでも貸す。役に立つかは別として。


「そうだお父様。お店のことなんですけど」

「良い案があるのかい」

「お父様は飲食店も経営してますよね」

「いくつかあるよ」

「お客さんじゃなくて従業員に関することなんですけど」


 飲食店は食材の切れ端を出すわけにはいかず、いつも捨ててしまう。前からもったいないなと思っていた。


 だから!!従業員のまかないにしたらどうかと提案してみた。


 調理の方法はほとんど変わらないけど、捨てると決めた物を食す発想には至らない。


 まかないが何かわからず首を傾げた。

 休憩時間に食べる食事だと簡単に説明すると納得。


「なるほど。確かにそれなら食材を余すことなく使いきれる。カオルの国は本当に素晴らしいね」

「良い人がいる半面。悪い人もいっぱいいます」

「カオル。僕達は家族だ。そんな他人行儀な喋り方はやめてくれ」

「歳上の人が相手だと自然とそうなってしまうんです」

「ふーん?」


 言いたいことは分かる。レックスとして散々タメ口だったのに今更敬語なんて、ってことだよね。


 あのときはレックスになりきってたし、まさか薫の存在がバレてるなんて思いもしてなかった。


 お父様は瞬きもせずにただ見てくる。


 耐えきれなくなり溶けて液体になったメロンシャーベットを飲み干す。メロンジュースを薄めた味。月に一回なら飲みたいかも。


 ベルを鳴らしてクリークを呼ぼうとするお父様を止めた。メロンシャーベットのおかわりは所望してない。


 お父様のカップにもコーヒーが空になった。口にする物がなくなり互いに見つめ合う時間。


 緊張から私が先に目を逸らした。お父様の悪意ない笑顔は眩しい。


 甘いマスクに甘い言葉で囁かれたら女性はイチコロ。


「お父様ってモテますよね」

「何だい急に」

「カッコ良くて仕事出来て誰にでも優しい。理想の男性の条件全て兼ね備えてるから」

「ははは。嬉しいな。そんな風に思ってくれてたなんて。実を言うとね、僕はあまり社交界やパーティーには出席してないんだ。めんどくさいから」


 最後の一文がとても爽やか。


 若かりしお父様なら招待状に目も通さず焼き捨てながら「めんどくさい」なんてボヤいてそう。


 そもそもどうしてお母様と結婚したんだろう。出会いの場に足を運ばないなら運命的出会いは果たせない。


 結婚秘話はプロフィールに書いてなかった。


「突然こんなことを言ったら嫌がられてしまうかもしれないけど。明日は国議会だ。早めに眠って体を休めるといい」

「冗談…ですよね?」

「ごめんね」


 マジか。ゆっくりベッドでゴロゴロ計画が。


 こんなときこそ、あの特権を使うべき。


「明日は疲れて熱を出してしまうかも」

「そうか。それは大変だ。胃に優しい食事を手配しないとね」


 よし。通じた。

 まさに公爵様々。


 権力を悪用してるみたいで気が引けるけど、行きたくないんだから仕方ない。


 乗ってくれるということはお父様もなのだろう。

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