冷酷な英雄騎士【アラン】
「バカバカ!アランのバカ!!」
「はいはい。すみませんね」
「レックスさんがシェリーとどっか行っちゃったじゃないの」
「だから謝っているでしょう。私は持ち場に戻りますので。あとはラファイルに任せております」
護衛を交代してブラついていると、血相を変え走ってきた団員が腕を引っ張った。
焦っているのか何かを言いたいのに言葉にならない。
水を飲ませて落ち着かせた。
人に聞かれるとマズいのか、わざわざ路地裏に移動させられる。
「大変です。ルーナ様が……。ルーナ様が誘拐されました!!」
「そうか。それは大変だな」
「何を悠長な……!!国の一大事ですよ!?」
「その目は飾りか。あれを見ろ」
「え?あ…あれ?ルーナ様とラファイル団長?」
ただの取り越し苦労だとわかるとホッとしながら祭りの警護に戻った。
安心してんじゃねぇよバカが。
つまりルーナ様じゃない誰かが誘拐されたということ。
誘拐されたとされる場所の確認に行くと見慣れたブレスレットが落ちていた。
これは確かルーナ様とソフラ嬢とお揃いで付けていた物。
ソフラ嬢は向こうにいる。ということは連れ去られたのはレックス嬢か。
目撃者の話では暗がりでよく見えなかったが複数の男が「国の王女は高い」などと、まるで聞こえるように口にしていた。
第零騎士団をすぐに招集。俺の雰囲気から緊急事態だと察する。
事態の深刻さは伝わった。明るく賑わう祭りから離れるには馬車を使うしかない。
面倒だ何だと言ってる場合じゃないな。ジル達を騎士寮まで瞬間移動させ馬を取りに行かせた。
俺は先にレックス嬢を追う。
魔力を注いだ魔道具に一度でも触れた者の位置は正確にわかる。
回復しきっていない魔力を使い、連続して飛べばやたらとスピードを出す馬車を前方に発見。
馬荷台に飛んで、上から御者の頭を刺した。
手綱を握る人間がいなくなった馬車は勢いよく転倒。中からナイフを持った男と気を失ったレックス嬢が飛び出た。
「ちょっと待て!その男!!アラン・スミスじゃないのか!?」
「残忍で冷酷無慈悲な英雄騎士」
「俺のことを知っているのか。嬉しい限りだな」
戦う意志すら見せずに逃げようとする足に拘束魔道具で足を縛る。
息の根を止めようと剣を振りかざすと、レックス嬢が意識を取り戻した。
「ア…ラン、団長?」
状況を瞬時に理解して恐怖のあまり目を閉じた。
そうだ。それでいい。
ケエイ殿はなるべくレックス嬢に汚いものを見せないようにしてきた。こんな血なまぐさいとこにいるべきはない。
純粋で綺麗な貴族のお嬢様は染まることのない純白の世界で生きていけ。
「団長!!早まらないで下さい!!」
馬を全力で走らせたのか。俺が連中を全滅させる前に。
つてないスピードを強いられた馬は疲労困憊。
この場はジル達に任せて、俺は獲物を今か今かと待ちわびている主犯格にでも会いに行くか。
外れの小屋には痛めつける目的で取り揃えた悪趣味の道具が揃えられていた。ドアを蹴破り殺気を隠さず、恐怖を与えるように足音を立て近づく。
「大人しくしていれば良かったものを。フィリックス元公爵」
睨み付ければ情けない声を上げながら腰を抜かした。
拷問ののちに死刑は免れ国外追放となり、貧しい村への永久奉仕が課せられたはず。見張りもいただろうにこんな所にいるということは殺したな。
この国に一度でも足を踏み入れた者ならルーナ様が金色の髪であることは誰もが知っている。故に間違えるはすがない。
最初から狙いはレックス嬢。
誘拐犯はその辺の盗賊でも雇ったのだろう。無一文のフィリックスに雇える金があるとも思えない。殺した見張りから金品を奪い金に換えたようだ。
王女の身代金なら一生遊んで暮らせる額。
全てを手にする前に殺されるなんて夢にも思っていない。だからこそ、一国の王女の誘拐なんてバカげたことが出来た。
没落したのがレックス嬢のせいだとでも思い込んでいるのか。
「く、来るなっ!!」
フィリックスはケエイ殿に対しコンプレックスを抱いている。
外見も中身も、商売の才でさえ。何も勝てない。
唯一、プライドだけは勝っていたため、尚のこと許せなかった。
ファーラン家に劣っている事実を認めることが。
陥れるためなら手段を選ばないやり方は逆鱗に触れる。
今回のように完全な逆恨みでレックス嬢を殺そうとしたなどとケエイ殿に知られたら……。
まず、俺達騎士は無能呼ばわりされる。取り乱すことも冷静さを欠くこともせず淡々と言葉を並べ精神的ダメージを食らう。
本気になれば国の貿易も止められる。そうなればオーシャン王国は衰退し滅ぶ。
この事件をなかったことにするのは簡単。だが、ジルは包み隠さず話す。
後からバレて下手に言い訳するより起きた真実をありのまま伝える。
「団長!!ご無事……ですね」
「レックス嬢は」
「目立った外傷はなく薬品のせいでまだ上手く動けないようです。祭りの救護テントに運んで診てもらってます」
「そうか。怪我がないならいい」
「それよりコイツ。どうするんですか」
「首を送りつけたらケエイ殿は怒るだろうな」
「でしょうね」
死体は処理するとして真実を話すべき人間は……。
多くを関わらせるつもりはない。必要最低限の人数。
ケエイ殿とソンツェ陛下。
それ以外には、盗賊が金目当てにルーナ様を誘拐しようとしたが、間違えてレックス嬢を攫ったことにしよう。
特にレックス嬢にはこの男が関与していたことは絶対に明かしてはならない。十一年前の恐怖から立ち上がり前に進むレックス嬢の邪魔をする足枷を壊すのが騎士の役目。
証拠はでっち上げればいい。証言は握り潰せばいい。
黒幕がフィリックスでなかろうと王女誘拐の罪は重い。民衆の前で首をはねる斬首刑。
団員にも箝口令を敷いた。これで外部に漏れることはないはず。
レックス嬢を危険な目に合わせてしまったジルは自分のふがいなさを悔いていた。
今日はやけに風が吹く。剣を元に戻すと付着した血は綺麗に消える。
──人を殺した俺を見て、どうかそのまま俺への感情は捨ててくれ。




