ワンコ騎士
おかしい。絶対に何かがおかしい。
ずっと外にいたのに急に中で待機するなんて。
好感度を見てみるとハートが二つと半分。これは高いほうなの?
エアル団長の反応から低くはないはず。
こうしてるとワンコ騎士みたいね。耳と尻尾が見えるのは気のせいじゃない。
気を取られすぎて素顔を見たくなった。
前髪をそっと掻き上げると大きなウルッとした目が、よりワンコ感を強めた。
童顔なんだ。母性本能がくすぐられる。
寮母さんもこんな気持ちだったのかも。男らしい騎士や見習いの中にこんな愛くるしい子がいたらつい手を出したくなる。
罪深いエアル団長が悪いのか、理性を保てなかった寮母さんが悪いのか。
難しいとこだな。
…………いや、寮母さんだ、悪いのは。
「レックス様。シェリー団長から聞きました。明日の朝にはここを立つとは本当ですか」
「恥ずかしながらホームシックになってしまって」
「気の許せるご友人がいるとはいえ親元を離れるのは寂しいものです」
膝をつき、不安をかき消すように私の手の甲にキスを落とした。
「もしお許し頂けるのなら私もレックス様にお供させて下さい」
どうしようこれ。
私が許しても国が許してくれない。
団長だよ?実力のある人がいなくなるのは国にとって大きな損失。
こんなにも真剣なエアル団長を適当にあしらいたくはない。
「お気持ちだけ受け取らせて下さい」
「ご迷惑…でしょうか」
「いいえ。私にエアル団長はもったいないと思って」
困惑したように首を傾げられた。
大切なのはエアル団長の気持ちだとか言っておきながら、私の都合で拒絶する。
「エアル団長。レディを困らせるのは些かどうかと思いますが」
どの口が言ってんのよ。
あんたも充分に私を困らせたでしょうが。自分のことを棚に上げて責めるなんて。
それどころか私の尊厳も傷つけたくせに。
「失礼ですが貴方は婚約者でありながら他の女性に現を抜かしたとお聞きしております」
「あ、あれはだな……!!」
「いかなる理由があろうとも婚約者を大切に出来ない貴方の言葉など説得力に欠けます」
愛らしいワンコとは一転。牙を剥く狼。
きっとハティは何も言い返してこないと思っていた。エアル団長は“団長”で騎士で、自分達は“お客様”だから。
騎士寮では大人しくしていると聞いていたのに。
あと訂正すると、婚約者ではない。ハティが望んでいただけ。
「お待たせしました!って…どうしたんですか」
綺麗に着飾ったルーナに後光が差してる。
女神降臨。そんな言葉が浮かんだ。
もうそんなに時間経った?いつの間にか外は陽が傾いている。
バカでもわかる簡単なこと。この部屋には時間を遅く感じさせる魔道具が仕込まれている。正確にはこの部屋自体に。
目的としては休むため。時間を忘れてゆっくりするには打って付け。
空気の重たさに一歩下がるルーナの肩の抱いてシェリーと、その後ろからアラン団長までもが来た。
何あの恰好。隊服?めっちゃカッコ良いんですけど。
普段の爽やかイケメンじゃなくて、オールバックで髪をまとめてる。凛々しくてまさに騎士。
瓜二つの別人だと言われてたら信じてしまいそう。
くっそー。このスチル欲しい!!待ち受けにしたい!
ポーっと見とれていると、どこからか現れた複数のメイドにソフラと隣室に連れ込まれた。
これから何をされるのか。
二人して肩を抱き合い震えていると、キラーンと目を光らせたメイド達に襲わ……とびっきりのオシャレをしてくれた。




