エアル団長
「はぁーー。つまんない」
騎士の人はみんなお祭りの警備やら準備やらでいなくなった。
取り残された私達は勝手に出歩くのも気が引けて五人同じ部屋で過ごす。
誰も喋らず、本を読んだり、何もせず空を見上げたり。
ハティとクロックが私をチラチラ見てくるのは気持ち悪い。
構って欲しいわけ?
嫌だけどね。
「失礼します。こちらルーナ様からです」
まだ顔を見たことがなかったエアル団長は私達の護衛に付いてくれた。
部屋の外で待機して、用があれば声をかける。
目を前髪で隠しているのは人見知りから。喋るときも声は震えてしまうほど。
暗くてじれったいと他国の騎士に陰では笑われバカにされているようだけど、他の団長達はそんな子供じみたことはしない。
エアル団長が何に怯えているのか第三者にはわからない。
「よければエアル団長もご一緒しませんか」
「いえいえいえいえいえ!!そんな……!!」
全力で首を振られた。
私の誘いを断ってしまい、しょんぼりする姿はまるで子犬。
攻略対象なんだし顔は良いはず。
性格に難アリなら極度の人見知りがまさにそれ。
シェリーはオネエ。オリバー団長は酒豪。ラファエル団長は正義感が強く融通が利かない。アラン団長は冷徹で鬼畜。
…………ジルは?
長い間見てきたけど至って普通なんだけど。
短気ではあるけどそれかな?
ケーキと紅茶が用意されるとエアル団長は扉をバタン!!と閉じて出て行った。
人と関わりたくないなら注目を浴びる騎士団は相当辛いはず。
辞めてしまいたいとは思わないのだろうか。
苦手克服のために在籍してるのなら私も見習いたい。
人間、嫌なことからは逃げて楽な道を選ぶ。そのほうが生きやすい。
「どうしたんですか、レックスさん」
「エアル団長と仲良くなれたらいいなと」
「そうですね。それに、この国の人は皆とーーっっても良い人ばかりですし」
その言葉が誰に向けられたのかは詮索しない。本人達もわかってるみたいだしね。
慈悲深いルーナは嫌いな相手にも最低限のマナーは守る。五人分持って来させるのは優しさの表れ。
このケーキ美味し。甘さが控えられているからおかわりしたくなる。
「レックスさん。よければ私の分もどうぞ」
物欲しそうにしてたのバレた!?
公女にあるまじき失態。
以前のコイツらならチャンスとばかりに嘲笑ってきたんだろうな。
「レックスはああいう男がタイプなのか?」
「…………は?」
やたら見てくると思えば。傷ついた乙女のような顔までして。
私が他の男を気にしてるのが気に食わないんだ。
バカじゃないの?
聞いたんだ。お父様がなぜあそこまでハティを毛嫌いするのか。
伝家の宝刀。「教えてくれなきゃ嫌いになる」と一言添えて。
あのときのお父様は世界滅亡よりも深刻な顔をしていた。石化し微風でもサラサラ〜っと散ってしまいそうな、それほどまでの衝撃。
悩む時間はコンマ数秒もなかったと思う。
一年前に王室で開かれたハティの入学祝いのパーティー。
新一年生は強制出席させられ私もいた。
華やかで眩しくて、誰も私を見ていないのに人の視線に敏感になっていて壁の花として早く時間が過ぎるのを祈った。
そんな私を見てハティはクロックとルカに「まるで枯れた木のようだ」と笑ったとか。
王宮内での出来事をなぜお父様が知っているかは敢えて聞くまい。人脈の広さは世界一。
ハティの言い分としてはわざと私を蔑むことによって男が近寄らないようにしたらしい。
好きな子をいじるのは小学生男子によくある行為。責めることはない。王族でなければ。
自分の立場を理解していれば私を簡単に孤立させる影響力があるのに、軽々しく陥れる言葉を口にしない。
そういうバカなとこもお怒りに触れた。
「そうだとしてもあんたに関係あるの?」
「それはそうだが」
「いい加減にしてよ。あんたの都合でこれ以上振り回さないで!!」
つい大声を出してしまった。
エアル団長はすぐさま剣を抜いて部屋に入ってくる。
護衛なんて建前。本当は私とソフラをこの三人から守るためにルーナが気を遣ってくれた。
「大丈夫です。大声を出してごめんなさい」
エアル団長は女性が苦手だ。
キャラクター説明と、ここでの出来事を聞いて、寮母さんに襲われかけた見習い騎士はエアル団長と推理出来る。
長い前髪の意味も顔を見ないようにするため。
元々の人見知りの性格もあり。その事件はエアル団長を女性恐怖症にするには充分すぎた。
触れようとしても避けないのは女性に恥をかかせてはいけないという騎士道。
「エアル団長。私達は本当に大丈夫です。なので……。もし私達の護衛が少しでも負担に感じたら騎士寮へお戻り頂いて構いません」
「それは出来ません。私はルーナ様直々の命令でここにいます」
「ルーナには私から説明します。ただ私はエアル団長の気持ちを優先したいのです」
「私の気持ち?」
「そうです。いくら命令とは言え精神的にキツいなら無理にいる必要はありません。大切なのは命令に忠実で在ることではなくエアル団長自身ですから」
「っ…いいえ!私は……!!」
女性恐怖症のエアル団長が自分から私に触れてきた?
包むように手を握り締められた。




