表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/72

非常識

 ………とまぁ、お父様が丁重に婚約を断った翌日。


 ハティがファーラン邸へとやって来た。


 それも朝早く。


 朝食を摂るよりも早い時間なんて何を考えているの。あぁ、何も考えてないのか。


 応接間でお父様が対応しているようだけど大丈夫かな。


 お母様は私まで行かなくていいと言った。そうしたいのは山々だけど、当事者は私。


 いくら婚約するために親の同意が必要とはいえ、絶賛婚約しろアピールをされている私が顔を出さないわけにもいかない。


 寝起き感がないようにマリーが気合いをいれて変身させてくれた。


 入室の許可をもらい、私も遅れて同席させてもらう。


 うん。空気悪っ。


 窓開けて入れ替えしたほうがいいんじゃない。


 お父様はにこやかな顔で目に見えて苛立つハティと対面していた。


「ファーラン公爵。レックス公女との……」

「何度もお伝えしている通り、婚約は致しません」


 可哀想に。


 きっと何度も言葉を遮られては同じ言葉で断られているんだろうな。


 二人の背後で龍と虎がいがみ合ってる。お父様のほうがかなり優勢。


 漫画みたいなワンシーンをまさか拝めるとは。


 ハティは笑顔なのに顔の隅に怒りマークが出ている。握り締めた拳も怒りに震えていた。


 せめて隠しなさいよ。膝の上だと丸見えなんだけど。


 お父様の視線も時々、下がる。


「失礼ですが公爵。他の貴族はファーラン家の権力欲しさに政略結婚を企てる連中ばかりです」

「それは困りますね」


 お前もその一人だろ、とでも言いたそう。


「それならば私と婚約し、この国の王妃となったほうが公女のためにもなります」


 ハティのドヤ顔がイラッとする。


「それは一理ありますね」

「では……」

「なぜ、我が娘なのですか?理由をお聞かせ願いたい」

「それは……」


 言葉に詰まるのも無理はない。私と彼は今日が初対面なのだ。


 ゲームの本編は二年の春から。


 それ以前には一度として会ったことさえない。


 同じ学園にいてもクラスが違い、彼は王子でもある。


 王族に取り入ろうとする令嬢達に毎日のように囲まれていたために、休み時間はいつも自習室に隠れていた。


 空気の読めない令嬢がたまに突撃してたみたいだけど、そこは護衛のクロックがしっかりブロック。


 廊下ですれ違っていたとしても存在感の薄いレックスの姿がハティの目に留まるはずがない。


「横から口を挟んで申し訳ないのですが」


 助け舟を出すかのようにクロックが一歩前に出た。


「先程から気になっておりました。なぜ殿下にお飲み物をお出しになられていないのですか?まさか公爵家が客人に、しかも第一王子であらせられるハティ様に茶の一つも出さない無礼を働いているのですか?」


 それは私も気になってた。


 いくら嫌いな相手だとしても、最低限のもてなしはしないと。


 オロオロする私をよそにお父様は変わらぬ笑顔で


「申し訳ありません。まさか殿下ともあろうお方が連絡の一つも寄越さず朝一番で訪問されるとは思ってもいなかったものでして。事前にわかっていれば最上級のもてなしをさせて頂きましたのに」


 こちらには非がないことを訴えた。


 この場合、お父様のほうが正しい。


 例え王族であっても、伺う前には先方に一報を入れるのが筋。


 親しき仲にも礼儀あり。親友同士でも怠らない作法。


 やむを得ない事態で当日に足を運ぶとしても、先に手紙を出し知らせるのがマナー。


 つまり非常識なのは、婚約を断られただけで家まで押し掛けた挙句に同意しろと圧力をかけてくるあちらさん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ