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敵には回したくない人物【アラン】

「ちょっと!離しなさいよ!!私を誰だと思ってるの!?」

「無能な王子に愛されなかった哀れな人、でしょうか?」

「私にこんなことしてタダで済むと思わないでよ。英雄騎士か何か知らないけどあんたなんて」

「何ができるというのですか?」


 純粋な疑問。


 貴族でもなければ、もうこの女の言葉に従う者もいない。


 これまで甘やかしてくれたシナー夫妻とも切り離された状況で誰に頼むのか。


 ──俺はよく非道だ冷酷だと言われるが、ケエイ殿のほうがよっぽど……。


 そもそもアールグに連れて行くなんて普通の人間は思いつきはしない。仮に思いついても実際に行動に移さないだろう。


 ケエイ殿は絶対に敵には回したくないな。


 ある意味この女以上に恐ろしい。


 初めて人を怖いと思った。


 ケエイ殿からは優しい印象しか得られない。そんな得体の知れない人間は今まで出会ったことがない。


「着きましたよ。貴女には今日からここで暮らしてもらいます」

「ここ……?何もないじゃない!!」

「ええ。まだ途中ですから。言葉が足らなかったようなので付け加えると、これから何十年とかけてここに人が住めるように働いてもらう」


 アールグは元は国だった。敗戦国。

 遠くある戦争に負けた国のことを知っている物は多くない。


 全てを奪われ失い、残ったのはこの更地だけ。


 シエル前陛下が新しい国を作るために人を集めた。どんな国にするのかは知らないし興味もなく聞きたいと思ったことはない。


「どうして私がこんなこと!!私はロフィーナ国内でも特に美しい美貌を持ってるのよ」

「貴女はもうあの国の人間ではないはずですが?」


 追放処分を受けた時点で全てを剥奪されているに決まっている。


 成り上がり元貴族には認め難い現実だろうが自業自得。誰にも庇ってなどもらえない。


 いつまでも喚く女に剣を振り下ろす。顔半分に大きな傷がつき、流れる血を見て空まで届く悲鳴を上げた。


 目を潰すのは作業の遅れになるから避けるように斜めに斬った。ご自慢の顔が台無し。


 死にはしないが消えもしない。


 受け入れてしまったほうが楽になるだろうが容姿でしか勝負できるものがないこの女にとって顔の傷は屈辱。自分の行いを反省させるには打って付け。


 良心があり、まともな人間なら既に改心してこんなことにはなっていない。


 いつも他人を当てにするから打開策も見つけられない。自分の頭で考えることの出来ない女にあそこまで追い込まれたレックス嬢にも問題はある。


「はは…あはは……!!」


 突然笑い出した。

 壊れたか?


「レックスレックスレックス。あんな地味で取り柄のない女のどこがいいわけ!?」


 今度は逆ギレ。開き直ったか。


 ここまですると清々しい。本気で自分には何の非がないと信じきっている。


 話も通じなさそうだ。


 一日でも早く国を作りたい身としてはこんな女でも人員として扱う。


 罪人用の魔道具を体内に取り込ませた。


「労働が嫌ならここを去ればいい。だが……」


 境界線を指差した。


「あの一線を超えたらお前の体はバラバラに吹っ飛ぶ」


 言葉だけでなく実際に見せたほうがより恐怖心を煽れるが、ここにいる人間では試せない。


 この脳みそお花畑の女が俺の言葉を理解しているかはさておき、そろそろ帰らないと。


「言い忘れるとこだった。ここは働きに応じて食事を提供する。他人任せでは餓死するだろうが、その道を選ぶかはお前次第だ」

「待ちなさいよ!!殿下以外にも私に惚れてる人はいるのよ!?彼らはきっと私を捜してるわ」

「クロック・ガラルとルカ・フィリックスのことか?残念だな。あの二人はお前じゃない別の女に心惹かれている。特にルカ・フィリックスは純愛のように一途に愛しているらしい」

「嘘よそんなの……!!ルカさんはいつだって私の味方だった」


 絶望に打ちひしがれる姿は哀れだ。


 この女の想いは純愛だった。たった一人の男を本気で愛し続けた。


 そしてその愛のために他者を傷つけた。報いは受けるべきだ。


 残りの人生全てをかけて。


 自らの容姿に自信があったのなら、それだけで勝負するべきだった。レックス嬢を巻き込んだ時点で敗北は決定している。


 そんなことにも気付かなかったのか。


 公爵令嬢といってもこうして離れていたら顔さえ思い出せないほど印象は薄い。


 女としてなら圧勝だったろうに。


 レックス嬢の行動は面白いから好きだ。

 ケエイ殿の娘だから気にかける。


 それが特別扱いする理由。恋だの愛だの、そんなくだらない感情は持ち合わせてもいない。


 瞬間移動を短期間で、しかも長距離で使うのは疲れる。国に帰りつく頃には疲労で何もする気にはなれずにベッドに倒れ込んだ。


 魔力の使いすぎで起き上がる気力もない。


 しばらく天井を見つめているとシェイクがドアをこじ開けようと叩きながら、ノブをガチャガチャと回す。


「ちょっといるんでしょ。開けなさい」


 アイツが呼びに来るとロクなことがない。気配を消して居留守を使う。


 耳を塞いでも聞こえてくる怒号。うるせぇな。


 それでも諦めずドアを破壊する勢いで叩く……いや、殴る。マジでぶっ壊すつもりか!!


「いい加減にしろ!この馬鹿力!!」

「いるんならさっさと出てきなさいよ」

「うるさい。帰れ」

「陛下がお呼びよ」

「王宮騎士はお前だろ」

「大至急よ」


 面倒だが行かなければシェイクはここで永遠とドアを殴り続ける。


 王宮に出向く以上、適当な格好ではいかずに着替えた。剣は……念の為に“首からさげた”


 魔力持ちの俺は普通の剣ではない。


 普段はネックレスとして身に付けているが魔力を込めれば剣へと変わる。


 数百年も昔に作られ魔法の剣と呼ばれ、長きに渡り王宮で保管されてきた。


「もう遅いわよ」

「うるさい」


 こんな奴と肩を並べて歩かなければならない地獄。


 性格はアレだが剣術の腕はオリバーと一・二を争う。ラファイルも目の怪我さえなければ……。


 さっさと引退して指導する側に回ればいいものを。


 騎士寮と王宮が微妙に近い距離にあるためにすぐに着いてしまう。


 大あくびをする門兵は俺達を見るとすぐに姿勢を正した。多少気を抜いたところで責めるわけがない。


 この国に、王を討とうなんて身の程知らずはもういない。敵は全て俺が排除した。


 国のため。忠義のため。


 泣いて惨めに許しを乞う連中にと剣を突き立てた。強国として君臨し続けるオーシャン王国が舐められないように徹底してきたんだ。


 非道を繰り返していくうちに英雄騎士アラン・スミスの噂は瞬く間に広がり、実物とは程遠い人物像が完成した。


 ──オリバーにもよく貴族のお坊ちゃんみたいだと笑われていたな。


 剣の腕が顔や体格で決まってたまるか。


 連れられたのは執務室ではなく食堂。


 この扉を開けて食事を勧められでもしたら俺はどうする?


 こっちは短時間で長距離の移動。大人しく寝ていたいんだよ。


 中にはレックス嬢達の姿も。


 こうして対面してようやく俺は、そう言えばこんな顔だったなと心の隅で思った。

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