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秘められた記憶

 胸の内をさらけ出すと私がスッキリした。


 ここまで言うとむしろ清々しかったのか、ソンツェ陛下とシン様は大笑い。涙を流すほどに。


 ルーナは従者にあれを持って来てと頼んだ。

 嫌な予感しかしない。あの憎めないようなにんまりとした笑顔。


 これあれだ。小学生男子がイタズラのときによくするやつ。標的は誰だろ。


 従者が持ってきたのはピンクのリボンで結ばれた箱。


「どうぞ。ハティさん」


 意外だな。


 プレゼントなんて渡す仲でもないだろうに。


 さっきまで大笑いしていたお二人は急に真顔になりハティを睨み付けた。


 ──シスコンだなぁ。


 ハティがろくでもないクズだってことはアラン団長の報告から伝わっている。大事な妹がこんな男に取られるかもしれないなんて私でも耐えられない。


 ルーナには好きな人がいるらしく恋愛感情は一切ないはず。


 中身が気になる。ここで開けてくれないかな。


 突き刺さるような視線に気が付いてリボンを解いた。

 箱の中身は人形。


 それを見て空気は凍った。私は盛大に吹き出した。


 注目を浴びる前にルーナの腕を掴んでこの場から逃げる。


「なんてことしたの」

「ただのプレゼントですよ。レックスさんにもありますから」


 可愛い顔してやることえげつないな。まさか本当にあげるとは。


「ちょうどいいですし、レックス嬢をお借りしますね」


 万が一を考えて追いかけてきてくれたアラン団長は私の肩を抱いて瞬間移動で飛んだ。


 何もない部屋。椅子に座らされると映画館のように壁に映像が映し出される。


 誰の記憶だろう。


 いじめの真相を探るべく、特にリンに肩入れしていた生徒の過去を覗くというプライバシーもへったくりもない魔道具が使われた。


 取り除かれた記憶はすぐ破棄することを約束したはずなのに。


 こうも簡単に約束を破る大人がいていいものか。


 ということはあれ?

 私も知ってしまったから共犯?


 そんな姑息なことをするために呼ぶわけないか。


 不思議に思いながらも黙って見ていると私が出てきた。噴水の水面には私と……ハティが向かい合っている。


 これはハティの記憶?


 唐突に思い出した。ハティの言葉を。



『昔は俺を』



 その昔ってのは、これのこと?


 今と同じく髪の色は健在。しかも第一王子。会っていたら忘れるわけないんだけどな。


 しかも過去の私。ハティの髪をめっちゃ褒めてる。ハティも満更でもなさそう。


 アラン団長は私の身に起きたことを説明してくれた。それらはお父様に聞いた話で、信憑性は高い。


 ちょうどこの日。私は運悪く階段から落ちてしまった。幸い、大怪我には至らず傷痕も残らなかったけど、そのショックから丸一日の記憶はすっぽりと抜け落ちてしまったとか。


 ──そんな設定あったっけ?


 説明書を思い出してみてもそんな重大なことを目にした覚えはない。


 ちょっと待てよ。確かお父様とお母様のプロフィールにそんな感じのことが書いてあったな。普通にスルーしてたわ!だって絵もない名前だけのモブだったし!!


 レックスの身に起きたことなら、レックスのプロフィールに書いておきなさいよ!!


 運営のレックスに対する扱いが酷すぎる。


 ついては補足情報。


 ハティはリンへのいじめから私を断罪するつもりだったらしいんだけど、死刑や追放ではなく王宮の外れにある寂れた(さびれた)宮に幽閉するつもりだった。


 そうすれば私が悪態をつかれることも、私自身が私の悪い噂を耳にすることもないと考えて。

 それは本人の口から確認したので間違いはない。


 ゲームではすぐに殺した。


 愛するリンを傷つけた報いを受けろと冷たく見下ろしながら。

 この世界のシナリオは大幅に変わってしまったし、殺されない未来もあったのかもしれない。


「つかぬことをお伺いしますが。もしかして……。そうであって欲しくはないんですけど。ハティは私が……好きなんですか?」

「残念ながら」


 本当に残念だ。

 好かれたくもない。あんな男に。


「記憶を見たアラン団長ならご存知でしょうか。あのバカ……じゃなかった。ハティのリンへの想いは本物なんですか」

「限りなく本物に近いですよ」


 引っかかる言い方。


「レックス嬢に嫉妬して欲しくてあの女を選んだようなものですから」


 それっておかしくない?リンには運命だとか何とか口走ったくせに。


 リンが絡んだハティの行動が全て、ここがゲームの世界だからという理由なら納得はいく。


 シナリオに動かされていただけの存在。


 レックスへの想いが本物なんだろうけど、仮にも王子だった人とは思えないほど数々の愚行と失言。


 あれを見て好きになるのは余程のもの好き。それかバカ。リンのような異常な執着を持った愛情はごく稀。


「これは朗報ですが。彼は……貴女のことなど微塵も信じていなかった。友人の盗っ人という言葉だけを信じていた」

「ええ。知っています。最初から……」


 愛があろうとも調べることもなく罪人だと決めつけた。


 心のこもらない上辺だけの言葉に踊らされ弄ばれたレックスの気持ちを考えると、引っぱたくだけじゃ割に合わなかったかも。


「意外ですね。今はともかく昔は好いていらしたのでは?」

「自分の感情に迷子になっていただけです」

「なるほど……」


 アラン団長は「ついでに」とクロックの記憶まで見せてくれた。


 ため息しか出ない。


 あの好感度の意味だって権力狙いではなく本気で私を……。


 まさか本人の口からではなく記憶からそれを知ることになるとは。


「これを私に見せてどうするつもりなんですか」

「深い意味はありません。知っておいて損はないはずですよ。まあ最も。利用価値などないでしょうが」

「確かに彼らには私からの頼みを断る権利はないと思います。でも彼らは罰を受けました。それで充分です」

「レックス嬢。貴女は温すぎる。許さないと誓ったのなら死刑を言い渡せばよかった。戦うと決める決断も遅い。あそこまでされても立ち向かうことをしなかった。何をそんなに恐れていたのですか」


 顔を近づけてきたアラン団長は瞳の奥を覗き込む。


 海底のような澄んだ青色。息をするのを忘れる。溺れてしまいそう。


「王族といえどあの国でファーラン家を敵に回せばただではすまない。貴女はそんな偉大なファーランの血を引いているのですよ」


 瞳の色はより冷たさを表している。


 逸らさないでいると、私に対して初めて仮面を取り外してくれた。


「はぁ……。バカバカしい」


 心を開いてくれたわけではないだろうけど、たった一ミリでも近づけたと自惚れてもいいよね?


 歴史書で読んだ内容では、オーシャン王国の人間の瞳の色は必ず黒だと決まっているとか。髪は暗めの色がベースとなっている。


 ルーナは例外だけど、何百年か昔では金色(こんじき)は神の象徴として崇められた時期もあった。今ではすっかり忘れられて、ルーナへの酷い仕打ちとなってしまったようだ。


 家族仲が良好となった今、王族への侮辱罪で何人もの使用人が罰を課せられた。


「アラン団長はオーシャン王国の人ではないんですか?」


 純粋な疑問は地雷を踏んだ。


「貴女には関係のないことでは?」


 瞳から光が消えた。


 出生とか気にするタイプなんだ。意外だな。


「急にお連れして申し訳ありませんでした。お部屋までご一緒致しましょうか?」

「それは大丈夫です」

「そうですか。あぁ、それとこれを」

「お札……ですか?」


 ここ幽霊的なアレが出るの?


 だとしても渡すタイミングは今じゃない。既に一日過ごしてるんですけど。


「魔道具の検証です。ソフラ嬢にも同じものを渡しています」

「へぇー。どんな能力なんですか」

「見たい夢を見られる魔道具です」

「それはどんな夢でも可能ですか!?」

「頭の中で強く念じて頂ければ」


 これで前世の、私が死んだあとの情報が手に入る。


 会社はどうでもいいとして、両親とあとは……ゲームの続編!!

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