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元、王位継承者

 私の案はすぐ採用された。


 あの部屋もどうにかしなければならない事案の一つ。


 先延ばしにされていたのは王宮の地下であること、使えるのがアラン騎士団長しかいないから。


 それでも先代からは長すぎる。


 優先すべき案件がそれだけ多かったと言われたらそれまで。


 一国の王として間違えるわけにはいかない。そんな責任重大のプレッシャーのかかる椅子に座り続けて何が楽しいのだろうか。


 しかも兄弟がいたら争ってでも就こうとするのだ。

 王様とは国で一番の権力を持つから大変な仕事があるにせよ旨味がある。


 王になった人も、なりたい人もバカなのかな?


「レ、レックスさん……」

「どうしたのソフラ。そんなに青ざめて」

「声に……出てました」

「え…………ええっ!!?」


 どこから、なんてどうでもいい。最後のとこが大問題。


 ソンツェ陛下がめっちゃ見てくる。気にしてないとでも言うような爽やかスマイルで。


 シン様は苦笑いをしながら頬を掻き、ルーナとアラン騎士団長は背を向けてはいるものの笑っている。


 ハティとクロックは静かに俯いたまま。


「誤解があるようだから弁明してもいいかな」

「は、はい!!」

「まず初めに、私は王になりたくなかった。父上が予定より早く引退したからやむを得ず。二つ目。私は権力を振りかざすつもりもない」


 それはもうよーーーく存じ上げております。


「民の声に耳を傾けずして良い国が作れるだろうか。無理だろう?だから私は一人一人の声に、言葉に、親身になるこを決めたんだ」


 人によって目指す王は違う。


 国を良いほうへと導いてくれるなら歴史の中でも讃えられる。


 立派な志を持ったソンツェ陛下に対して失礼すぎた。


 謝ろうと口を開けば謝罪は不要だと止められる。そういう意見もあるのだと受け入れてくれた。


 メガネ越しにソンツェ陛下とシン様を見ても友情好感度しか映らない。


 ルーナがヒロインなら実の兄との恋愛はタブーというわけか。禁断の愛は萌えると思うんだけどな。


 攻略者並にイケメンなのはヒロインの兄がモブ系のイケメンでは示しがつかないから。


「ところでアラン。なぜすぐに呼び出しに応じなかった。相手が私だからか?」

「まさか。そこまで軽んじておりません。ちょっと所要でロフィーナ国に」

()()()たのか。それはさぞ疲れただろう」

「ええ。ですので本当は来たくなかったのですが陛下のご命令に逆らうのは許されませんので」


 軽んじてない?ものすごく。


 特別珍しいわけでもないのか咎める様子はない。


「アラン騎士団長。私が呼んで欲しいと頼みました。本当にごめんなさい」

「それはいいのですが……。長くないですか?その呼び方」

「呼び方、ですか……?」

「これは何と呼んでますか」

「ちょっと!これとは何よ。これとは」

「シェリーです」

「ではジルは」

「ジル、ですね」

「他の団長は」

「オリバー団長。ラファイル団長。ラミア」

「私だけ騎士団長なんですね」

「それは……。深い意味はないです。ただ…えと……」


 意味としてはどちらも同じなのに、前に騎士と付けることで特別感が増す。


 それを指摘されてしまうと意識してもう呼べない。


「で、結局何をしに行ってたんだ」

「そちらにいらっしゃいるハティ殿下……。失礼。元、殿下の恋人が」

「リンは恋人ではない!!」

「誰も彼女とは言ってませんが?自覚あったんですか。恋人だと」

「な…、くっ……」


 自覚あろうがなかろうが距離感はおかしかった。友達だったと言い張るのであれば尚更。


 私は終わったことを蒸し返すつもりはなく傍観者として見届ける。


「その元恋人……。あの女が」


 言い直したかと思ったらひどい呼び名。


 話題がリンのこととなるとルーナとソフラも怒りを隠さない。


「あの女がレックス嬢の悪評を広めていたので親であるケエイ殿に引き渡したまでです」

「わ、わた…渡した!?お父様に!!?」

「ええ。連れて来いと手紙が届いたので」

「だとしても……。え!?どうやって!?」


 最短ルートを使っても半日はかかると聞いた。


「先程、陛下が仰った()()というのは瞬間移動のことです」

「あーー」


 納得した。


 そっかそっか。うんうん。チートだもんねアラン団長。


 不可能を可能にする力を持っている。


 魔力は使いすぎると体力も消耗するらしい。


 お父様を信じたいけど、既に国に迷惑をかける大人気ない真似をしてるからな。


 追放刑を受けたリンに与えられる罰は処刑しかなくない?


 証拠のでっち上げはしない。妄想と夢に取り憑かれたリンはお父様の前でも恋物語を語ってることだろう。


 帰ったときにリンがいたら嫌だな。


 これまで私はリンと仲良くなろうと努力しようとしたんだ。裏切られまくったけど。


 許さないと宣言はしたけど死は望んでいない。


「リンのこと。本当に好きじゃないの?」

「当たり前だ!!お前に冤罪を着せて殺そうとしたんだぞ」

「それはあんただから」


 今度はしっかりと自分の意志で口にした。真っ直ぐとハティの目を見た。


 喋らないでいると整った顔がより良く見えてやっぱりムカつく。


 こんな中身クズに少しでも好意を抱いていた前世の自分に腹が立つ。


 もう一度言うけど、私は過去を蒸し返すつもりはない。ただ許さないという言葉は決してリンにだけ向けたものではないのだ。


「覚えてる?二学期になって私がお茶会を開いたのを。そこであんたは何て言った?」

「あのときは本当にすまなかった」

「謝罪じゃなくて何と言ったかを聞いたの。まさか覚えてないの?あれほど大事になったのに」


 おバカなハティのために私があの日言ったことを代わりに言ってあげた。


「信じてたんでしょ?婚約を迫った私より愛しのリンを」


 この男がちゃんと調べてさえいれば、もしかしたらリンのいじめは止まっていたかもしれない。

 追放刑にもならずに済んだかもしれない。

 そのチャンスを棒に振らせた。


「あんな大層なことを言っておいて本当に好きじゃなかった?一瞬も想いを寄せたことはなかった?」


 どれだけ綺麗事を並べても私を陥れようとしたことに変わりはない。


 権力欲しさに常識を無視した上に、拒んだだけで自分のほうが優位だと知らしめるように王族の権威を振りかざす。


 それでも三人のうち、一番許せないのはルカ。


「あんたは私だけじゃなくお父様や歴代ファーランの名を侮辱した。古くから国に貢献し、築いてきた由緒正しき公爵家をあろうことか盗っ人呼ばわりした」

「そんな後からグダグダ言うぐらいなら俺らにもリン同様の罰を与えればよかっただろ!!」

「やめろルカ!!」

「そうしたかったわよ!!あんたらの顔なんて二度と見たくなかったんだから!!」


 最初は地下にでも幽閉して欲しかった。


 顔も見たくない。声も聞きたくない。


 犯した罪を後悔しながら一生陽の当たらない場所で生きていけばいいと思った。


 でも……。


「あの日……。全てが終わったあと誰よりも先に、当事者であるあんたらより先に、あんたらの親が謝罪に来た」


 誇り高き騎士であるガラル侯爵、社交界の蝶として憧れ続けられるマーガレット様、最高権力を持った国王。


 三人が私のために頭を下げてくれた。


 傷つけられた心を気遣うような慎重な言葉選び。


 愚かな息子を持った親として、お父様ではなく私に誠心誠意心から謝ってくれた。


 私が望むならあの三人に与えるのは処刑でも構わないと。それほどのことをしたのだ。


 我が子に情がないわけではない。親だからこそ過ちに気付けず野放しにした責任を負う。


 それが意味するのは少なくとも六人の命と人生は私が握っているに等しい。


 だから私は許さない選択をした。


 一ヵ月の謹慎が三人の目にはどう映ったかは知らないけど、罪を償わせてスッキリさせたくないのも事実。


 どこの世界だって被害者だけが苦しみ続ける。時が流れれば誰もが忘れていくことでも、傷をつけられた側は一生忘れない。


 加害者だって苦しむべきなんだ。それ相応に。

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