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恩返し

 お風呂でサッパリしたあとは王族の方々と食事。作法はこれまでに幾度となく見てきたけど、この三人は別格。見とれてしまう。


 ──ただ食べてるだけなのに。


 ハティも流石は王族だったことはある。動作が美しいのがムカつく。


 楽しい食事に小難しい話はなかった。一秒でも時間を無駄にしたくないのだと思っていたけどそうじゃない。


 家族の時間を大切にしたいだけ。


 オーシャン王国には夕食は必ず家族と食べるという決まりがある。それは法律ではなく国民一人一人が意識していること。


 デザートを食べ終えて、することもなくなった。


 あのメガネを貰えないか聞いてみよう。

 使うのがアラン騎士団長でも、保管・管理をしているのは王宮。


 魔道具ではないから微妙なラインだけど王宮で保管されていたのも事実。


 ガラクタで捨てるだけだとしても許可は取っておかないと。後々、盗っ人扱いされたくないし。


 この国にそんな人がいるとは思えないけど。

 意識的にルカを見ても、私の視線には気付いていない。


 ここはルーナじゃなくソンツェ陛下に頼むのが妥当。


「陛下。厚かましいとは承知の上ですが、お願いがあります」

「何でも言ってくれ」

「このメガネを私に譲って頂けませんか」

「それは……?」

「アラン騎士団長と魔道具の整理をしていたときに見つけました。許可なく持ってきてしまい、申し訳ございません」

「それは全然構わないが。そう……あ。あー……いや、うん。それはいいけど夜店で売ってる安物だよ?」

「これがいいんです!!」


 他のメガネだと好感度が見えるか怪しい。


 持っておいて損はないしヴィザの好感度も知っておきたいんだよね。


 仮にも公女が使い時のないオモチャのメガネを欲しがることに一同、動揺しきっている。


 オシャレとかに興味ないし日常でかけるわけじゃない。それに目が悪いわけでもないしね。


 確認したいときにかけるだけ。普段は壊してしまわないように、引き出しにでもしまっておく。


「レックス嬢が気に入っているなら貰ってくれ」

「ありがとうございます!それと一つご提案があるんですけど」

「提案?」

「はい。それでその…アラン騎士団長を呼んでくれませんか?確かめたいことがあります」


 ソンツェ陛下がベルを鳴らすとシェリーが音もなく現れては胸に手を当てたまま頭を下げた。


 仕事中のシェリーは男らしくカッコ良い。口にしたら嫌がるだろうから心の中に留めておく。


 唐突だったのにすぐ用件を伝えた。理由ぐらい聞かないんだ。


 この王様に限って考えることを放棄してるわけでもないだろうから、信頼されていると思うようにした。


 ハティの顔が歪んでいる。眉間にシワを寄せて呪いでもかけようとしているのか目つきが悪い。


 睨まれる覚えがないんだけど。


 まさか嫉妬してる?アラン騎士団長の名前を出しただけで?


 成長はしても器は小さいまま。


 お茶のおかわりを二回して、飲み終わる頃にアラン騎士団長は来た。


 不機嫌が目に見える。対照的にシェリーはにこやか。


 ──闇と光みたい。


 寝てたわけではなさそう。疲れがあるみたいだし仕事の最中に連れられたとか?


 団長ってやること多そうだし。


「お前も一杯どうだ?」

「用件は」


 お得意のスルー。

 座るよう促しても頑なに聞き入れようとしない。


 あの人って国王陛下だよね?不敬に取られないかな。その態度。


 「用がないのでしたら私はこれで」

「私ではなくレックス嬢だぞ」

「そうでしたか。それで私にご用件とは?」


 変わり身の早さ。作られた笑顔。

 ソンツェ陛下も項垂れた。


「お前の主は私のはずだが」

「ケエイ殿よりレックス嬢が不自由なく快適に過ごせるように尽力しろと脅しをかけられていますので」

「お父さ……父がご迷惑をおかけしてます」

「そんなことありませんよ。むしろ力を貸してくれていること、大変感謝しております」

「そう言ってもらえるとよかったです。あぁ!そうだ。アラン騎士団長は魔道具の形と性能を把握してますか?」

「ええ。一応は」

「じゃあ……。紙とペンを貸してもらえますか」

「私のをどうぞ」

「ありがとう、ソフラ」


 説明するだけだし大雑把でいいや。


 みんな興味深々で私を囲んでは覗き込む。そんな注目されるようなことじゃないんだけど。


 「こんな風に魔道具を置くのはどうかなと思いまして」


 紙の左側には写真、真ん中に性能、右側に棚番号。


 一枚につき五〜六個載せるのが理想。多すぎると見ずらくなるからね。


 あと単に、私が細々しているのが嫌なだけ。


 こういうリストがあったほうが今後も管理しやすい。


 あの部屋には番号のついた棚をいくつか置くだけ。


 整理したとはいえ、まだまだ数がある。あんな適当に散らばっていたら誤って壊す可能性もある。

 そういう被害を防ぐためにも改善はしておく。


「これなら一日あれば出来そうだな。流石はケエイ殿の娘。発想が優れている」


 私の頭ではこれが限界。


 プレゼンで鍛えられたサラリーマンやエリート商社マンだったらもっといいものを発案する。


 私の死を回避するのに一役買ってくれたこの国に恩を返したい。


 出来ないことをやるのではなく、私に出来る精一杯で。

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