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衝撃な手紙

 昼過ぎになるとほとんどの人は死んでいた。


 なるほど。これだけのことをやっていて強くならないわけがない。


 元騎士のプライドからかクロックは息を切らせながらも立っていた。ジルも大人気ないぐらい容赦なかったもんな。


 どんなに訓練を積んでいたとしてもまだ子供。実力差は天と地ほどある。

 終わったこととはいえクロックが私にしたことを許していないジルなりの仕返し。


 食べ盛り……ではないけど、空腹の運動部並に勢いよくご飯をお腹に入れていく。


 「すごいですね……」


 味わう余裕はない。とにかくお腹を満たすようにかけ込む。


 騎士寮の寮母さんは食事を作りに来るだけらしい。


 住み込みで働けない理由は、過去に若い寮母さん(三十代既婚者)が恐ろしいことに見習い騎士に夜這いをかけたとか。未遂ではあったもののすぐ問題視された。


 当時その子はまだ十六歳の子供で精神的ダメージは計り知れない。


 コンコン。


 窓を叩く音。

 見ると白い鳥が手紙をくわえていた。


 開けてと言うように首を傾げる。


 ──何あれ可愛い。


 つぶらな瞳がじっと見つめてくる。


 誰かが窓を開けると一直線にアラン騎士団長の肩に飛んだ。


 手紙を受け取るとすぐ私に渡した。


 差出人はお父様。


 どうしたんだろ。手紙が珍しいわけでないけど、何か私に伝えなければいけないことがあるのかな?


 ジュースを飲みながら目を通すと最初の一文に思わず吹き出した。


「ど、どうした姫さん!?」

「何でもない」


 お父様は何を考えてるの!?


 もしこれが私ではない別の人に読まれていたらあらぬ誤解を生むことになる。


 それでも、絶対に私の手に渡ると信じてた?


 だとしてもだよ。お父様。


 出だしに“親愛なるカオルへ”はダメでしょ。


 便箋四枚にも及ぶ長文。上から下までびっしりと埋めつくされている。


 一枚目は国の貿易に関わること。これまではお父様のおかけで安く取引していたのを正規の値段に戻した。急激な値上がりに国は大混乱。貴族達はお父様にお願いし値段を下げるよう日々交渉に入り浸っている。


 手紙からお父様の愉快そうな笑いが聞こえてくるのは気のせいではない。


 元はいじめが発覚したときから考えていたことで、私がレックスの悲惨な未来を告げたことが実行するキッカケとなった。


 二枚目はリンの処遇。国を追放されても尚、私を陥れようとする執念深さ。


 一度国に“招待”して話し合うとか。その際のメンバーがお父様とヴィザはもちろん、騒動の原因となったガラル侯爵とマーガレット様も。私情が挟まれないように調査団も同席。


 大人が子供をいじめる会みたい。


 三〜四枚目にはお店のアドバイスをして欲しいとお願いだった。私はしがないOLであって、そういうお店での働き経験はない。


 近所のラーメン屋でバイトならしたことがある。


 ──まかないの炒飯、美味しかったな。


 最後の一行にはつい笑ってしまった。


 “追伸 カオルはメロンシャーベットが好きなのかい?”


 シロクマ会社の作るメロンシャーベットは安くて美味しくてかなり人気があった。あの会社のアイスにハズレはない。


 だからこっちの世界にもあると知って食べるようにした。


 返事を書こうにも果たして私にこんな長文を書けるだろうか。頑張ったら一枚半はいけるはず。


 所々に早く帰ってくるようにと言葉を濁らせた文面。


 手紙でもお父様はお父様だ。


 逆にすごい。ブレなさすぎる性格が。


 滞在期間は決めてなかったな。長居するのも迷惑だろうし一週間を目処にしておこう。


「レックス。まだ残ってるぞ」


 封筒の中からはみ出ているのを指さした。


 まさかの五枚目。


 これは短い。えーっと……んっ!!?


 ──これから国議会には私も参加する!?


 一番重要なことが一番短いってどういうこと。簡潔すぎやしませんか!?


 国議会ってあれだよね。国のことを色々と決めたりするあれ。国会的なやつ。


 宰相とか、偉い役職の人が集まる場じゃん!!


 ホルン先輩はもう既に招集がかけられているから子供は私だけではない。


 勉強のためだとハティも発言はしないものの参加させてもらっている。

 これまでの愚かさと間違いを真摯に受け止め、自分に出来る何かを探しているとか。


 お父様もいるから安心……なわけないでしょ。どういう流れでそうなったわけ。


 お父様とヴィザが親友だからといって、国の未来を考える席に娘を推薦するはずがない。

 一番欲しいことに関しての内容が薄いんですけど。


 私のことを見抜いてるお父様は、返事はメロンシャーベットのことだけでいいと。


 わぁー。優しいな。流石は紳士なお父様。


 一言簡潔に“好きです”と書くとアラン騎士団長が鳥に手紙を運ばせた。


 名前だけでどこの誰かわかってしまうあの鳥は賢い。遠く離れた飼い主の元にも帰ってくるし。


「早く帰れ、ですか?その手紙」

「それに近いものです」


 ハッキリと書かれてはいないから肯定は出来ない。


 見られないように封筒に入れてしっかりと閉じた。


 まさか死んでからも自分宛の手紙を貰うことになるとは。嬉しさについ顔がニヤケそうになる。


 これは家に帰ってからもう一回読み直そう。

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