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女性騎士団長

 騎士の朝は早く、私が到着する頃には朝食を済ませて訓練に励んでいる。


 そこにはクロックの姿もあって宣言通り、ボロボロにされていた。


 ハティとルカは訓練場を走らされている。

 お坊ちゃん育ちには二周が限界。へばっては倒れ込んだ。


「姫さん。暑いからこの下にいな」


 用意されたパラソル。お菓子とジュースもある。


 本当に人が多いな。


 ここにいる大半が見習い騎士。これだけいても試験に受かるのはほんのひと握り。


 競争率高いな。


 アラン騎士団長が降りて来ると団長を含めた全員が並んだ。


 英雄騎士は全騎士の中でもトップの存在。だからこそ誰もが敬意を払う。


「毎回思うんだがウザいな。これ」


 開口一番がそれだった。

 ため息つくほど嫌なんだ。


 朝礼的なものもなく「散れ」の一言で各自訓練に戻った。


 胸に赤いバッチを付けた人が団長だとするなら、私は百七十センチ近くあるスラッとした女性に目を引かれる。


「ラミア・キャネット。彼女は初の女性団長なんですよ」


 じっと見てるとルーナが紹介してくれた。


「なんかカッコ良いね」


 女性騎士の割合が多いのもそのためか。女性だから見下す様子もなく、お互いに競い高め合っている。


「私もやってみたいな」


 独り言はしっかりと聞かれていて、すぐに服と木刀を持ってきてくれた。


 いつまでも守ってもらってばかりじゃダメなんだ。いざというときに本当に頼りになるのは自分。


 長い間引きこもっていた分、訛った体を動かさないと。


 私がやるならとソフラとルーナも着替えた。

 王女様(ルーナ)に怪我をさせるわけにもいかず素振りを提案するも、アラン騎士団長が対人戦でいいんじゃないかと。


 権力に媚びを売らない。忖度もない。


 こちらがお願いしない限りは同じ扱いをしてくれる。


 ズブの素人と見習い騎士を戦わせるんだ。

 相手に女性を選んでくれたのはアラン騎士団長なりの優しさ。


 見様見真似でやってみると、案外様になってて筋が良いと褒められた。


 何事も褒められると嬉しい。


 ルーナにはアラン騎士団長が指導していた。

 対戦は?


 二人で何かを喋ってはルーナの顔が赤くなる。


 胸がズキッて痛んだ。


 一瞬、気を散らしたことにより攻撃をかわせず鋭い突きを食らってしまった。


「レックス!大丈夫か!?」


 誰よりも早く駆け寄ってきたのはハティだった。


 ポカンとあほ面を晒していると怪我がないかの確認までされた。これはドッキリ?もしくは別人?


 目には当たってないし、そこまで大事には至らない。

 ちゃんと手加減してくれていたし。


「大丈夫ですか?痛みは?」

「少しだけ」

「ではこちらを」


 小瓶に入った水。透明感が溢れてる。


「痛みを打ち消す水です。私の魔力を注いでいるのですぐに良くなります」


 魔力を持っている時点で一番のチートはこの人だ。


 この水はポーション的なもの。飲みやすいように味までついてる。


 砂糖水……かな?まぁ美味しい。


 思っていたよりも早く痛みは引いた。心做しか体も軽い。


 私の対戦相手は顔面蒼白で震えていた。自害でもしそうだな。


 「あ、あの。わ、わた……」

「気にしないでくださいね。私の不注意なので」


 フォローはしてみるも気休めにもならない。


 どんな言葉をかけるのが正解か。


 困っているとラミア団長がフォローを入れてくれる。おかげで彼女は大分落ち着きを取り戻した。


「レックス嬢は休憩なさったほうがいいですね」

「すみません。私のせいで中断させてしまい」


 自分からやりたいと言い出してこのザマ。


 呆れられるのが怖い。


 私には構うことなく再開された訓練ではアラン騎士団長が数人の騎士と手合わせをすることになった。


 見習いではなく正騎士と。


 ハンデと称して素手だし。絵面が完璧にいじめだよ。


「心配しなくてもアランは強いわ」


 ラミア団長の微笑みは綺麗だ。


 銅像とか建てられてもおかしくない。女神像って名前がピッタリ。


「うちはね。団長同士の勝負は収拾がつかなくなるから禁じられてるの」


 どんな事態になるんだろう。ちょっと見てみたい。


 アラン騎士団長は体術とやらで全員をのしてしまった。


 速かった。まるで漫画。

 たった一コマで全滅させてしまう主人公レベル。


 団長クラスならこれぐらいは出来て当然らしい。


 これが当たり前?オーシャン王国って怖い。


 肉体改造とかじゃなくて努力だけで手に入れてるのだから、すごいとしか言いようがなかった。


「ラミア団長はどうして騎士を志したんですか」

「憧れてしまったからだよ。あの英雄騎士に」

「え……」


 また胸が痛む。


 この国に住む人は当然、私の知らないアラン騎士団長の色んな一面を知っている。


 嫉妬してるんだ。


 私も充分器が小さい。


 オーシャン王国では年に一度、剣術大会が開かれる。


 国民は騎士の勇姿を見ようと集まる。そこで目にするのはこの国最強の英雄騎士。


 アラン騎士団長の戦う姿に子供達は憧れを抱き騎士を目指す。これまでに渋っていた大人も、心が奮い立ち門を叩く。


 ただ強いだけではここまで慕われない。カリスマ性を持ち合わせていなければ。


 顔は良いから告白もされるも何も言わず立ち去るらしい。それをクールと捉えるか非道と捉えるかは本人の自由。


 アラン騎士団長の詳しい過去は団員も他の団長も知らないらしい。


「ラミアさんも」

「ラミアでいい」

「でも……」

「私達は友達では?」


 イタズラっぽく笑うその顔は女神にも見えた。


「ラ、ラミア……」

「それと敬語もなくていいわ」


 シェリーとはまた違った美しさ。青みを帯びた灰色の髪が風になびく。


 剣を振るうために普通は髪を短くするのだろうけど、ラミアとシェリーは長い。女性らしさを捨てたくないわけではない。


 女性も騎士になってもいいのだと示してくれている。

 先導者だ。


「ラミアはアラン騎士団長が好きなの?」

「ない。それだけは絶対に」


 即答。断固として拒否。


 憧れは憧れ。尊敬は好意になることはありえないと。

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