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所詮は脇役

 シュリーは仕事をせずにずっと私達とお茶をしていた。


 こんなに緩くて大丈夫なの。王宮。


 部屋にこもっていると時間の感覚は狂い、外はもう陽が沈んでいる。


 ルーナは今日という日を楽しみにしていて、全く眠れていなかった。


 はしゃぎすぎと睡眠不足によりルーナの瞼は閉じられてしまう。一度寝てしまったら朝まで起きないほど寝付きはいいらしい。


 シュリーは軽々とルーナを持ち上げてはベッドに運んだ。


 アラン騎士団長といい勝負なほど細身。その体のどこにそんな力が?


 伊達に団長やってないってことか。


「さ、それじゃあ二人共。お姉さんとイイトコ行こっか」

「「はい……?」」


 シェリーは鼻歌を歌うほどルンルン気分でスキップまでしている。


 門兵に呼び止められたときには、目だけで人を殺しそうだった。


 私達を勝手に連れ出したら後でお叱りでも受けるんだな。彼らは何も悪くないから怒られないように口添えしておかないと。


 夜の外出は許されてなかったから知らなかったけど、あっちの世界と同じ。


 色んなお店があって、その明かりで道が照らされる。


 賑やかで楽しそうな笑い声。

 思い出すな。


 私の二十歳の誕生日。上司に飲みに誘われては吐くまで飲まされた。

 他の人も早々に潰されて。


 帰りはもっと最悪だった。酔ってまともに歩けない私を自宅まで送るとか言いながらタクシーに乗せては運転手にホテルに向かうよう言ったんだもん。


 既婚者で子供までいる大人が何を考えてるんだと気持ち悪く感じた。


「レックスちゃん?そんなに汗かいて暑いの?」

「いえ。そういうわけでは……」


 もう終わったことなのに恐怖心は拭えない。


 ──私は弱い。


 自分の身も守れないほどに。


 駆け出して逃げ出したい。部屋に引きこもっているほうが楽だ。


 よし。言おう。帰りたいって。


「とうーちゃーく」


 意を決した直後、目的地となっていた居酒屋についてしまった。


 扉を開けると数人の背中が壁となって中に入れない。


 ポカンとしてるとシュリーに押された。


「ここは子供の来るような場所ではありませんよ。レックス嬢、ソフラ嬢」


 目が合ったその人はため息交じりに言う。

 すぐに鋭い目付きになり不機嫌そうに舌打ちをした。


「もう。なによその顔は。美しい華が来てあげたってのに」

「華?蛾の間違いだろ」


 バトルが始まった。


 誰も止める気配はなく面白がりながら「いいぞー」や「もっとやれ」と煽る。


 状況についていけずにいると片目の潰れた男性に肩を抱かれ座らされた。


「入団希望か?随分と若く見えるが歳はいくつだ?」

「おい。その二人に絡むな」

「なんだなんだ。お気に入りか?」

「そうじゃない。レックス嬢とその友人ソフラ嬢だ。お前ら。ケエイ殿の恨みを買うつもりか」


 和気あいあいとしていた空気が凍った。


 お酒の力で盛り上がり熱くなっていた店内の温度が急激に下がる。


 人間の動きには似つかわしくないほど、例えるなら機械のようなギギって音がした。

 一斉に首がグリンってなった。


 お客さんだけでなく従業員までもが私を見ている。

 好奇の目。

 悪意はない。


 遠くにいたジルはジョッキを片手に移動してきた。


 ほんのりと顔は赤いけど足取りはしっかりしている。こんなにハメを外すジルは初めて。


 居心地が良いんだろうか。


 母国なら気を遣うこともないし。


「姫さん。浮かない顔してどうした」

「ジルが……楽しそうだから」

「俺が楽しいのが嫌なのか?」

「そうじゃなくてさ。私達といるのが窮屈だったのかなって」

「旦那様と奥様には良くしてもらってる。もちろん姫さんにもだ」

「それならいいけど」

「優しいな姫さんは。心配してくれたんだろ?そんな姫さんにあのガキは……!!」

「落ち着いてジル。もう終わったことよ」

「仮にも騎士を名乗る人間が無実の姫さんに傷をつけたんだぞ。ちゃんと謝罪してもらったんだろうな」

「あー……うん。侯爵に無理やり頭下げさせられてた」

「んなの謝罪じゃねぇよ。やっぱいっぺんシメとくか」

「やめて。いいのよ」


 会話の内容から私が理不尽な暴力を受けたことを察した皆さんは、拳を握り締めてテーブルをだんっ!!と強く叩く。


 騎士の役目に誇りがあるからこそ、他国民だろうが関係なく怒る。


 クロック、しかも騎士寮に泊まっているうちの一人だとわかると、訓練に参加させようなんて言い出す。


 シュリーも笑ってはいるも、額の隅に怒りのマークが現れている。


 特にゾッととするほど怖さがあったのはアラン騎士団長の正面で空になったグラスを見つめる男性。


 全身から危険信号が送られてくる。この人を敵に回すなと。


 指一本でも動かそうものなら確実に殺される。


 死が目の前に迫ってくる緊張感。


「オリバー。殺気を鎮めろ。怯えている」

「ん?悪ぃ悪ぃ。嬢ちゃん」

「団長!姫さんに失礼な呼び方しないでもらえますか」

「嬢ちゃんは嬢ちゃんだろ。なぁ?」

「お好きに呼んで頂いて大丈夫です」

「レックス嬢。嫌なことは嫌とハッキリ口にしないと。この男には伝わりませんよ」

「嫌じゃないです。親しみがあっていいかなと」

「バカにしているだけですよ」

「そうなんですか?」

「おい!誤解を生むだろ!!」

「第一騎士団長が悪ふざけするからだろ」


 堪忍袋の緒が切れたオリバー団長は持っていたグラスを投げつけた。勢いがあったにも関わらず、難なくそれをキャッチしては店員さんの持つお盆に置く。


 見れば見るほど私の仮説は正しい。


 団長クラスは攻略対象者。ジルも候補だろうな。


 それぞれクセはありそうだけどクズではない。


 だから何だって話だ。どうせ私には関係ない。


 モブの役目はヒロインの引き立て役か当て馬。

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