初めてのお泊まり会
「ね、ねぇルーナ。本当にいいの?」
「レックスさんはともかく私は場違いじゃ……」
「どうしてです?お二人共、私の大切な友達なのに」
「だからって王宮に泊まるのは……。ねぇ?」
「ええ。今からでもどこか宿を……」
「ずっと夢だったんです。友達とのお泊まり会」
そんな可愛らしいことを言われると断れない。ソフラと目を合わせて、互いに観念した。
友達からの厚意を無下にするのは淑女にあるまじき行為。
王宮の部屋もうちとあまり変わりがない。
いつ誰が来てもいいように掃除も行き届いていた。
ベッドは良い素材を使っているらしく、ずっと触っていたくなる。
「失礼しまーす。美味しくてあまーいケーキをお持ちしましたぁ」
ノックとともに入ってきたのは背中まで伸びた長い髪を一つに束ねて腰に剣を差した、おそらく王宮騎士。
お肌がツヤツヤのプルプルで女の子のような喋り方。
この人多分……オネエだ。いや絶対そうだよね!?めっちゃいい匂いするし。
爪も騎士とは思えないほど手入れされている。
なんかもう騎士かどうかも怪しくなってきた。
「ちょ、どうしてシェリーさんが」
「廊下を歩いてたらメイドがいてルーナ様のお友達にケーキを届けるとこだと言うから代わりに持って来たのよ」
メイン舞台のロフィーナ国よりこっちのほうがキャラ濃いな。中身も誠実で好感が持てる人ばかりだし。
対照的すぎない?
しかも彼?彼女?は、下がるどころか居座るつもりだ。
四つのカップに紅茶を注ぐ。
ルーナは何も言わないけどオーシャン王国ではこれが普通?
「おかしい」と口にして聞くのは間違いなのだろうか。
状況が飲み込めていないでいると、ルーナも私達と似たような表情を浮かべていた。
あ、違う。あれ。驚いてるんだ。
「さ、何の話する?恋バナ?」
「すみません。出てってもらえます!?」
ルーナの石化が解かれた。
至極真っ当なことを言ったはずなのにキョトン顔をされた。釣られて私達も首を傾げてしまう。
「あぁー。自己紹介がまだだったわね。あたしはシェイク・スクマ。シェリーって呼んでね」
「あ、はい。初めまして。私はレックス・ファーラン。こちらはソフラ・グランゾン。ルーナ様のご厚意により滞在中はこちらにお世話になります。よろしくお願いいたします」
「んもう〜。堅苦しいのはナシ」
「しかし……」
「いいの。ね、ルーナちゃん?」
「せめて人前でその呼び方はやめて下さい」
規則やルールはあるだろうに随分と自由なんだな。
ルーナは芯のある子だけど押しには弱そう。むしろ弱味を握られて脅迫されているのでは?
「今更じゃない。団長の集まりでもかしこまった言い方はしてないじゃないの」
「え……?えっとシェイクさんは」
「シェリーよ」
「シェリーさんは団長なのですか?」
「さんはいらないわ。ただのシェリーでいいのよ。ええそうよ」
オネエが強いってのは前世でもよくあるパターンだったから驚きはしない。
それに……シェリーの戦う姿はきっとカッコ良いのだろう。
死ぬ前にシェリーを見たら女神様と思ってしまうほど本当に綺麗。
「そんなこと言われたのは初めてだわ」
「ふえっ……!?シェ……!?」
細長い指が私の顎を持ち上げた。
顔近っ!!香る甘い匂いにクラっときた。
こういうときここは乙女ゲームの世界だと思い出す。
あからさまなモブでさえそこそこ顔はよく、その中でも主人公の周りの人間は特別。性格はひっどいけど。
外見だけならお父様やヴィザが特に良く見える。
それでも『好き』ってなると、やっぱりアラン騎士団長。
ルーナの周りのイケメン率高いよね。モブとは違う輝きがある。
やっぱりさ。ルーナって続編のヒロイン決定。
そうなると兄二人も攻略対象になる。
妹と兄の恋愛か。好き嫌いが分かれそう。
「ルーナ。気分を害してしまうことを聞いてもいいかしら。その……ルーナとお兄様は……血が繋がってなかったりするの……?」
最上級の無礼。
この場で首をはねられようとも自業自得。
和解したとはいえ髪の色で悩み傷ついたルーナに聞いていいことじゃない。
沈黙が怖いな。
部屋には時計の針の音だけが響く。
シェリーが動かないのは命令がないから。緊張と恐怖で生きた心地がしない。
ルーナと目が合わせられなかった。俯いてるといつもと変わらない声で
「血は繋がってます。鑑定結果をお持ちしましょうか?」
「そ…なんだ。そっか……。うん。よかった……」
「大丈夫ですよレックスさん。私が不義の子だという陰口には慣れていますから」
「ち、違うの!!そういう意味じゃなくて」
勢いよく立ち上がると振動でカップは倒れ白いクロスは濁っていく。
私の発言は矛盾している。そう思ったから聞いた。なのに違うと言っても説得力に欠ける。
本当に疑っていなければゲスのような勘ぐりはしない。
言い訳はやめよう。どんな理由があったにせよ悪いのは私。
謝って済むことじゃないけど、これは人としての常識。
「本当にごめんなさい」
誠心誠意頭を下げた。
ブラック企業で身につけたお辞儀スキルが役に立つ日がくるとは。
「私を笑うメイドも執事も、どうせ穢れた血なのだろうと関係を迫ってくる貴族も、みーんなアランがやっつけてくれたんです。だから……気にしてないです」
「アランは冷たい男だけど、守るものはしっかりと守る。いい男よねぇ」
この国の人はアラン・スミスという人のことを知っている。
英雄騎士と讃えられる冷徹で冷酷なあの人を。
それが羨ましくて嫉妬した。
私達の前にいたのは聖光学園、学園長アラン・スミス。作られた人物。
私を庇う発言も行動もお父様に頼まれたから。そうでなければ私なんかのためにあんな大怪我をするはずがないんだ。
自惚れはしない。
好きでいるだけなら迷惑にならないはず。
見返りさえ求めなければこれまでと同じ距離感でいられる。
胸が張り裂けそうだった。
あれかな。告白してもしなくても、フラれることは確定。
失恋の痛み。
アラン騎士団長からしたら私は子供で、お父様の娘。
告白なんて困る。
ムカつくけどリンはかなりの美人。そりゃ自分に自信があって当然。
レックスだって可愛いよ!!可愛いけどさ……。モブキャラなんだよね。際立つものがない。




