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告白

「どうしたんだいレックス」


 夜、お父様の書斎に出向くと仕事を中断してくれた。カステラまで用意してくれて。


「お父様にお話が」

「随分とかしこまってるね」

「あの私……。レックスじゃないんです」


 私の役目がレックスを救うことなら、もう終えた。


 どうにかしてレックス本人にこの体を返さないと。


 オーシャン王国の魔道具なら、魂を呼び戻す道具があるかもしれない。


 別れるのは寂しいけど、本当の私はもう死んでいる。本来の居るべき場所に戻ろう。


 行き先がせめて地獄じゃないことを祈る。


 前世では特に良いことも悪いこともしなかったけど、ブラック企業で馬車馬の如く働いた。少しぐらい贅沢を聞きいてれくれたっていいよね。


「うん。知ってるよ?」


 お父様はコーヒーを一口飲んでニッコリと笑った。


 その言葉の意味を理解するのに時間はかからない。


 カップを置く音はわざと立てられた。完璧なお父様がそんなマナー違反をする理由は私のため。


 放心状態にならないように気を遣ってくれたんだ。


「親だからね。娘かどうかはわかる。ユリウスだって知っている。ただ他の人は昔のレックスに戻っただけと信じてるだけ」

「ま、待って下さい!!知っていた!?それなのに私を娘として接していたんですか!?」

「うん。だってレックスに代わりないからね」

「おとう……。ファーラン公爵様」

「君の名前は?」

「薫です」

「カオル。誰が何と言おうが君は僕達の大切な娘だ」


 どうしてお父様はこんなにも優しいのだろう。


 ずっと本当のことを隠していた私を受け入れるなんて娘を愛しているなら絶対に出来やしない。姿形は同じでも中身は別人。私は偽物。


 そうか。だからファーラン家はこんなにも栄えて人に愛される家系なのか。


 良いとこも悪いとこも、その人の一部だと認めてくれる。


 私の隣に座り直したお父様は穏やかな笑みを浮かべていた。


「私がいるとレックスの帰る場所が……」

「大丈夫。あの子はちゃんとここにいる」


 私の手を取り、祈るように包み込んだ。


 胸が温かい。私だけじゃない。もう一人の鼓動を感じる。


 お父様の言う通り私の中にはレックスがいるんだ。


 愛おしさに緊張の糸が切れた。


「カオル。泣かないで欲しい」


 そっと涙を拭ってくれるお父様の指は本当に温かい。


 記憶を取り戻してからは私の感情だけで動いてると思ったけど、そうじゃなかったんだ。


 ちゃんとレックスの想いもあった。そのことに安心した。


 いるんなら隠れてないで出てきてよ。


 二人で決めてたんだね。理不尽と戦うと。


「これは僕個人の勝手な願いなんだけどね。カオルの存在はみんなには秘密にしておきたいんだ。もちろんカオルが話したいと言うなら尊重する」

「いえ。私もそのほうがいいです」


 ファラーン家大好きのみんなに真実を告白したら、気付けなかったことに落ち込む。


 気付くほうがおかしかったりもする。いや、お父様だからこそ(わたし)がいると気付いてしまった。


「ありがとうカオル」

「お礼を言うのは私です。お父様。これから私が話すことをどうか、冷静に聞いてくださいますか」

「うん?うん。約束する」


 隠し事をしてはいけない。


 本来のレックスが歩むはずだった人生を話した。


 何の罪もないのに陥れられ未来を奪われ誰にも何も言えないまま、最期を迎える。


 そこに深く関わる四人の名前も出した。


「そう…。そんなことが……」


 ソファーに座り直したお父様は青ざめていた。


 無理もない。溺愛している娘がひどい侮辱と冤罪の末に殺されるのだから。


 たった一人、真実を胸の内にしまい込んで誰も恨むことなく残酷な死を受け入れた。


 婚約破棄を言い渡されたあの日、少しぐらい反論してもバチは当たらない。ハティの幸せがリンとあるのならと甘んじて承諾した。


 あんなバカでクズな男の幸せを願って。


 優しいレックスを臆病者の引きこもり令嬢と呼んだ連中はこの私が成敗したい。


 空気を入れ替えるように窓を開けた。冷たい風が吹き抜ける。


 と、同時にただならぬ殺気が部屋中に渦巻いた。


「あのバカ王子も騎士も落ちぶれた公爵子息も、まとめて地獄に落としてやる」

「あの……お父様……?もう大丈夫ですので。そんな未来は起こり得ないので気を鎮めて下さい」


 あの三人は充分な罰を受けたからお父様は何もしないと踏んだけど甘かった。


 やり返すつもりだ。それも殺さない程度に、完膚なきまでに。


 お父様がベルを鳴らすと颯爽とクリークが現れた。本格的にしでかす気だ。


 お父様の雰囲気から何かを察してしまうクリークは本当に優秀だ。


 二人の笑顔が怖い。


「お…お父様?クリーク?」

「旦那様。私は何を致しましょうか」


 誰かこの二人を止めて。あぁ、ダメだ。ここにいるのはみんなお父様の、ファーラン家の味方。


 お父様がやると言ったことには全力を尽くす。


 私が焦っているとお父様は小さく笑った。


「そんなに難しいことじゃない。この手紙を陛下に渡してほしいんだ。明日、会いに行くという内容だ。向こうの都合はどうでもいいとも書いておこう」

「こんな夜に訪ねるのは無礼かと……」

「門兵に渡しておけばよろしいのですね?」


 クリーク!せっかく私がその仕事をしなくていいように助け舟を出したのに……!!


 あと陛下は忙しい人だからいくら友達といっても業務をほったらかすわけがない。


 そして本当に手紙を書いた。


 こうなったらもう無理だ。諦めるしかない。

 私に出来ることはたった一つ。


 陛下がストレスで胃痛に悩まされないことを祈るしかない。

真実は明らかに

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