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断罪されるのは⑤

「嘘よこんなの。咎められるのはレックスさんの方よ!!」


 こっちはこっちで諦めない。

 すごいなもう。尊敬する。

 悪役の鏡じゃん。


 おっと、いけないいけない。リンはヒロインだった。


 怒り喚くリンをシナー子爵がなだめるも効果はない。無益な争いはしたくないんだ。


 ここまで証拠が揃っていると言い逃れは出来ない。


 リンは自分がどれだけハティに愛されているかを語った。


 なんと驚くことに二人は三年前に出会っていた。そのときに「結ばれる運命ならまた会える」なんてバカな台詞を残していた。


 それからずっと一途に想い続けていたのか。権力狙いとか決めつけて悪かったな。


 両想いのはずが公爵令嬢というだけで言い寄られている私の存在を疎ましく思うのは当然だ。


 やり過ぎな気もするけど。


 もしリンが三年前の約束をハティに確認していたら少しはマシな未来になっていたのかも。


「違う!!俺はこんな女に惹かれてなどいない!そんな王族として恥ずべき行動を取るわけないだろ!!」


 どこかで聞いたような台詞。


 自分の立場を脅かす者は貴族だろうが切り捨てるってこと。


 吐き気がする。


 このバカは上司に似てる。こういう無意味に人をイラつかせるとことか。


 地位があるから自分が偉いみたいな……。お前は何様だと問いたい。王子様か。


 身分だけで選ぶるようなバカに人の上に立つ資格なんて毛頭ない。


 御託を並べるハティの顔を引っ叩くとかなりいい音が響いた。


 私は運が良く、周りの大人達は目を伏せたりそっぽ向いてたりして、その場面を見ていない。


 日頃の行いが良いからなんだろうな。


 むしろ良いからこそ死んでも転生したんだ。

 人間、誠実に生きるべきだよね。


「あんたを好きでいてくれてる女の子に対して失礼にも程がある」

「俺はお前を」

「こうなってるのは全部あんたのせいでしょうが!!」


 ちゃんとリンの想いに応えていればレックスがいじめられることはなかった。

 こんなにも多くの人を巻き込むこともなかった。


 どこからか、あれは本当に引きこもりの公女だったのかと聞こえる。


 手を出したことも声を荒らげることも意外すぎた。


「断罪されるのはあんたよ。バカ王子!!」


 ビシっと言いたいことを言うと緊迫した今の場面には不釣り合いな笑い声がした。


 それに驚く人が二人。


「「アランが笑ってる……」」

「あぁ、失礼。私に構わずどうぞ続けて下さい」

「もういい。レックス嬢。常々私も思っていた。ハティにこの国を任せてもいいのかと」


 おや?これはまさか……。


「民を虐げる王ならば必要ない。ハティ・エブロ・ロフィーナから王位継承権を剥奪する!!」


 前代未聞。


 他に兄弟がいれば問題はないのだろうけど、残念なことにハティは一人っ子。


 これでは次期国王がいなくなる。


 それはこれからの国にとっては大問題。


 剥奪といってもハティに人間的成長が見られれば継がせるのかもしれない。


 これはあくまでも私の推測。ただ、そうだと仮定するとこんな場所で言うことはなかった。


 これではここにいる全員が証人となってしまう。


「こんなの認めない。断罪されるのは、消えるのはあんたよ!!」


 狂気に取り憑かれたようにリンはその手に刃物を持って一直線に向かってくる。


 ──そんな物騒な物をどうして持ってるのよ!!?


 突然、空中に現れたわけでもない限り持参していたことになる。


 これはイレギュラーではなく、計画的に今日、私を殺すつもりだったわけね。


 ハッキリと死が目の前に迫ってきてるのに、冷静に分析してしまう。


 あちこちから聞こえる悲鳴の中に私を呼ぶ声が混ざっている。


 薫のときは急すぎて思い出に浸る間もなかったけど、頭の中を楽しかった記憶だけが駆け巡る。


 ──この世界はどうあってもレックスを殺したいわけ!?


 キラリと光るナイフはすぐ目の前。


 刺される寸前、目を瞑った。


 でも、一向に痛みはない。恐る恐る目を開けると学園長が私の前に立ちはだかっては刃物を鷲掴みにしていた。


「アランやめろ!」

「やめなさいアラン!」


 シン様とルーナが叫んだ。


 奪った刃物はあと数ミリでリンの喉元を突き刺していた。


「殺されても文句はないはずですよ。殺そうとしたのですから」


 笑顔の仮面が剥がれた冷ややかな目。


 氷のような冷たい雰囲気。これが学園長の本性。


 騎士、アラン・スミス。


 怖くはない。


 私にとって怖いのは理不尽に裁かれること。

 学園長は守ってくれたんだ。怖がる理由はない。


「お怪我はありませんか?」

「は、はい」


 ビー玉サイズの球体からツルが出てはリンを拘束した。


 魔道具って何でもアリなのか。これだけ便利なのに魔法が使えないなんて。


 バカなリン。素直に認めていればやり直すチャンスはあっただろうに。


 自分からそのチャンスを手放すなんて。


 陛下は私をじっと見ては何も言おうとはしない。


 被害者は私。その私が行く末を決める。


「リン・シナー。私は貴女を絶対に許さない」


 首をはねたりしない。そこまで腐ってない。

 この国を出て行ってもらうだけ。


 私はこの国が大好きだから、これ以上リンにいて欲しくない気持ちが強い。


「ありえない。だって私は美しくて、ヒロインのような存在だとみんなが……」


 そうか。今のリンを作ったのは周りの人間なんだ。


 幼い頃から美しかったリンは平民のときからずっと同じことを言われていたのだろう。


 美しさだけなら確かにヒロインだ。中身がないから空っぽで、他人の言葉で作られただけの虚構。


 鵜呑みにしたリンにも非はある。でも、現実を教えなかった大人がリンという怪物を作ったのだと自覚して欲しい。


 魂が抜かれたように抜け殻になったリンはシナー子爵に抱えられたままゆっくりと歩き出す。


「我がオーシャン王国の従国は貴女を迎え入れはしませんので」


 そこまでする?


 私は二度とリンの顔を見なければそれでいい。


 オーシャン王国の下についてる国はかなりある。この付近の国は全部そうだったはず。


 下剋上を試みる勇敢な国も現れない。


 絶対に勝てないとわかっているからだ。

 武力でも兵の数でも。


 だとすると行き先はずっと遠くの辺境の地。暮らしも平民のときよりずっと苦しくなる。


 場所によっては盗賊や野犬が出没することもあると聞く。


 大嫌いな相手だけど無事を祈る。


 国外追放を望んだのは私。その道中、もし死んでしまったら目覚めが悪い。


 リンには即刻退去が命じられた。荷物をまとめる時間すらも与えられずに、シナー子爵夫妻も共に。


 ハティのせいということもあり馬車と食料は用意した。


 最後に、シナー夫妻はリンの代わりに深々と私に頭を下げた。


 リンからの謝罪はなかったものの、これで全部終わった。


 私は……死なずに済む。大好きな家族と生きていられる。


「学園長!手は大丈夫ですか!?」


 ホッとする間はない。


 私を庇って怪我をさせてしまった。


 血が全然止まらない。見た目より傷が深いのかも。


「これぐらいならすぐに治ります。なので気に病まないで下さい」


 これまでとは違う、裏表のない笑顔。

 瞬間、なぜか体が熱くなった。


「どうしました。レックス嬢」


 伸びてくる手にどうしていいかわからないでいると、お父様が間に割り込んできた。


「今回の騒動で娘はひどく疲れたようなので我々はこれで。あぁ陛下。残りの処分は早急に決めておいてくれないと私も何をするかわかりませんよ」


 早口で噛まずに言えた。

 国への反逆罪と捉えられてもおかしくない発言を。


 学園長と距離が離れると自然と熱は引く。


「ソフラ嬢。サミールくんに今日のことを報告するのだろう?送って行こう」

「はい!」


 二人してどうしたんだろ。


 お父様なんて学園長を睨み付けてる。



 後日知った。


 あの断罪劇は私に悟られないよう秘密裏に進めれていたことを。


 子供の戯れと見逃すにはあまりにも度が過ぎていて、私が立ち上がったことにより遠慮することはなくなったのだ。


 映像(しょうこ)がなくても私が細かく覚えていたことは嬉しい誤算であり、忘れられない苦い記憶であるとも勘違いした。


 ──それなら私に教えてくれたらいいのに。


 リンの取り巻きは強制退学ののちに、家を追い出された。


 こればっかりは仕方ない。お父様を敵に回してしまったからね。リンと同じく国外追放にならなかっただけマシと思うべきかな。


 お嬢様の彼女達には働くという発想はなく懸命に許しを得ようと頑張っているそうだ。


 私以外にも随分と横柄な態度を取っていたらしく、他の令嬢からの救済はない。


 ルカは……まぁ、やはりマーガレット様は引き取らないと断言したらしく、今では豪邸とは差がある家で暮らしてる。子供を授かれなかった老夫婦が面倒を見てくれるとのこと。


 公爵は牢の中でこれまでの余罪を調べられている。フィリックス家に仕えていた使用人達が全てを証言してくれる。


 クロックはこれまでのいきすぎた言動及び私のいじめを見て見ぬふりをしていたことが咎められはしたものの、侯爵のこれまでの功績と人徳も考慮し更生が可能と判断され没落は免れた。


 それでも間違った正義の剣はもう振るえない。


 一番衝撃だったのはハティが本当に王になれないこと。


 第一候補は宰相の子供ホルン。なんとユーリさんの息子さん。


 しかも同じ学園に通う先輩。


 ホルン先輩はあの場での証言を準備してくれていたらしいけど、その必要はなくなった。


 どんな言葉でお礼を述べたらいいのか。


 みんながいてくれなければきっと私は死んでいた。


 味方でいてくれたから戦う決心がついたんだ。


 近いうちに陛下とマーガレット様と侯爵が謝罪に来るとお父様が言っていた。


 問題のバカ息子三人組は一ヵ月の謹慎。一見、罰としては軽いように思えるけど私がそれでいいと言った。


 だって彼らにとって一番のステータスは奪われたわけだから。この上なく屈辱だろう。


 王子、騎士、公爵。


 どれだけ頑張ってももう二度と取り戻すことは出来ないのだから。


 お父様は自分の影響力を知ってか知らずか、このタイミングでいくつも店を持ってることを発表した。店を経営している貴族は少なくない。


 お父様のように大人気で成功だけを収めているのはごく稀。


 あまりの待遇の良さに店を移りたい人が多発。


 経営者がお父様であるなら不当労働はない。信頼と信用のおける人の下で働きたいのは当然。


 毎日働くのは疲れるからね。心のどこかで休みたいと思いつつも口には出来なかった。クビにされかねないから。


 この世界では働くことは絶対で休むのは二の次。


 もっとこの世界の住人に優しい設定にすべきだったんじゃないの。運営。

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― 新着の感想 ―
[一言] 刃物を出したら結果はどうあれ更なる破滅でしょうに、王様はハティの代わりどうするのかな。
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