断罪されるのは③
ルカが完膚なきまでに打ちのめされてしまい、ホールはどよめきと好奇の渦に包まれた。
人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。
男性陣は心底嬉しそうな顔をしていた。これまで自分の婚約者も手玉に取られては婚約破棄を望まれる。
それだけに飽き足らずルカは他人の恋路を邪魔するだけ邪魔しといて、次から次へと女の子に手を出す。
今まで刺されなかったのは公爵家で王子の友人だから。
遊び人のために一生を棒に振るつもりなく、心の底から恨み憎むことしか出来なかった。
それがどうだろう。ルカ本人だけでなく家までが落ちた。
これを笑わずしていられるだろうか。
離婚が確定してしまった以上、マーガレット様がルカを引き取らないと公爵についていくことになる。
暴力性のある父親だけでは育てられるわけがない。
その場合どうなるんだろ。施設に入るのかな。
この後に及んで女の子の家に転がり込むなんてしないでしょ。
「ルーナ王女。まさかフィリックス家を潰すためだけにこのような場を設けたわけではないですよね」
陛下の言葉に更にザワついた。
まだ何かある?
「……え?ルーナ……様が私達を集めたのですか」
「その呼び方はやめて下さい。私はここに王女としていますが、レックスさんとソフラさんのお友達という事実に変わりはありません」
「しかし」
「嬉しかったんです。この髪色もあってこの国の人は皆、腫れ物のように、殿下の真似をしていると陰口も叩かれていました」
心当たりのある何人かは静かに下がって顔を隠した。
もう遅いって。
「そんな中でレックスさんだけが私の色は本物だと言ってくれました。私自身が否定した存在を認めてくれました。そんなレックスさんと仲良くなりたいと思いました。ですが、王女であることがバレてしまえばきっとその関係に打算が生まれてしまう」
私が公爵令嬢だと名乗らなかったようにルーナも名乗らなかった。
それは自分と家は関係ないと証明したかったから。私は私でルーナはルーナ。
友達になりたい想いに余計な感情は持ち込みたくない。
もしかしたら両家のために仲良くしてくれているだけなのだと。
格式の高い家柄は人間関係にとても苦労する。
「イーゼル・エブロ・ロフィーナ国王陛下。私はここにリン・シナーの悪事を告発致します!!」
「な、何を言ってるの!?それは私がたった今!!陛下に申し上げたことよ」
「ご自分の罪を告白されたのですか」
「私はレックスさんにいじめられていた被害者よ!!」
「双方共。少し静かに。レックス嬢。君の名があがっている。無関係ではないのだろう?」
「はい。私は……。リンさんにいじめられています」
勇気を出そう。
一歩を踏み出そう。
信じてくれる人達のために。
私は学校での出来事を全て話した。
リンはゲームと同じいじめをしてきたから覚えている。むしろ細かすぎる詳細に引かれている気がするな。
でも生きた虫を食べるのは嫌だったから、それだけは抵抗した。
それ以外のいじめは現代と比べたら陰湿さがあるだけで、怪我をするような暴力までには至らなかった。
そこは制作者の配慮もあってだろう。いや、そんな配慮があるならもっとマシなストーリー作れっての。
「リンさんに加担した方々のお名前も申し上げます」
同じクラスの人は気が気じゃないでしょうね。
薄々気付いていながら無視していたんだから。
傍観するだけの人は見逃してあげる。私は、ね……。
ある名前が出るとお父様はクリークをチラっと見ては、クリークは颯爽とホールを出た。
これは私も最近知ったんだけど取り巻きの一人はなんと、我が家から支援をしている家だった。
その子はそれを知らない。知ってたら加担なんてしないでしょうね。
家が栄えてるのはうちのおかげなんだから。
「全てデタラメです!!」
今度はリンの主張が始まった。
私と全く同じで唯一、階段から突き落とされたとこは違う。
陛下がどちらの言葉を信じてくれるかだ。
お父様の友達といえどヒロインの味方をするのでは。
加えてハティとクロックの証言もある。こっちはお茶会の件に関してのみ。
お願い陛下。信じてなんて贅沢は言わない。
せめて私の言葉を無視しないで。
「遅れて申し訳ありません。私にも発言の許可を頂きたい」
「アラン学園長!?」
よりによってこのタイミングで……。
これではリンの証言がより真実味を増す。
彼は目撃者。
私と違って優位に立てる。
リンは大袈裟に泣いてみせては学園長がいなければ……と言葉を濁した。
「誠か?」
「はい」
これで私の負けが決定する。
やはり断罪されるのは私。
どんなに頑張ってもシナリオに抗えることは出来なかった。
悔しいのを我慢して下唇を噛みながら俯いた。
「ですが。私はレックス嬢が突き落としたところは見ておりません」
「そんな!!私が助かって良かったと言ってくれたじゃないですか」
「あれは、大切な証人がいなくならなくて良かったって意味だ。それに私にはレックス嬢は君を突き飛ばしたのではなく助けようと手を伸ばしてるように見えた」
「違います!本当にレックスさんに!!」
突き飛ばしてない。突き飛ばされた。
これでは水掛け論だ。
証拠がない。
「ではここにいる全員で確認してみましょうか。どちらの言い分が正しいのか」
「どうやってですか」
「それはですね」
学園長は水晶玉のような物を取り出した。そこから宙にいくつもの映像が映し出された。
こんな技術はロフィーナ国にはない。
この人は一体何者なの。
「自己紹介が遅れてしまいましたね。私、オーシャン王国の騎士、アラン・スミスと申します」
胸に手を当て深く頭を下げた。
なるほど。つまり……学園長の登場によりさっきから肩を震わせ笑うのを我慢している三人はそのことを知っていた。
そしてその三人のうち一人にお父様が入っている。




