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断罪されるのは①

「えーーーーっと」


 これはどういうことかな?


 次の日、登校すると門が閉まってて入れない。


 休校?だって連絡来てないもん。


 だとすると今日は休日?いいや平日だ。


 ちゃんも見送りされたし。


「レックスさん。やっぱりここにいたんですね」

「ソフラ。学校休みだっけ?」

「昨夜のうちに生徒の家に今日は別の場所に集まるようにと一報がいってるはずです」

「きてないけど」


 ハブられたの私?こんな幼稚な事をするのはハティかリン。


 迎えに来てくれたソフラと向かった先は昨日ルーナがくれた地図の場所だった。


 ──偶然……だよね?


 王宮には程遠いけどお城のようは外観。


 中にはもうすでに私以外の全生徒がいた。


 一階と二階にいた生徒から一斉に視線が注がれる。


 私だけが遅刻したらそうなるか。


 ルーナが私をハメた?恥をかかせたくてわざと何も言わずに地図だけを……。

 だって普通、学校が終わってからだと思うじゃん。朝から行くなんて、そんなの……。


 いや、そうじゃない。

 私はそうじゃないと信じる。


「これで全員が揃ったわけか」


 唯一の椅子に座っているのは陛下。


 え?なんで!?


 あの人いま、めっちゃ忙しい時期じゃなかった?


 いいのかな。こんなとこいて。


「イーゼル・エブロ・ロフィーナ国王陛下。お話があります」


 リンが一歩前に出た。


 陛下は笑顔で聞いた。


 その顔素敵。カッコ良い。


 これがゲームであったならスクショしまくり。

 ベッドの上で転がり続けている。苦情がこないレベルで。


 ゲーム専用垢作って、そこで陛下への愛を叫びまくる。好感度のためならいくらでも課金するかも。


 課金するために……ブラック企業だろうが何だろうが、死ぬ気で働いてお金を貯める。


 今となっては叶わぬ夢だけど。


 意に反して表情が緩もうとしてる。ニヤけるな。頑張れ私!!


 やれば出来る子なんだから。


 深呼吸をして気を鎮めると陛下と目が合ってしまい、全力で逸らした。


 心臓が破裂しそうなぐらいうるさい。

 四十度の高熱でも出ているかのように、顔が熱かった。


 陛下は表情を隠せているけど私にはその裏が見える。落ち込んでる。


 悪気があったわけじゃない。キュン死にしたくなかっただけ。


 陛下がカッコ良いのが悪い。


「私、リン・シナーはレックス・ファーラン公女のいじめを告発します!!」


 ………………は?


 はぁぁぁぁぁ!!!??


 早すぎじゃない!?


 断罪まで月日はあるはずなのに。


 急すぎる展開に、ときめいてる場合じゃない。


「それなら私からも陛下のお耳に入れておきたい事実がございます」


 な……なんであの男がここに。


 ディーラ・フィリックス公爵。


 公爵の登場にルカが驚いているとこを見ると関与はしていない。


「十一年前にファーラン公女のとある噂が流れました。我がフィリックス家の家宝を盗もうとしたと。ですがあれは噂ではなく紛れもない真実です」


 ──違っ……!!


 反論したいのになぜか声が出ない。


 口元を抑えてその場に膝をついているとリンがこれまでに受けてきた自称いじめの数々を細かく説明した。


 ゲームと同じだ。


 取り巻きの令嬢達もファーラン家には逆らうことが出来ずに見て見ぬふりをしていたと証言まで。


 息が苦しい。


 ルーナがこうなるよう仕組んだ?


 どうして……!!?


 友達だと思っていたのは私だけだった?


 はは……。私が好き勝手に動いたせいで物語は急展開を迎えたわけか。


 どんなに頑張ってもゲームのシナリオからは逃れられない。


 断罪されるのは私だった。


「その事実とやらに異議を申し立てたい」


 穏やかな口調。ゆっくりと私に近づいてきては手を差し出してくれた。


「おと、う……さま」

「遅くなってごめんね」

「大丈夫ですかお嬢様」


 クリークまで。


 お母様お手製のハンカチで涙を拭いてくれた。


 そっと手を取ってくれたお父様は私を立たせてくれる。


「お久しぶりですね。元、旦那様」

「貴様は」

「覚えておいででしたか。驚きですね。家畜同然の使用人の顔など忘れたかと思っていました」

「今のはどういう意味だ?」


 陛下の眉が一瞬つり上がった。


「この者の言葉など」

「フィリックス公爵。私は彼に聞いているのだが」

「も、申し訳ございません」


 流石の公爵も陛下に逆らうわけにはいかず口を閉ざした。


 クリークは私を見てはまず最初に謝った。これからの発言で私の耳を汚してしまうかもと。


 一呼吸置いて、フィリックス家に仕えていた数週間の日々を語った。


 使用人だからと八つ当たりをされ怪我をするのは日常茶飯事。


 食事は彼らの食べ残した残飯。


 他にも耳を塞ぎたくなるようなこともされてきた。


 使用人は替えのきく消耗品。使えなくなったら補充すればいい。


 人を人とも思わない非道な考え。


「以上が私がフィリックス公爵家にて受けてきた数々です」

「デタラメだ!!陛下!!そんないち使用人の言葉など信じる価値もありません!!」

「これが証拠です」


 クリークはスーツを脱いで背中を見せた。そこには誰もが悲鳴を上げるようなおぞましい火傷の痕。


「私は貴族が大嫌いでした。どこの家も身分だけに執着していたからです。ですが旦那様だけは違った。救ってくれた。この方にお仕えしたいと、心からそう思わせる人徳者です」

「はは、ははは。た、確かに酷い仕打ちはした。当時の私は事業が失敗して荒れていた。それは認めよう。だが!!ファーラン公爵!!貴様の娘がしでかしたことは犯罪なのだ!!」

「え、彼は今の話を聞いて何もわからなかったのかな?」

「きっと頭がアレなんです」

「あぁ。アレか。よくそれで当主が務まっていたね」


 聞こえるようなヒソヒソ声。


 しかも『アレ』をわざと強調してる。


『バカ』とハッキリ言わないのは二人の優しさ。


 もう言っていいんじゃないかな。言葉は口にしないと伝わりはしないよ。


「君の言葉には信憑性がないんだよ。フィリックスくん」

「ではどう説明をつけるつもりだ!!娘のバスケットに入っていた宝石を!!」

「それについては私から」

「ルーナ……?」


 ニッコリと笑うルーナは私の味方だと言ってくれていた。


「その前にルカさんにお聞きしたいことがあります」

「な、なんだ」

「貴方は以前、教室でレックスさんを泥棒扱いしましたが」

「は?」


 いち早く反応したのはお父様。


 狂気に満ちた殺人鬼の目でルカを睨む。


「旦那様。抑えて下さい」


 今はルーナのターン。横から口を挟むのは大人気ない。


 グッと堪えたお父様は続きを促した。


「何の証拠があって決めつけたのですか」

「証拠も何もこの目で見た」

「何を見たんですか」

「だからレックスのバスケットに宝石が……」

「つまり盗ったとこは見ていないと?」


 ルカは焦ったように目を逸らす。

 そんなルカにルーナは詰め寄った。


「もう一度聞きます。盗ったとこは見ていないんですね?」

「あ、あぁ。だが入っていた。それは事実だ」

「それは変ですね。盗ったとこを見ていない貴方がなぜ、泥棒と叫んだのですか?」

「教えてくれたから。メイドが。レックスが宝石を盗んでバスケットに入れているとこを見たと」

「それは……実に変だな」


 陛下までもが加わった。

 ルカはわからないと言うように目を向ける。


「フィリックス家の家宝は大人の拳ほどある宝石。無論、それを隠すならバスケットは最適でしょう。ですが……そんな物を持ってウロウロしていれば他の誰かが不審がるはずでは?それなのになぜメイドだけがその奇妙な行動を目にしていたのですか。そもそも!盗んでいる決定的瞬間を見たのなら、その場で取り抑えれば良かったのに」


 ようやく理解したのか顔が青ざめていく。


 盗ったとこは見ていない。


 メイドから聞いた。


 よく出来た、杜撰なストーリー。


 私を陥れようと誰かが仕組んだ。


 そしてその誰かは……一人しかいない。


 家宝の在り方を知っていて、持ち出しても疑われない人物。


「ルカさん。私、言いましたよね?後悔することになると」


 後ずさる公爵の肩をお父様は掴んだ。それもとびきりの笑顔で。


「ディーラ・フィリックス公爵。十一年前の事件は全て貴方がファーラン家を失脚させようと企んだことですよね」

「ふ、ふざけるな。それこそ証拠がないじゃないか」

「あるよ」


 お父様が合図を送ると一人の女性が入ってきた。


「私はフィリックス家に仕えるメイドです。これからはお話することに嘘偽りはございません」


 彼女は真実を話した。


 十一年前、公爵の命令で私のバスケットに宝石を入れたこと。

 ルカにこっそり私が盗んだと言ったこと。

 病気の娘の治療費を公爵が負担してくれて逆らえなかったこと。


 そしてこの十一年。真実を打ち明けられない苦しみに胸を痛めていたこと。


「申し訳ありませんレックス様!!」


 頭を擦り付けるような土下座。


 お父様もルーナも何も言わない。私に任せてくれている。


「どうして私なんかのことを十一年も気にかけてくれてたんですか」

「覚えておいでではないでしょうが私は一度レックス様とお会いしています。そのとき娘にと花をくださいました」


 ごめんなさい。全く覚えてないです。


 自我が芽生えて記憶がハッキリしているのは四〜五歳からで、それ以前だと曖昧。


 花をあげてる時点で幼少期であることは明白。


「フィリックスくん。君はもっと使用人にも優しくすべきだったね」


 身内からの裏切りに公爵は膝から崩れ落ちた。


 更に追い討ちをかけるようにお父様は、公爵夫人が公爵と離婚を望んでいることを告げる。


 本来ならばこんなことになってしまっては夫人の実家に身を寄せることになるのだろうけど、夫人は『公爵夫人』として公爵を支えていた。


 それが正しく、女の幸せな生き方だと教えられてきたからだ。


 故に夫人は十一年前の事件にも口を出してこなかった。全てはフィリックス公爵の体面のために。


 それが仕組まれたことだとわかれば黙っていない。公爵夫人マーガレット様は不正が大嫌いなお方。公爵が買った怒りはお父様だけでないということ。


 そしてそれは多分、そういうことでもある。


 マーガレット様の実家フレドリカ伯爵家はファーラン家の味方となる。


 どんな気分だろうか。


 この世界で一番憎むべき相手の勢力を自らが拡大するのは。


「ちなみに今、陛下がサインしているのが君の離婚手続きの書類だ」

「はぁっ!!?」


 根回しいいな。


 人様の家庭事情に首を突っ込むのはいかがなものかと。


 確かお母様とマーガレット様は古くからの友人で、美しく可憐な『社交界の華』ユリウス・ファーラン。気高く凛々しい『社交界の蝶』マーガレット・フィリックスと呼ばれていた。

家同士が仲が悪くても母親同士は仲良しなんデス


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