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公爵家令嬢

 教室ではクロックとルカがハティを慰めていた。


 授業を中断して。


 その原因となった私を教師は責めるわけでもなく目を逸らした。私の機嫌を損ねたらお父様に泣きつくとでも思っているの?


 ──一人辞めたからね。教師が。

 

 するわけないじゃん。ガキじゃあるまいし。


 私はどこぞのバカ息子と違って、親の権力を自分のものと勘違いしてない。


 理不尽に怒られないのは助かる。


 ハティってあれだね。こうして見ると私と同じで友達二人しかいない。


 いや、クロックは従者だから友達には分類されない。つまりルカしか友達がいない。


 私より可哀想じゃん。


 取り巻きの貴族は取り巻きであって友達ではない。ハティがそのことを理解しているかはさて置き、リンがすっごい誇張して被害者ぶってる。


 嫉妬のあまり暴言を吐きながら頭から突き落としたのだと。


 私はあんたを助けようと手は伸ばしたけど突き落とした記憶はないな。


 のこのこと戻ってきては謝罪の一つもない私を胸ぐらをルカは掴んだ。


「自分が相手にされないからってリンに当たるなんて最低だな」

「そうね。でもね。何も知らないあんたの私へのこの暴行未遂ほどじゃないわ」

「ルカさん。やめて下さい。全部私が悪いんです」

「こんなにも優しいリンをいじめてお前は楽しいか?」

「その、優しいリンさんが自分が悪いと認めているんだからどうしてわざわざ事を荒らげるの?」

「なんだとっ!!」

「あぁ。もしかしてカッコつけたいとか?だとしたら空回ってるからやめたら。余計にカッコ悪いわよ」


 ルカの手を払って席についた。


 あまりにも堂々としていて、それ以上は誰も何も言わない。


 授業をやらないなら自習時間だ。好きなんだよね自習。


 お父様に頼まれていた雇用契約書を作ろう。


 雇用主はお父様だけど案を出したのは私だから私が作るのが筋だと。


 それに見合った報酬も払うと言ってくれた。


 お父様のお店には多くの人が働きたいと押し寄せているとか。


 そりゃそうだよね。怪我や病気をしても補償してくれるなんて気前が良すぎる。


 新しい従業員は私に選んで欲しいと書類が回ってきた。人を見る目はあるほうではないけど、任されたからには期待に応えたい。


「レックスさんは公爵令嬢として自覚が足らないようですわ」

「普通怪我をさせた相手がこうは言っても謝るのが淑女なのに」

「ずっと引きこもっていたから最低限のマナーも知らないんですのね」


 聞こえる程度の陰口。


 怪我してないし。学園長にキャッチされてたし。


 それに悪いことをしていないのに謝るのはプライドが許さない。


 リンの取り巻きもめんどくさいな。


 私は書類を作るのに忙しい。彼女達を相手にしている暇はない。


 私が無視をしているとルーナが言い返していた。


「皆さんは貴族令嬢として自覚が足りないのでは?皆さんは所詮、伯爵や子爵の身分なんですよ」

「所詮?所詮ですって!!」

「平民のくせに!!」

「私のことはとやかく言っても構いません。ですがレックスさんは公爵家令嬢。態度を改めるべきでは?それとも皆さんの頭では階級を覚えることすら出来ないのでしょうか?」

「何ですって!!?」

「殿下は言いましたよね。この国は貴族が支えているのだと。ならば古くから貢献してきたファーラン家にこそ敬意を表し敬うべきなのでは?」


 ハティの言葉を引き合いに出されたら黙るしかない。言い負かされたのがそんなに悔しいのか主君絶対のクロックに泣きついた。


 今のを侮辱罪と捉えるならクロックにはルーナに剣を向ける権利があると思ったのだろう。


 ここまで守ってくれたルーナにあんな冷たい鉄の塊を向けさせるわけにはいかない。


 前に立ち「そう言えば」とさも思い出したかのように口を開いた。


「先日の件はどうなりました?貴方が無実かもしれない平民に剣を向けて殺そうとした件です。お咎めはなかったんですか?」


 忘れさせないわよ。あんたは私に大きな借りがある。


「クロック。何のことだ?」


 呆れた。国で起きた事件は全て報告が上がっているはず。


 王となるハティにも当然その書類は目を通す。


 この様子だと読まずに閲覧したとサインをしている。


 ほんっとにバカみたい。


「でも良かったです。あの日たまたま偶然、買い物に出掛けたおかげで貴方の名誉を傷つけずに済んだのですから。そうだルーナ。こういうのは好き?」

「そ、それは……!!」


 黄色い宝石を散りばめたブレスレットを見せると反応してみせたのはリンだった。


「まさか買い占めた貴族って」

「あら。リンさんも買いにいらしてたんですか?」

「とぼけないで!!酷いわ!!私が欲しいのを知っててわざと……」

「どこまで最低なんだお前」

「知りませんよ。リンさんが欲しかっていたなんて」

「嘘よ!殿下との会話を聞いていたんでしょ」

「まさか。お二人がどこで密会してるかなんて知らないのに」


 余裕を見せるように笑顔を作ると「中庭で」と声を荒らげた。


 よし。これでここにいる全員が証人。


 貴女達の密会現場に私は一度だって近づいていない。嫌いな人間がそこにいるとわかっているのに、わざわざ近づくなんてバカのすること。


 あんな無駄に大きな独り言、聞こえないほうがおかしい。廊下歩いてて聞こえてきたんだよ。もうちょっと声のボリューム下げればいいのに。


 少なくともこの件に関しては私が咎められる必要はない。


「色は黄色でいいかな?」

「はい。あの……ソフラさんには」

「ちゃんと渡してあるわ。大切な友達だもん」


 ソフラには青い宝石のブレスレットをあげた。


 私はあの店にアクセサリーがいつ入荷するか知っている。だってお父様の店だし。


「ありがとうございますレックスさん。大切にします」

「大袈裟だよ」

「初めてなんです。誰かから何かを貰ったの」


 それって私が最初でいいのかな。喜んでくれてるみたいだし良しとしよう。


 ルーナがハッキリと私を『公爵家令嬢』と口にしたおかけで今日はもう何事もなく平和だった。

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