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理解

 自分が何者だったのか思い出し、今の自分が誰なのかを理解すると絶望が押し寄せてきた。


 落ち着け私。


 まずは状況を整理しよう。


 私は井月薫。二十三歳。


 高校卒業してすぐ会社に就職。学力が平均程度の私なんかを採用してくれたことには感謝しかなかった。


 春には気持ちを新たに頑張ろうと意気込んだ。


 なのに……!!


 そこがとんでもないブラック企業で、ほぼほぼ休みなしの勤務体制にサービス残業は当たり前。

 新人にも関わらず、無茶な仕事を割り振られ、上司は仕事も教えてくれるわけでもなく呑気にお茶を飲むだけ。そのくせ小さなミスをしたら「これだから高卒は」とバカにされた。


 先輩に聞いた話では、上司も高卒だったとか。


 家では親に心配かけまいと何事もないように振る舞っていた。


 ──まだやれる。私は大丈夫。


 そんな暗示をかけて、精神的にもギリギリの毎日を過ごしていた。そんなある日、徹夜続きで意識が朦朧(もうろう)としているなかでの出社途中、トラックに跳ねられて死んだ。


 接触した瞬間に死期は悟った。


 体は吹き飛ばされ骨が折れる音もした。


 頭が地面に叩き付けられる音は気持ちの良いものではなく、出来れば二度と聞きたくない。


 いつも通る横断歩道は多くの悲鳴と野次馬の声で騒がしかったな。


 頭を打ったら即死って、テレビか何かで見たような気がしたけど、私の意識は数分だけ持った。


 野次馬の何人かが、私の出血を止めようと頑張ってくれる。


 忙しい朝に、私のせいで足を止めさせてごめんなさい。

 声にならない謝罪を繰り返す。


 痛いと思う前に仕事行かなくていいんだと、ホッとする自分もいた。


 これで解放される。


 自分で思う以上に私は限界を迎えていた。

 撥ねられなくても、遅かれ早かれ過労死していたかも。


 トラックの運転手さんには悪いことをした。

 でも、大丈夫。あの歩道には防犯カメラが設置されていたはず。


 私から道路に飛び込んだことも、運転手さんがブレーキをかけて止まろうとしてくれていたことも、全て記録されている。


 もし私が喋れるなら、その人は何も悪くない。だから罰さないでと訴えるのに。




 って、そうじゃない。



 ここまではよくある事故。


 問題は死んだはずの私が生きてるってこと。


 しかもハマっていたゲーム“どきどき!メモリー♡”のモブキャラに転生して。



 二度目の人生。



 本当ならラッキーとか思うんだろうけど、この子は……絶対に死ぬんだもん。



 おかしいよね!?



 王子の婚約者なのにモブって。


 他にも色々と設定に悪意を感じる。


 製作者はレックスになんの恨みがあるのさ!!


 自分達で作ったキャラだけど愛せなかったの!?

 うんうん、わかるよ。そういうときあるよね。

 どうしても好きになれない気持ち。同じ人間として理解はする。


 だとしてもだよ。


 あんまりじゃないかな。地味で目立たずに生きてるだけなのに。


 ヒロインにいじめられて、しかも“ヒロインをいじめた”身に覚えのない罪で殺される。


 のちに真実を知った王子だけど、自らの非を認めたくなくて真実を闇に葬った。



 ふざけんなバカ王子!!



 レックスがあんたに何をしたって言うのよ!!


 一方的に婚約を押し付けて、好きな人が出来たらそっちの言葉だけを信じるなんて。


 バカにも程があるわ!!


 無実の人間を殺しておいて知らんぷり。そんなのが時期国王なんて大丈夫かな。


 それに加えて王妃は平気で人を陥れるような嘘つき。


 一年と持たずにこの国、滅びそう。


 頭も冷えて落ち着いてきたことだし、覚えてる範囲でストーリーと攻略対象のことをまとめてみよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] そんな王子で大丈夫か というか隠蔽に走ったなら「罪」を偽証した連中は消されたな そんな血腥いルートがハッピーエンドか、業の深い乙女ゲーだな
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