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嘘+秘密=隠し事【ケエイ】

 フィリックス家の横暴さは知らない者はいない。


 やりたい放題で良い印象はないのに、世間では僕のほうが嫌われているのが納得はいかないは。


 公爵ということを除いてもあのバカと友人という利点がある。それが更に膨張させているのか。


 バカとバカは引かれ合う。なんともはた迷惑な。


 十一年前の噂は盛大に盛られて嘘が織り交ぜているのもわかっていた。


 その場にいた誰もが、噂は真実だと口を揃える。


 レックスのみが知る真実を聞き出そうにもあの明るく社交性が嘘のように心を閉ざしてしまった。


 それだけでも重罪だというのに大衆の面前で暴力を振るい傷をつけたなど万死に値する。


 「フィリックス公爵。どうやって抹殺してやろうか」


 物理的に首を飛ばすのは簡単だ。


 罪悪感はないし、今すぐにでも殺してやりたいぐらいだ。


 だが、死体が見つかるとレックスは自分を責めてしまうかもしれない。


「旦那様。手紙が届いてますよ」


 夜も深くなった頃にノックもなしにジルが入ってきた。


 薄い青色の封筒。差出人の名はない。


 渡したのに部屋を出て行かないのはすぐに見ろという意味。


「僕は少し出掛ける」

「お共します」

「一人でいい」

「こんな時に傍にいなくてなぜあんたは俺を雇った」

「だからこうして家に呼んだろ?」

「旦那様!!俺は!!」

「ジル。僕の留守中、任せたよ」

「仰せの通りに」


 文句ありげな顔をしながら頭を下げた。


 所詮僕は、腕っ節の弱い権力者。


 ジルがいてくれるだけで僕は安心して出掛けられる。




 とある店でウイスキーを飲む男性の隣に座った。


 店主に目で合図を送ると早々に店を閉める。店内には僕と男性、アランくんの二人。


「ふ……くく。まさか君が本当に学園長になるとは」


 似合わないスーツ姿に笑いを堪えているとアランくんは「それで」と本題に入ろうとした。


 僕としてはもう少し彼で遊びたい気分なのだが。


「レックス嬢は」

「僕の娘を気安く呼ばないでくれるかな」

「娘さんは私の正体を知らないんですか?」

「え?話す必要はないよね?」


 本気で驚いた素振りを見せると困ったようなため息をついた。


 愛してやまない一人娘に男の情報を渡したくない。


 だって興味持たれたくないし。


「その様子ではジルのことも」

「嘘をつくのは心苦しいよ。でもね、レックスは知らなくていいんだ。大人の汚い事情なんて」


 純粋無垢で天使のような可愛いレックス。


 こんな欲望にまみれた世界で汚されないかが心配だ。


 アランくんのことは話す必要がないと思っているのは事実。彼がバカ正直に僕との関係をほのめかすことを言ってくれたおかけでレックスからの貴重な手紙に、あろうことか男の話題に触れられた。


 殺意は覚えたもののアランくんには面倒事を押し付けている手前、今はまだ目を瞑っている。


 それにアランくんはレックスの好みではないはず。


 顔立ちは良く女性には人気だがヴィザとはタイプが違う。


 今ちょっとイラッとした。


 ヴィザも顔は良い。腹立しいことに性格も。ああいうのを完璧な人間とでも呼ぶのだろう。


 王妃であるサシリア様を愛しているのはわかるが一国の王がいつまでも独り身でいいはずがない。それなりの身分の夫人を後妻に迎えるべきだ。


 レックスが恋心を抱く前に。


 あぁでも、ヴィザが再婚してレックスが心を痛めでもしたら辛い。


 しかも!!それがきっかけでもし、レックスに好きな男でも出来たら果たして冷静を保っていられるだろうか。


「こんな時間に僕を呼び出しておいて、これだけなんてないよね?」


 言葉の意味を理解したのか薄っぺらい笑顔が消えた。


 アランくんは無言で束になった書類を差し出す。

 今現在まででの報告書に目を通した。


 これでも僕は優しいほうだと思っている。僕が気に食わなくて攻撃してくるのはいい。笑って許そう。


 だが、それを勘違いして家族に手を出すのなら容赦はしない。


「ケエイ殿。子供のいざこざに大人が口を挟むとややこしくなりますよ」

「学園の中だけならレックスに任せていたさ」


 どう足掻いてもファーラン家は公爵家だ。


 それをわかっていながらあんな非常識な態度を取るのであれば当主として黙っていられない。


 レックスには預けてくれと言われたが情報収集は約束を破ったことにはならないだろう。


 むしろ役に立つはずだ。


 レックスがあの子爵令嬢にやり返すときに。

 やり返すという表現は良くないな。


 立場をわからせる?それも過激な発言だ。


 まぁいいか。言い方なんて。


 あんなに真っ直ぐと僕の目を見て話すレックスを僕は裏切りたくない。


 グラスが空になるとすかさず並々と注いだ。


 こうでもしないとアランくんはすぐに席を立とうとする。僕の話はまだ終わってないのに。


 氷が溶けてカランと音が響く。


「追加で頼んでもいいかな」

「断る権利はないので」

「嫌ならいいんだよ。ハッキリ言ってくれて。僕は気にしないから」

「受けますよ。面倒な仕事。その代わり学園にはしばらく復帰出来なくなりますが、構いませんよね?」

「……………………いいよ」

「(その間が怖い)」


 レックスを殴って怪我させた教師は即刻クビにした。

 言い訳を繰り返していたけど、聞いてやる必要はない。

 どんな理由があろうとも生徒が教師に手を出すなど言語道断。


 一家もろとも路頭に迷わせてやっても良かったが、レックスはそれを望まない。


 ──まぁ、これはこれでいい見せしめになったな。


 守ってくれない王子と敵に回すと厄介な我々と、果たしてどちらにつくのが得策かわかって欲しいものだ。


 子供でもわかることなのに、一体何が彼らを動かすのか。


 あのバカが本当に甘い蜜をもたらしてくれると期待しているのであれば、バカばっかりだ。


「最後に確認しますが。私のことは秘密にしておくんですね?」

「今はね」


 頼み事を書いた紙を裏向けて置くと、見ることもなくポケットにしまった。

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