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秘密は特別

 王宮の庭は流石に美しい。


 ここでしか見られない花も咲いていた。希少価値の高い花までお目にかかれる。


 貴族といえど、ここまでの花を揃えるのは難しい。


 いや。お父様ならやるか。


 我が家でも見たことのない花があり、どうやら他国の花だ。


 おっと。見とれてる場合じゃない。早く帰ろう。


 そろそろ他の貴族も出てくる頃。鉢合わせたくない。


「お待ち下さい。レックス・ファーラン様」


 私を呼び止めるのは王宮騎士団団長ウェルシナン・エルギ。


 背高っ。そしてカッコ良い。


 乙女ゲームに出てくるキャラはみんなカッコ良くしてんだなぁ……とつくづく思う。


 この人はあくまでも陛下を守るのが仕事。噂だけで私に害を加えるような人じゃない。


 不思議なのは王族に仕える騎士、ガラル家が存在しているのになぜ王宮騎士なるものが必要なのか。


 やっているのは王を守るという同じこと。


 何かしらの違いがあるにせよ、私にはわからない。興味を持ちたいわけでもないので、触れるつもりもなかった。


「陛下がお呼びです。大変申し訳ありませんが御足労願えますか」


 これ行かないほうがいいよね。


 どうやって断ろう。


 お父様ならこういうとき……


「馬車を待たせておりますので」

「大丈夫です。話はつけています。帰りは私がお送りするので先に帰って構わないと」


 いつ!?早くない!?

 メインキャラよりサブキャラのほうが優秀ってどうなの!!?


 これがお父様なら素直に帰してくれるんだろうな。


 私ではお父様のような迫力も威圧もないし、何よりこういう真面目な人に反発する度胸もない。


 観念してせっかく後にした王宮内へと再び足を踏み入れた。


 使用人は次期後継者のもてなしで忙しいのか誰ともすれ違わない。


「ここは陛下に許された者のみ通ることの出来る廊下となっております」

「そうなんですか」

「ハティ様も許されておりません。ファーラン公爵はよく招待されています。今のところ断り続けていますが」


 それは知りたくない情報だ。


 お父様も陛下の招待を断るなんてブレないな。友人としてならアリなのかな?


 自分の息子より友人の娘を先に許可してしまうなんて。


 考え方を変えれば、これから死にゆく者への……ってやつかも。


 長い廊下は処刑台に続く道に思えてきた。


「しばらくお待ち頂けますか?すぐに来られると思いますので」


 通された部屋は学園長室よりもっと殺風景だった。


 ここには国王ではなくただの人間として過ごせる空間。肩の力を抜きたいときもあるよね。


 国のため、国民のため、見えないとこで頑張ってくれてるお方。


 すごいよねほんと。


 国王としての重圧から逃げたくならないのかな。


 責任を放棄したくないんだ。


 生まれたときから王となることが決まっていた。周りのプレッシャーに押し潰されそうになりながらも努力を怠らない。


「すまない。呼び出したのに遅れてしまって」

「あの!!先程の無礼な行いは私の独断です!家は関係ないんです。ですからどうか罰は私にだけ……」

「罰?そんなつもりはないよ」

「ではなぜ私を……?」

「それは私も聞きたい。なぜ君は罰せられるとわかっていながらあのようなことを?」

「それは……」

「いいんだ。無理に答えなくて」

「お気遣い感謝致します」

「誰にでも秘密にしておきたいことの一つや二つはある」


 人の心をよく理解してくれている。


 この国はまだ完全に腐ってるわけじゃないのか。少なくとも大人はしっかりしているようだ。


 クズな大人もいるけど。フィリックス家なんてそのいい代表。


 あそこまでクズなのはむしろ清々しさを感じる。


 やっぱ信じたくないな。


 こんな素敵な人からあんな子供が生まれたなんて。


 似てるとこなんて髪の色ぐらいじゃん。


 ハティが大人になっても陛下のようなカッコ良さは得られない。


「それは社交辞令かな?」

「え?」

「声に出ていたよ」


 ──どこから?どっから!?


 胸がときめくような微笑みを浮かべている。


 どうして心の声をこうも無意識に口にしてるかな私!!


 クズの(くだり)からじゃないことを祈ろう。


 陛下は何度聞いても答えてはくれない。


 うぅ〜。私にお父様のような勇気があれば笑顔で脅迫めいたことを言えるのに。


「レックス嬢はサシリアの死の真相を知っているようだね」


 ゲームやってましたから。このイベントスチルをゲットする前にしれっとその情報をぶっ込んできましたから。


 そんなことは言えるわけもなく口を噤む。


「私はね。祝福の名を与えられたんだ」


 知っています。

 お父様から聞きました。


「特別な力があるわけではない。ただ愛する者の死後、その人間の全てが視えてしまう」


 それは立派に特別な力では?


 え、待って。じゃあなに。


 陛下は愛するサシリア様を失っただけでなく、不倫のデート中の事故に巻き込まれ死んだという絶望まで味わったの?


 不倫と言ってもその一回のみ。


 しかも相手は護衛騎士。


 王妃と騎士。二人の死にゲスな勘ぐりを入れる者もいるわけなく、単なる事故として処理された。


 当時の陛下の心情は書かれていないから確信は持てないけど、きっと二つ感情に襲われた。


 悲しむべきか怒るべきか。


 誰にも真実を告げられるわけもなく一人で苦難と戦っていた。


 年に一度のこの儀式もそうだ。忘れたい辛い記憶が今でも陛下を苦しめ続ける。


 だからゲームでは追加設定のように後から、赤い花を手向けたと表示された。


 例え遊びでも陛下のようなお方を裏切るなんてどうかしてる。


「私なら一途に陛下を愛するのに」


 だってこんなイケメンだよ?


 傍にいたいのはもちろん、役に立ちたいと思う。


 そのためなら王妃になるための勉強なんて苦じゃない。


 それなのに!!

 サシリア様は何を考えてたの!?


 蝶のように美しく誰もが憧れていた存在なのに。


 今でも尚、その死を悲しむ婦人だって多い。


 サシリア様の後釜に収まろうとする者が一人もいないことがその証拠。


 イーゼル・エブロ・ロフィーナに相応しい女性はこの世でサシリア様だけ。


 それは貴族と平民。双方が思っている。


 王妃という重圧があるにせよ国の母になれるのは名誉なこと。それに公務なら周りの人だって助けてくれる。


 なのにその座がいつまでも空席なのは陛下がサシリア様を愛していると知っているから。

 過去形ではなく現在進行形で。


「それなら私と婚約しようか」

「………………はい?もしかしてまた声に……?」

「一途に愛してくれるのだろう?」


 顔から火が出るほど恥ずかしい。


 今のは完全に私の本心。


 それを本人に聞かれてしまうなんて……!!


 穴があったら入りたい!!


「ご冗談がすぎますよ。誰が聞いているかもわからないのに」

「誰もいないさ。私と君以外」


 控えめに微笑むこの表情はゲームなら絶対にスチル写真だよ。


 ──待ち受けにしたい!!


 最上級の癒し。直接見ると破壊力が桁違い。


 鼓動が早くなる。血が沸騰したように熱い。


「へ、陛下にはサシリア様がいます。どんな理由があってもその事実は変わりません」


 必死に冷静を装うも破裂しそうなぐらい高鳴る鼓動は目の前にいる陛下にも聞こえているかもしれない。


 こうしてじっと目を見つめられてるだけでも思考が読まれてるみたいだ。


「サシリアのことは今でも愛している。だからこそ認めたくなくて、でも許せないんだ。私だけでなく国をも裏切った彼女が。人として最低だとはわかっている。死んだ者を理由に新しい相手を見つけることは」


 いえ。正しいと思います。


 不倫されたら誰だって許せない。


 立場上、騒ぎを大きくできないし、真実を口外してしまえばサシリア様の実家にも不名誉な烙印が押される。


 自分の感情に蓋をして良き国王であることを決めたんだ。


 妻と国民。両方を愛しているからこその選択。


 ──あぁーもう!カッコ良いな。


 是非ともお願いします!!って土下座してでも立候補したい。


「私は殿下と同じ歳です。まだ子供です」

「待つさ。大人になるまで」

「お父様が許してくれません」

「許可がもらえるまで足を運ぶ」


 どうして諦めてくれないの。


 仮に一億歩譲って婚約したとしよう。


 陛下はロリコンだって噂が流れるんだよ!?


 こっちの法律とか詳しいことは知らないけど淫行条例とかに引っかかる可能性大だよ!!


 切り札であるお父様を出せば引いてくれると思ったのに。


 友人の娘への態度ではない。


 まるで陛下は私を……。



 ………………。



 好感度が上がってるとかじゃないよね?


 それを見る機能(ステータス)がないから、そんなわけないと内心では笑っていられる。


 直球で聞いてみる?


 私のこと好きなんですかって。


 もしそうだと認められても困る。


「心配しなくても立場を利用して迫るつもりはない」

「陛下がそのようなことをするとは思っていません」


 あの愚行で惚れてしまったのならチョロいよ陛下。


 そんなとこは可愛いけどさ。それら全てを含めて魅力的。


 よりにもよってここが陛下の恋愛ルートスタートとは。不謹慎すぎない?


「次は私から会いに行ってもいいかな。花の一つでも持っていくよ」


 息子に対する嫌味をしっかりと覚えていた。


 眩しい笑顔を向けられると断れない。


 楽しみにしていますと返すと、私の手を取りキスを落とした。


「約束しよう」


 頭がオーバーヒートした。帯びた熱は引いてくれない。


 陛下はそんな私を見てクスリと笑った。


「二人で会うときはヴィザと呼んでくれるかな。私も君を()()()と呼ぶから」


 誰ですかそれ。


 あ、私か。


 レックス・ファーランから文字ったアナグラムのようなものか。


 二人だけの秘密って感じでドキドキする自分がいる。


 陛下……ヴィザは気がかりなことがあると質問をしてきた。


 ハティのことをどう思っているのかと。


 それは終わった話では?


 うっすらと頬を染めては表情を読まれないようにか口元を手で隠す。


 息子が恋敵になるかもしれないと不安なのか。


「前にも言いましたが殿下には欠片も興味はありません。それに……彼は王になる資格はないと思います」

「詳しく聞かせてくれるかい」

「国とは民がいて初めて成り立つもの。王は民のために存在するもの。そんな当たり前のこともわからずに自分の意見だけを尊重するのであれば国は必ず滅びます」


 自分を持ち上げてくれる貴族だけを優遇し自分が住みやすいだけの国作り。目指しているのは自分のための楽園。


 そんな自己中な王を相手にしてくれる国はいなくなり、国民だって生まれ育ったロフィーナ国を去る。


 私の思いがどこまで通じたのかはわからないけどヴィザは静かに目を伏せた。


 もしも国のことを考えてくれるならどうか間違った選択はしないで。

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