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これは報復ではない②

「無能騎士の分際でうちの姫さんに傷つけるとはいい度胸してんな」


 家に帰るなりファーラン家の騎士ジルが顔中に怒りマークを出しながら指を鳴らした。


 ガラル家に乗り込む気満々だ。


 騎士といっても自称騎士。


 ファーラン騎士団は数人の精鋭集団。とても優秀で強い。


 ジルは子供の頃は私が外出する度に護衛としてついてきてくれていたけど、今ではそれはもうない。


 本職はお父様が経営する店のオーナー。元はただのゴロツキだったのをお父様自らスカウト。


 言葉遣いや態度は荒々しいけど、教えたことは素直に聞く。


「この傷は事故のようなもの。気にしなくていいのよ。それよりなぜジルはいるの?」

「旦那様に屋敷に来るよう手紙貰ったんだ」


 ジルに何かさせるわけじゃないよね?


 従順とはいえ荒っぽい性格は治らない。


 怒りに任せてクロックを殺してしまいそうな勢い。


「姫さん。俺は理不尽を許すほどお人好しじゃない」

「だからと言って力でやり返すのは相手と同類になってしまう」

「ならこのまま泣き寝入りするのか」

「そうじゃない」


 私個人へのいじめなら目を瞑ってあげた。


 だけどリンのしたことは公爵の名に傷をつけ、あまつさえ陥れようとしたのだ。

 それはとても許せることではない。


「ジル。次の休み、久しぶりに一緒に出掛けない?」

「俺はいいが旦那様が……」

「今夜にでも私から旦那様にお伝えしておきます」


 クリークが言った。


 私の口から言うよりマシかも。


 ジルは私を妹のように思ってくれているとお父様もわかってはいるけど、年頃の娘が男と二人で歩くのは良くは思わない。


 外聞が悪いそうだ。


 悪口を叩くのは決まった家門だけで、潰そうと思えば潰せるけど、その前に私が悪く言われるのが我慢ならないらしい。


「お嬢様を殴った教師はクビにして構いませんね?」


 にこやかにしれっと許可を取りにきた。


 ダメだと言えば秘密裏に暗殺しそう。


 いつかのミステリーアニメで言ってた。死体がなければ事件にはならないと。


 死体はキッチリ処理する目だ。


 私に残された選択は小さく頷くことだけ。


「教師どころかお嬢様を嘘つき呼ばわりした連中は退学ですよ!!」


 目の前に憎い相手でも想像しているのか、硬く握りしめた拳が連続してジャブを撃つ。


 マリーの背後に怨念なようなものが見えるのは気のせいであって欲しい。


 それにクロックなら私が何かしなくても破滅する。


 引っぱたかれた瞬間、脳内に電撃が走りパァっと記憶が浮かび上がった。


 次の休み。クロックは人生最大のピンチを迎える。


 そしてそれを助けるのが皮肉にもレックス。


 あんたが私にしたことは許してあげる。


 その代わりあんたは王に仕える騎士の称号を剥奪される。


 心優しいレックスならあんなことがあっても迷いなく助け舟を出したでしょうね。


 でもね。私はそこまで優しくない。


 そして勘違いしないでね。


 これは報復ではない。


 自分の頭で考えることを放棄したあんたの自己責任。


 わかっちゃった。どうしてゲームをしていたときの彼らと実際の彼らがこうも違うのか。


 所詮彼らはゲームのキャラクターで全ては『設定』の上で成り立った存在。


 ゲームのためだけに作られて、ステータスを与えられたキャラクター。


 プログラムされて動くだけだった彼らが、普通の人間のように生活している。


 そりゃポンコツだわ。


 メインキャラが優秀なのは、ゲームをプレイする第三者がいて初めて力が発揮される。


 自分の意志で動いたら目も当てられないほどのクズっぷり。


 つまり現実の彼らは女を見る目がなくて裏の顔にも気付けない、美人に弱く鼻の下を伸ばして血筋だけしか価値を見い出せない最低のクズ野郎共。


 ──あ!!でも!!陛下は別だからね!?


 ゲームでは顔も出てこないし出番も少なかったけど、良い人だった。あんなバカ王子の親であることが信じられないほど。


 今のところは、だけど。


 攻略対象にあるってことはハティ達のように何かしらの問題があるのかもしれない。


 実は束縛が激しいとか?


 それはそれでアリだね。


 好きな人の多少の欠点には目を瞑れる。


 ちょっと待てよ。普通の束縛のわけがない。


 鎖に繋がれて幽閉されそう。


 それある意味バッドエンドだよね?


 陛下の愛を手に入れようなんて恐れ多いことなんて考えはない……けど。


 もっと身近に恋愛できる人がいたらなぁ。


 ジルは顔はちょっと怖いけど私のタイプ(イケおじ)じゃない。


 本当はみんな素敵なんだけどね。


「みんなというのは我々も含まれているのですか?」

「ん?なにが?」

「みんな素敵と仰ったので」

「………どこから声出てた?」

「素敵という(くだり)だけですが」


 あっぶな……。


 前のとこがきかれてたら何かと面倒になるとこだった。


 速攻お父様に報告される。


「当然よ。だってみんなはお父様が選んだ人材。素敵で頼もしいわ」

「お嬢様〜」

「もう。泣かないの」


 両手を広げてマリーを受け止める体勢に入った。


 私の胸に飛び込んだマリーを気の済むまで泣かせてあげよう。


「あのー。お取り込み中すみません。お嬢様にお会いしたいという方が訪問されているのですが」

「私に?誰かしら」

「それが……ですね。ガラル家のご子息が」


 すると、マリーの顔が一瞬にして鬼になった。

 ジルも悪い笑みを浮かべている。


「ご用件は?」

「お嬢様のお見舞いだとか」


 クリークは唯一冷静…………ではない。


 目は光を失い声も氷のように冷たい。


「どう致しましょうか?」


 恐怖で今にも泣き出しそう。声も震えている。

 私に助けを求めるような視線を送られるも苦笑いをするしかない。


「お嬢様は怪我の具合がひどく、とても人にお会いできる状態ではないと伝えてくれますか」

「は、はいっ!!」


 動向が気になるのか窓から外の様子を伺っている。


 馬車は帰ったのか、クリークの表情にも色が戻ってきた。


「入れてやりゃあよかったのに」

「ジルさん。あの様な外道をお嬢様と同じ空間にいさせていいはずがないでしょう?」

「相変わらず顔に似合わず毒吐くな」


 外道かどうかはさておき、私もクロックの行動は引っかかる。


 リンが好きならあっちのご機嫌取りだけをしておけばいいのに。


 それどころか早退してまで私のお見舞い?


 私に手を差し出したことといい。

 ほんとどういうつもり?


「あのー……。お嬢様にご来客が」

「バカに仕える者はバカになるようですね」


 殺気がダダ漏れ。本音を隠すつもりもない。


 ジルに目で合図を送る。何をする気?


「いえ、あの……。ご友人のソフラ嬢でございます」

「……すぐにお通ししろ!!すぐにだ!マリー。いつまでそうしてるつもりですか。おもてなしの用意を!!大切なお客様を一秒足りともお待たせしてはなりません!!」


 切り替え早……。


 うちの人って、好き嫌い激しいよね。

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