お茶会当日
いよいよお茶会当日。
お母様と庭師が手塩にかけて育てた温室でティータイムを楽しみたかったけど、許可なく勝手に使用するわけにもいかずに専用で作らせた部屋に招待することに。
お茶会専用の部屋ってなんだ!!って心の中で叫んだ。
これだけ家が広いと部屋も余るんだろうけど。
改めてお金持ちってすごいと実感した。
最近まで使っていなかったために埃が溜まっていたけど、私のためと使用人達が大掃除ばりに頑張ってくれたおかけで部屋の隅々まで輝いている。
温室使用の許可は手紙で取れば良かったんだけど、返事が間に合うか微妙だったため、専用の部屋を使うことにした。
断じて!!温室に入れたくなかったとか、そういうわけではない。
あんなにも美しく綺麗な花を私に似て地味だと笑うかもしれない令嬢達に一歩たりとも足を踏み入れて欲しくないなんて、思っていない。
「お嬢様。そろそろ皆様、ご到着のお時間です」
「うん」
大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせながらクリークと門まで出迎えに行く。
どんな話題になっても傷つくことはない。
どうせ十一年前のことをほじくり返してオロオロする姿が見たいんだろうけど残念ね。
どんな状況になってもいいようにシュミレーションはバッチリよ。
言い負かすまではいかないけど黙らせるぐらいはしておこう。
今になってあの噂が広まらないように誤解だとわかってもらう。
「おかしいわね」
時間になっても誰一人として姿を見せない。
あ……なるほど。そういうことか。
「お嬢様」
何かを察したクリークの目は怒っていた。
声に殺意が篭っている。
「きっと道が混んでいるのよ。ここは暑いから失礼だけど中で待ってよう」
「そうですね。今日は特に日差しが強いですから」
私の嘘に乗っかってくれた。
眩しいと言わんばかりに目を細めて日を遮るように手をかざす。
数人は門で待機してもらう。公爵家に無断でズカズカ入り込むような無神経さは持ち合わせていないだろうから。
この部屋への案内役がいないと困るだろう。
主催者としては全員が揃うまでお茶に手をつけるつもりはない。
時計の針の音がいつもより大きく聞こえる。
一番美味しい状態で用意していた紅茶を、何度淹れ直したことか。
捨てるのはもったいないから使用人達の休憩に飲んでもらっているけど、そろそろ限界だ。
茶葉はまだまだ余裕はあるけど、客人をもてなせないのに使うのは嫌だ。
使用人達に後始末をさせているみたいで腹が立つ。
俯いていたら涙が零れてしまいそうで顔を上げた。
あと三十分だけ待ってみることにする。
それでも来ないなら、このお菓子はみんなで食べるよう。
目を伏せていたずらに時間が過ぎるのを待っていると、閉め切っていた扉が開く。
まさかと思い入り口を見ると一番来てはならない人物が二人、そこに立っていた。
「お父様。お母様。帰りは三日後のはずでは」
「そのつもりだったのだが……」
普段から笑顔のお父様が無表情。
かなりヤバい。
「クリークからレックスが友達をお茶会に招待したと手紙をもらい、急いで帰ってきたんだがこれは一体どういうことだ?」
「それはその……。あの……」
この状況はシュミレーションしてなかった。
その言葉が誰に問われたものかは関係ない。
お父様を納得させられることなど出来ないのだから。
せめて一人だけでもいたら言い訳は立つ。
これならソフラを招待すればよかったな。
彼女が悪く言われて笑われるのが嫌だったから今日はあえて呼ばなかったのが裏目に出てしまった。
だって思わないじゃん。
いくら嫌いでもなんの連絡もなしにすっぽかすなんて淑女にあるまじき行為。
さっきから一言も喋らないお母様が怖い。
帰ってきたマリーも一度外に出て入り直すという謎の行動をとった。
本当にどうしよう。
「きっと道が混んで……」
「清々しいほどに空いていた」
考えがお見通しなのか回答が早い。
これはもう無理だ。
隠し通せない。
いじめのことは伏せてリンにすこーーし嫌われているかもと言葉を濁した。
ハッキリと断言してしまえば全てがバレる。
そうなればリンに協力した令嬢にも相応の報復が行われるかもしれない。
報復ってのは言葉が悪いか。
うーん、そうだな。
仕返し?
それも……ね?うん。ダメな感じがする。
まぁとにかく!娘命の二人はありとあらゆる手段を用いて学園そのものを潰し兼ねない。
学園にどれだけの貴族が通ってると思う?将来を台無しにされたと逆恨みする輩まで出てくる。
そうなったら……我が家の訓練された努力するエリート達の手によって闇に葬られてしまう。
「はぁ……」
お父様は短いため息をついて席についた。それに続いてお母様も。
クリークは部屋を出て、でもすぐに戻ってきた。他の使用人を連れて。
空席が埋まっていく。
「さ、楽しいお茶会を始めよう」
それが合図。
普段は席を共にすることを断固として拒否するクリーク達が代わる代わる席についた。
料理長はみんなにメロンシャーベットを振る舞ってくれる。
──美味しい。美味しい……な。
こうやってみんなで食べるのは。
涙が溢れるのを我慢してると、みんなが温かな笑顔を浮かべていた。
「お父様」
「なんだい?」
「この件は私に預けてくれませんか?」
「預けるとは……?」
「お願いします」
詳しいことは言わずに真っ直ぐとお父様の目を見た。
私は別にやり返すつもりはない。
ただわからせてあげる必要がある。
私は公爵家でリンは子爵家。
それは揺るぎない事実。
「わかった。その代わり無茶はしないと約束してくれるかい」
「はい。ありがとうございます」
リン。この代償は高くつく。
私だけでなくファーラン家を侮辱した罪は重い。




