お茶会への誘い
ルーナ。
アラン・スミス。
ゲームに登場しなかった人物。
アラン学園長は私を知ってるみたいだし、不利になるような発言はしないと信じたい。
信じたいだけであって信じるわけじゃない。
大人は権力に屈する。
それだけはどちらの世界も共通。
目の前に王族の権力をチラつかされれば、たかが貴族令嬢一人簡単に切り離す。
「レックス様。もしかして退学を言い渡されたのですか?」
教室には戻りずらくて中庭で時間を潰しているとルーナが探しに来てくれた。
走り回ったのか額に汗が滲んでる。
「私が証言します。レックス様は何もしてないと」
「気持ちだけで充分よ。ありがとう」
「そんな……。それにしても殿下は何を考えているのでしょうか。無実の人が陥れられようとしていたのに。あれでは名ばかりの……」
ここから先は言わせないようにルーナの唇に人差し指を当てた。
「どこで誰が聞いているかわからないから」
特にクロックに聞かれたらその場で首を斬られる。
ガラル家は王に仕える騎士として常日頃から剣の所持が認められているのだ。
状況に応じて殺しも可。
必要性がなくても疑う者はいない。
特例で罪のない人間に剣を向け、振り下ろしたとしても、ガラル家は正義の剣として賞賛を浴びるだけ。
誰が悪で、誰が裁かれたとか、誰も興味がない。自分さえ無事なら後はどうでもいい。
そんな性根の腐った人間しかないんだ。ここには。
「そうだ。忘れるとこだった。今度の休みもし時間があるならお茶会にお誘いしても?」
「今度の……?その日は用事があって」
「そう。それじゃあ仕方ないわね」
私なんかと仲良くしてくれるルーナがいてくれたらきっと楽しいお茶会になっただろうに。
ルカのせいで人目を気にするようになってから今まで開くことはなかったし、開こうとも思わなかった。
殻に閉じこもっていれば傷付くことはなく、自分の身を守れる。
悲しいことも辛いこともない世界は楽。
ただ、それじゃダメなんだ。
私だけがレックスの本当の想いを知っていて、救えるたった一人の存在。
これまでと同じように、いつまでも逃げるわけにもいかずに意を決した。
数人の令嬢を家に呼んでお茶するだけ。
怖がることはない。
主催は我がファーラン家。
あんなことは起こらない。
起こるはず……ない。
染み付いた恐怖に体が震えているとルーナの小さな両手が私の温かく包み込んでくれた。
「大丈夫です。私はレックス様の味方ですから」
お日様のような髪が輝いているからなのか、ルーナの手は本当に温かい。
さっきまで震えていたのが嘘みたいに、ルーナの手が恐怖を吸い取ってくれた。
「ルーナは優しいね」
「名前……」
「ご、ごめんなさい。つい。ルーナさんは……」
「ルーナでいいです。ルーナがいいです!」
グッと顔を近付けられると何だか恥ずかしい。
こんな可愛い顔をドアップで見てると心臓に悪いな。
目が大きい。まつ毛も長い。
メイクなしでこんだけ可愛かったら、絶対モテるはずなのに。
残念なことにこの世界で一番美しく、男を虜にするのはリンと決まっている。
美しいのは私のお母様だけどね!!リンなんて足元にも及ばない。
カッコ良いのだって攻略対象じゃなくてお父様と……陛下だし。
というか、うちの使用人はみんな可愛くてカッコ良くて綺麗。あんなクズ連中と比べること自体失礼だ。おこがましすぎる!
「レックス様?」
心配そうに上目遣いで見つめられると女でありながらドキドキしてしまう。
心の内を悟られないように平静を装いながら
「私のことをレックス様と呼ぶのをやめてくれる?」
「で、でも……」
お願いと言いながら微笑むとルーナは目を伏せて考えた。
やはり私が公爵家だから……。
身分は時に厄介だ。自由を奪う鎖となって私を縛る。
同じ人間なのに、たかが身分のせいで上下関係が生まれる。
「レックスさん。次回のお茶会にはお誘い頂けますか?」
「もちろんです」
私の思いを汲み取ってくれたのか、太陽よりも眩しい笑顔を向けてくれる。
嬉しくてついルーナを抱きしめた。
同じ女性なのに小さくて抱き心地が良い。
甘いのに爽やかで上品な香り漂う。
自分で遠ざけようとしたのに傍にいてもらえるのはこんなにも心強い。
友達になろうなんて言葉は飲み込んだ。
今現在で死ぬ運命にある私と交友性があるのは危なすぎる。
いつか言えたらいいな。
私はルーナと友達になりたいのだと。




