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アナザーストーリー

 約束を破るわけではない。


 私はただ家族の負担になりたくないだけ。


 毎日遅くまで仕事に没頭するお父様。


 あの広い家や庭の手入れで一日中動き回るお母様。公爵夫人としてたまにお茶会に紹介されたりもしている。


 私が生きていた頃よりも忙しさに追われている二人に、いじめられているから助けてくれなんて泣きつけない。


 起き上がって制服についた汚れをパパッと払った。


「んー?どうしたー?」


 担任が入ってきた。


 ぼんやりとだけど状況を察しただろうに何事もなかったように生徒を席に座らせる。


 これが私が教師にいじめを受けていると言えない理由。


 ハティとルカは親友設定なのだ。


 つまり王族が親しくしている公爵家が嘘をつくはずかないと、逆に私を嘘つき呼ばわりする。


 どれだけ制服が汚れていても、傷だらけでも、例え現場を目撃しても、いじめはなかったと言い張るのだから恐れ入る。


 その目は十一年前にフィリックス公爵に向けられた目と重なって沈黙を選ばされた。


 みんな必死なのだ。ハティに取り入ることに。


 将来、少しでも自分の立場を良くしてもらうために、今のうちに媚びへつらう。


 救いなのは教師はいじめに参加はしないこと。


 傍観者で、自分の立場を守ることに必死で、最も権力を持つ者が正義だと信じて疑わない。


 本編が始まると色々と思い出してきた。


 ハティはいじめの事実を知らない。


 クロックは何度もいじめを目撃している。


 ルカは憂さを晴らすように見えないとこに傷をつけられた。


 リンは存在がムカつくという理由だけで階段から突き落としたり生きた虫を食べさせようとしたり。過激なことをしてきた。


 レックスが公爵令嬢であるとわかっていながら、助けるどころか、レックスとリンの立場を入れ替えて死刑にまで追い込む。


 本物のレックスは誰にも真実を言えないまま受け入れるしかなかった。


 そうだ。あのゲームには二つめのストーリーが存在したはず。


 リンではなくレックスが主人公のアナザーストーリー。


 私はそれをプレイしていたんだ。


 レックスの本当の想いを知っていた。


 三人のキャラをオールクリアするとアナザーストーリーが出現する。


 そこでは本編では描かれていない十一年前の悲劇。愛情を注いでくれた家族や、いつも味方でいてくれたマリー達に真実を打ち明けられない理由も明らかに。


 エンディングは断罪のみ。


 どれだけ酷い仕打ちをしても許され、愛され幸せになる悪役令嬢(ヒロイン)


 それとは別に存在しない空気のような扱いで生きることを否定され惨めに死ぬ公爵令嬢(モブ)


 何もしていないのに……。


 レックスは誰にも迷惑をかけてなんていなかったのに……。


 あのゲームにハマったのはレックスのアナザーストーリーが悲しくて、そんなレックスに愛しさを感じたから。


 これで完璧に理解した。


 私はアナザーストーリーのレックスに転生している。


 幸いなことにポイントであるハティと婚約はしていない。


 これは私にとってかなり助かる。


 ハティの婚約者というだけでいつもクロックからは睨まれ嫌味を言われて精神的にも苦痛だった。


 つまりレックスは四人にいじめを受けていたのと同じ。


 無関心なハティ。

 口撃的なクロック。

 暴力的なルカ。

 自己中なリン。






 改めて思った。





 死んでたまるか。





 こんな連中のせいでレックスが死ぬなんて許さない。


 私が必ず唯一の生きるルートを辿ってみせる。


 授業が始まるといじめは開始された。


 私の後ろにいるルカは髪を引っ張ったりペンで背中を突く。


 あー、鬱陶しい。


 やり返したいけど事を大きくすればもっと面倒なことになりかねない。


 我慢してそれらを無視していると椅子を思い切り蹴られて机ごと前の席に衝突した。


 かなり派手な音に黒板に文字を書いていた教師の手はとまり、ゆっくりと振り向いた。


「ファーラン。授業中に遊ぶんじゃない」


 違うでしょうが。


 あんたのその目はただの飾りなわけ?


 後ろでルカがニヤニヤしているのも目に入っていない。


 反発したところで虚しいだけ。


 形だけ頭を下げた。


 このクラス……学園に私の味方はいない。


 はは。最悪。


 友達作る夢が早くも崩れ去ったじゃん。


 ルーナはどうだろうか?


 いや、ダメだ。巻き込めない。

 私と一緒にいたらルーナまでいじめられる。

 それだけは嫌だ。


 授業の内容はゲームで得た知識と変わらない。


 助かった。これなら授業自体に出なくても支障はないけどファーラン家の名に傷をつけるわけにはいかない。


 このまま大人しく授業は受けるとして、席替えしてくれないかな。


 確かどこかの伯爵令嬢が言うんだよね。


 オリエンテーションも兼ねて席替えをしようと。


 進級すればクラス替えもあり、初めましての人が多い。


 教師は悩みながらも「するか」と言いながらチョークを置いた。


 席は自由。各々が好きなとこに座る。


 ハティ達の隣りは当然のことながらリン。


 その後ろにクロックとルカが座り、周りは女子生徒で囲まれる。


 ──うっわ。あの辺、地獄みたい。


 私の指定席は窓際一番後ろの掃除用具入れの前。


 一人だけ切り離されたようにクラスメイトが遠い。

 私だけが別世界にいるみたいだった。


 誰かが後ろにいないだけでストレスを感じずに済む分ここはマシだ。

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