表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/72

四人目はヴィザ

「お、お父様?急にどうしたの」


 部屋を出たあと、舌打ちしながら叩き付けるように勢いよく扉を閉めたお父様が怒っているのはわかる。


 外で待機していた騎士の男性が思わずギョッとしていた。


 陛下に何かあったのではと慌てて部屋に入るのを視界の端に捉えながら、廊下の角を曲がっていく。


 早々に王宮を立ち去ろうとするお父様の歩くスピードは速くて、ついて行くのがやっと。


 何に対して怒っているのかもわからない。


 私が発言した後から急に態度が変わった。もしかしたら私に怒っているのかもと思うと怖くなる。


「お父様!!」


 置いて行かれる不安から背中に抱きついた。


 お父様はそんな人じゃない。


 いつだって家族を大切にしてくれる。


 じゃあどうして、こんなにも明確な怒りを示しているのか。


 私が怒らせたのならちゃんと謝りたい。


「ごめんよレックス。怖がらせたみたいだね」


 自分でも気付かない涙を拭ってくれた。


「レックスに怒ってるわけじゃない。ヴィザにだよ。だから泣き止んでおくれ」

「うん……」


 ん?


 今なんと?ヴィザ?


 驚きのあまり涙はすっかり止まって、間抜けな顔をしているに違いない。


「おと……うさま?ヴィザ……さんとは?」


「え?あぁ。さっき会っただろ?陛下のことだ」

「陛下のお名前はイーゼル・エブロ・ロフィーナ様だよね?」

「これは誰も知らないことなんだけどね。陛下は生まれたときに“祝福の名”を神より与えられている」


 知らないんだけど。そんな裏設定。


 このゲームは純粋?な学園恋愛ストーリーじゃなかったの。


 祝福の名は神に愛された者だけが与えられるもの。

 頭に直接その名前が聞こえるため第三者にはわかりえない。


 自己申告しない限りは。


 神に愛されているから特別な力があるわけではないらしい。


 いや、ちょっと待って。


 陛下がヴィザ?


 それはつまり四人目の攻略キャラ。


 ──…………………………はぁっ!!!!??


 確かに陛下は今は独り身。王妃であるサシリア様を早くに亡くされた。


 だからおかしくはない……。ないんだけども。

 何してんの運営!!


 国のトップを攻略ルートに入れるなんてさ!!


 歳の差ありすぎ!!


 えーっと陛下は今年で四十五歳。私が十七歳だから……二十八歳差。


 これはどうなんだ。愛し合ってる同士ならアリだろうけど。


 スタッフ全員一ヶ月ぐらい徹夜して意見がまとまらないから、じゃあ国王と……ってしちゃったの?絶対そうだよね!


 何を考えてんの!?


 本っっ当に…………




 ありがとう運営!!スタッフの皆さん!!こんな最高のルートを用意してくれて。


 貴方方は神様です!!


 って、ああぁーーー!!!!


 私はもうプレイ出来ないんだった。陛下は一番の私好みなのに……。


 しかも陛下が四人目ではレックスでも攻略するわけにもいかない。


 うぅ。地獄だ。


 ──ちくしょう……。


 生きる最前の攻略対象が陛下なのに、何も出来ないなんて。


 心の中で号泣していると勝ち誇ったような笑みを浮かべたハティが向こうから歩いてきた。

 私が陛下にお叱りを受けたと見当違いなことでも思っているのか。


 一瞬、なんでここにいるんだろうと思ったけど、王宮がハティの住む場所だった。


 あんな男、ボロ小屋で充分なのに。


 こんなバカに国のお金が使われているのだと思うと、お金がもったいない。ドブに捨てるようなものだよ。


 身に付けた教養も学も全く活かせてない。


 これが本来、在るべき王子の姿なのだとしたら国は破滅を待つしかない。


「レックス・ファーラン。俺に言うことがあるんじゃないのか」


 待てよ。


 陛下が四人ということはいずれはリンに好意を寄せるということ。


 さ……最悪だ。


 私の神推しのキャラが悪女の毒牙にかかってしまう。


 どうにかヴィザルートだけは回避させないと。


 ハティの父親なら王宮を出入りしているときに勝手に紹介されてしまう可能性がある。


 ヴィザルートをやってないから、どこでどんな風に出会うのか。どうしたら恋愛に発展するのか。


 全てが謎。


「おい。ブツブツ言ってないで俺に謝るのが先じゃないのか」

「殿下。娘が無礼を働きましたか?」

「なに?」

「失礼。ただ、イーゼル陛下は謝罪をしなくていいと申されたものでして。それよりも。娘との婚約の件ですが」

「認めてくれるのですか」

「娘の好きなところ百個。今ここで。仰ってくれれば。娘を愛しているなら簡単ですよね?むしろ百個では少ないぐらいか」

「ふざけるな!バカバカしい」

「ではこの件はなかったことに。最も、陛下は婚約を認めるつもりはないようですが」


 最後の希望が絶たれてしまった。


 あれ……?ちょっと待てよ。


 ゲームの内容を少し思い出した。


 レックスが死ぬのは“恋愛ルート”でのハッピーエンドとバッドエンド。


 ヒロインが誰も攻略しない“友情ルート”では生きていた。


 断罪もされない。


 不名誉な噂は流れたままだけど、それだけ。

 これだよこれ!!


 私はいくらいじめられてもリンが誰とも結ばれなかったら死は回避出来る。


 目指す未来が見つかると急に心が軽くなった。


「お父様。早く帰ろう。お母様が待ってる」

「そうだね」

「では殿下。私達は失礼します」

「お、おい……」


 後ろから情けない声が聞こえた。


 それは私にはなーんにも関係ないからお父様の手を握って寄り道することなく門へと向かった。

 鼻歌交じりで。


「えらく機嫌が良いね」

「だって陛下がカッコ良すぎたから」


 瞬間、ピキっと空気が割れる音がした。


 恐る恐るお父様の顔を覗くと氷のように冷たい乾いた笑顔。


 言わないほうが良かったかも。


「お父様もカッコ良いけどね」


 これは本音。


 自分の父親がこんなイケおじってだけでテンション上がりまくり。


 毎日でも見ていられる。


「陛下とどっちがカッコ良いかな?」

「………………お父様」

「間があったように思うのだが……」

「そんなことないよ。お父様はすごくカッコ良いんだから。もっと自信持って。それに。お母様のように美しい人が愛してくれてるんだよ?お父様がカッコ良いって証拠だよ」

「なぜレックスはこんなにも可愛いんだ」


 苦しいぐらい強く抱きしめられた。


 ここにクリークがいたらきっと、お父様とお母様の愛娘だからって、どこかで聞いたような返事が返ってくる。


 あのねお父様。


 私にはどうしても気がかりなことがある。


 どうしてお父様は陛下の祝福の名を知っていたの?


 お二人は仲良しですか。大親友ですか。


 そのことはまた後日。それとなく聞いてみよう。


 流石にこの状況で陛下との関係を聞くと意識していると思われる。


 実際は超してるけど。


 今は明るい未来が訪れるという希望に胸を踊らせよう。


 俄然やる気が出てきた。


 ようし。新学期から頑張ろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ