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第4話 夕日と忘れもの


 日没までは残り30分といったところだろう。

 

 さあ、どうするか…

 食事をとり、生き返った脳をフル回転させて考える。


 あらためて、この森にいることによる危険性を考えよう。

 

 危険性…といえばあの池が最初に思いつく。

 少なくとも俺はあんな生物?の存在を聞いたことも見たこともない。

 その程度にはこの場所の植生は未知数だ。

 それに移動中、何度か20cmほどの獣の足跡を発見した。

 その時はその付近を迂回して進んだが、あんなのがいるとなるとますます危険だ。


 少なくとも地面で休むのは明らかに危険…というか自殺行為だろう。


 となると獣が登ることのできない木の上で休むのが安全だろうか?


 …いや、それも少しリスクが高そうだ。


 木を登ることのできる動物も自然界にいないことはない。

 そんな生物がこの森にいる可能性もある。


 あんな池がある森だ。少なくとも異常な生態系を築き上げていることは想像に難くない。


 となると残る場所は…




 ……!!


 そうだ、森の『外』に出れば良いんだ!


 なぜこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。

 さんざん歩いてきたあの荒野には、動物が一匹も、草木一本も生えていなかった。

 

 そんな場所に森の動物たちがわざわざ向かうはずがない。

 餌になるものも無いのだし、たとえ俺が森の動物に見つかっても、たった1人の人間のために出てきたりはしないだろう。


 よし、やることが決まったのなら早速行動だ!

 

 確か俺は、後ろから差す朝日のおかげでこの森を見つけられたはずだ。

 ならば今、日が沈もうとしている方角と反対の方向に進めば良い。


 …太陽が沈むまでの時間は、もう残り(わず)かだろう。急がなければ。

 



 それと忘れてはいけないのが今のところ唯一の食料源であるこのリンゴの木だ。

 万が一でもこの場所を忘れないように、拾った石で木に傷をつけながら進む。


 ときおり走り、転ばないよう、早足で進む。

 数分経ったころだろうか、例のあの池に到着する。


 池は夕焼けに照らされて、なんとも不気味な雰囲気で(あか)く光り輝いていた。


 その池を見た瞬間、あの時の情景が一気に蘇ってくる。


 どことなく背筋が冷たくなるが、すぐに振り払い荒野へと進む。


 それからまた数分、やっと荒野に出ることができた。


 念のためもう少し荒野を進み、森から離れる。


 俺がある程度森からは離れた頃には太陽は完全に沈み、あたりは夜闇に包まれていた。


 「はあ、はあ」


 流石に、ここまで来れば大丈夫だろう。


 膝に手をつき、呼吸を整える。


 なんとか間に合ったか…


 とりあえず今日は休もう。

 起きていても何もやることはないし体力の無駄だ。

 

 そう考えて、昨日の夜と同じように、バッグを枕代わりにして寝る準備をする。


 …………ってあれ、バッグが…無い…?


 「ちょっ、え、」


 慌てて周囲を確認するもバッグの姿はなかった。


 …一体、どこで無くしたんだ?

 記憶を遡って確認する。


 …あの池を発見したときはまだ持っていたはずだ。

 となるとそのあと……

 リンゴの木を見つけたときは持っていただろうか…?


 …駄目だ、どこで失くしたのかすらわからない。

 

 今から探しに行くか…?

 

 しかしそれはあまりにも危険すぎるだろう。


 それに、よく考えてみよう。


 あのバッグにそこまでの価値があるだろうか。

 ……この状況下を生き残る上での価値は、あのバッグにはそこまでないだろう。


 しかし、あのスクールバッグには懐中時計が入っている。

 

 あの懐中時計は一種のお守りのようなもので、今は亡き母親に譲られたもの。


 渡されたときに「肌身離さず持っていて」と言われ、常に持ち歩いていた。


 そう簡単には諦めたくないし諦められない。

 

 かと言って、今あの森に入って行って無事に済むとも思えない。

 

 となるとやっぱり、探すのは明日にしたほうが良いか…



 そこまで考えて、とりあえず明日に備えて休もうと思い、地面に横になりまぶたを閉じる。


 昨日と同じように、疲れのためだろう、すぐに寝付くことができた。





 次の日、昨日と同じように目が覚める。


 まだあたりは暗い。


 とりあえず体を伸ばし、硬くなっていた関節を伸ばす。


 さて、まだ日は昇っていないがとりあえずの様子見で森に近づいてみる。



 『グォーン…』

 『ガウッガウガウッ…』

 


 明らかにヤバイ鳴き声が聞こえる。

 幸いにも森の奥の方からのようだが。


 これは…昨日の夜に入らなくて正解だったな…


 流石にこの状況で森に入るわけにもいかないため、森を観察しつつ時間を潰す。


 …それにしてもなんだか寒いな。

 

 さすがに夜は冷えるか…と思いながら今まで腰に巻いていたブレザーを羽織るが、その途中、とある疑問が浮かぶ。


 ……冷える?少なくとも俺がこの荒野に居たときは一度もそんなことはなかった。


 単純に昨日までは運良く安定した気候で、今日はただ寒いってだけの可能性もあるが、なにか違和感を感じる。


 そんなことを考えているうちに、太陽が昇ってきた。

 …もうすぐ夜明けだ。


 森を探索するとき、怪我などのリスクを減らすために前もってストレッチを始める。


 よし、これで完璧だ。


 森の方はまだ多少物騒な気配がするが、もうしばらくまてばおさまるだろう。



 もう20分ほど待ち、意を決して森へと向かう。


 昨日初めて森に入った場所と同じところから森へと入る。

 

 足音をあまり立てないように、周囲をよく確認しながら昨日傷をつけた木を目印にして進んでいく。


 昨日は運が良かっただけなのだろう、チラホラといろいろな危険そうな動物を見かける。


 ツノの生えたウサギや、そこらへんの動物の皮膚など簡単に貫通出来そうな、それほど鋭いクチバシを持った鳥。


 他にもスライムだろうか、どろっとした水っぽいものが地面を這っているのも確認できた。


 あらためて思う。ここは、本当にどこなんだろうかと。


 うすうす感じてはいたが、少なくとも俺がいた地球ではなさそうだ。

 


 …こんな場所で、今日も生き残ることができるだろうか。


 どことない不安を感じながらも今日を生き残るため、先へ進んでゆく。

 長い1日がまた始まる。


お読みくださりありがとうございます!

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