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第2話 朝日は希望となりて

 激痛に備え眼を閉じるも痛みは一向にこない。

 不思議に思って眼を開けるとそこには荒廃した地面、そして青い空が広がっていた。

 

 




 結局あの女子生徒がどうなったのかはよくわからない。

 まあ、俺が特に痛むところも無いから、おそらく衝突はしていない…と思う…

 

 それともう一つ疑問点があるとすれば、なぜか所持品のほとんどが()()()()()()()()()()という点だ。

 部品を構成する部品すらも分解されていた。


 とりあえず分解が確認できた物は、乗っていた自転車、スマホ。そしてシャープペンシルやボールペン類だ。

 それは、明らかに異常な光景だった。

 最初に見たときは言葉で表しきれない、得体(えたい)のしれない恐怖しか感じなかった。 

 

 …まあ、そんな気持ちも、飢えて死ぬかもしれないという現実と恐怖によってすぐに消え去ったが。


 しかしそれよりも今問題視すべきなのは、マジでここがどこで、これからどうすれば良いのかということだ。


 とりあえず、軽い休憩は挟みながらずっと歩き続けているが、おそらく持ってあと1日だろう。


 初日は昼食用のカロリーメイトとお茶を飲んで凌いたが、そのお茶もカロリーメイトもすでに尽きている。


 そして現在の所持品はスクールバッグとその中に入っている教科書や筆箱と懐中時計だけだ。


 幸運にもこの懐中時計だけは分解されることもなく、傷一つ付いていない。


 それと不幸中の幸いだが、この一帯の気温は安定していて特に暑くもなく寒くもない。植物や水場が無い以外は過ごしやすい場所だ。



 …さて、どうしようと言っても、何かあると信じて歩き続けるしかないのだろう。



 ある程度歩いたら休憩。そしてまた歩きだす。

 今歩いている方向が正しいのかすらわからない。

 ただ一直線に進むだけ。


 何か見つからないかと目を光らせながら徒歩を進める。


 しかし結局なにも見つからないまま、今日も日が暮れてきた。


 「もう…日暮れか…」  


 流石にそろそろ精神的にも疲れてきた。

 ゴールがあるかどうかもわからない道を、延々と歩くのがこんなにも辛いことなのか、身に染みて初めてわかる。


 肉体的にも追い詰められ、飢えと渇きは強くなってゆくばかり。


 話す相手もおらず辺りの景色は大して変わらない。

 歩いても歩いても何も、何も見つからない。



 ……ネガティブなことを考えていても仕方ない。

 とりあえず今日は寝よう。歩く時間が少しもったいないが、睡眠不足で倒れるよりはましだろう。


 そんなことを思いながら、満点の星空の下、荒野で1人、バッグを枕にして眼を閉じる。

 ずっと歩いていた疲労のおかげでまぶたはすぐに開かなくなり、簡単に寝付くことができた。



 次に起きた時、あたりはまだ暗闇に包まれていた。

 


 体をほぐしてまた歩き始める。


 天上の星空はとても綺麗で、それは少なくとも都会で絶対に見られない光景だった。


 ここに来て唯一良かったと思える点だろう。


 …しかし、それよりも空腹が、渇きが、強く強く俺にのしかかる。

 死ぬかもしれない。いや、このままだと確実に死ぬだろう。

 そんなことは現状を鑑みれば当たり前で、当然の帰結だ。 

 十分に理解できている。

 だからこそ、そのことに対する恐怖が止まない。恐ろしい。


 刻々と近づいてきた死への恐怖を抑えながら、歩き続ける。


 それから数時間後。


 日の出だろうか、あたりがほのかに明るくなってきた。


 そして、朝日の光で気づく。



 微かだが、遠くの方に緑が見えるのだ。


 それは植物かもしれないし、もしかしたら別の物。

 はたまた自分が作り出した幻覚かもしれない。

 

 ただ、たとえそれがどんな結末であろうとも、俺にはその場所へ向かわない、という選択肢はなかった。


 …大丈夫、遠くと言っても、今まで歩いてきた距離からしたらなんでもない。1時間と少しあれば着くだろう距離だ。


 「…っ!」


 やっと、やっと食料と水が手に入るかもしれない!

 

 そんなことを考えて自信を奮い立たせる。


 疲れ果て、もはや亀の歩みほどだった足はしだいに速度を増し、どんどんと駆け足になってゆく。


 …体力配分や、そこに食料や水がない可能性など考える余裕はもはやなく、今はただ、目の前に現れた希望に縋り付くように走ることしかできなかった。

 

 どのくらいの走っただろうか。どのくらいの時間が経っただろうか。

 

 ただ目の前の希望を逃さないように、自身が生き延びるために、ただ全力で走った。

 

 そしてついに辿り着く。

 

 青々と茂った芝。そしてこんな荒れた場所にも関わらず、

生い茂る(お しげ )力強い新緑の木々。


 どこからか聞こえる水の流れる音。


 おもむろに手を伸ばし、木に触れる。

 その感触は本物で、自身の幻覚なんかではない、本物の『森』がそこにはあった。

 

 

 ……やっと、やっと空腹と、渇きから解放される!!


 全力で走り、疲れ果てた頭にあるのは純粋な生への喜び。

 日本にいた頃の三嶋 玲が一度も感じたことのない感情。

  

 もはや涙すら出ないほど渇いた眼には、久しぶりに観る美しい緑と生命の息吹が映っていた。

お読みくださりありがとうございます。

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