湖の月は青色に映える Ⅴ
何がその解決足りえたのか。当時の人間が考えに考えて導いた結果が正しかったのか、間違っていたのかを、当事者以外が判断を下すのはとても難しい。海底都市でマシロとホオジロが出会った出来事は、改めて二人にその事を感じさせた。
水の底から戻った二人は、クレセンテと共に屋敷の城壁に上っていた。周辺に見える湖の水面は凪いでおり、湿気のある風が三人を包み込むように吹いている。遠くには洋上巡航列車の車列が見え、何処かへと向かって走っている。
「あの街は、これからどうなるのでしょうか?長くは、もたないでしょう?」
現地から戻るまでは口にすることを避けていたが、マシロはふと、それを問うた。クレセンテは遠く水面を見据えながら、ふっと微笑むと、一つ頷いた。
「そうですなぁ…。レヴィアのルナミス循環が尽きた時、リヴァイア本体の力も、あの都市の命脈も、共に尽きるでしょう。ですが、それでよいのです。完全に役目を終えたものは、眠らせてあげなければ…」
「ではー、このお城はどうされるのですかー?」
しんみりと語るクレセンテに、特に何も勘案することのない調子でホオジロが問う。無邪気かつ屈託なく問うので、ある意味で質の悪いものだが、誰もそれを気にすることはなかった。
クレセンテは悪戯っぽく笑う。
「ははは、いっそ閉鎖してみても面白いかも知れませんな。まあ、それは冗談ですが。この城は残しますよ。その為に尽力してくださった方々や、彼ら、ムーライズとその家族が、この場所で楽しく暮らしていた想い出は、残したいですから」
「そうですね。私もそれがいいと思います」
マシロとクレセンテが明るく笑い合う。
「でも、研究者とかは泣きそうですねー。資料が失われるのでー」
そこにホオジロが冗談めかして言葉を掛けるも、マシロは何も問題ないだろうと前置きしたうえで、一言。
「泣かないでしょ。だってある事さえ知らないんだから」
そう言って、大きく笑い、庭の方を見やった。
下方の庭では観光客たちが行き交い、互いに楽しく感想を口にしながら通り過ぎていく。この場所は、むしろこうあるべきなのかもしれないと、マシロはその様子を早速、カメラに収めるのだった。
「湖の月は青色に映える」はこれで終わりとなります。ここまでお読みいただき、有難う御座いました。




