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愚者に聖剣は似合わない  作者: お湯とOrange
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2人の兄(中)

「ウィンターズは、それでも幸せだったんだと思うよ。いや、幸せではなかったかもしれないけど、それでも満ち足りた人生ではあったと私は思うよ。」


レリアハート・ウィンターズ、彼が魔獣によりその人生を降ろし、そして約2週間が経ち、国をあげての葬儀が行われた日の事だった。


レリアハート・メーザー、その太陽を思わせるような眩しい金の髪が肩を撫で、その黒い喪服と合わさり一種の芸術品のようにそこにある人、ユーステスはあまり口を聞いたことのない、彼女にとっては2人目の兄であった。


あまりと言うのは適切ではなく、言葉を交わしたことは多くあるが、しかしそれは予め決められた式典や祭儀での内であり、もしかしたら、2人での私的な会話はこれが初めてであったかもしれない。


ただ、彼と話したことは少なくとも、彼自身の才覚やその手腕については多くの話を聞いていた。

いわく、兄が武人として発揮する才覚を持ち得るのならば、もう1人の兄は文官として、優秀所ではないくらいの才覚を誇るらしい。


「そういえば、私と君とはあまり会話らしき会話を行ったことはなかったからね、いい機会だと思ったんだ。君はウィンターズについてどう思っていたんだい?」


「まさか、メーザー兄様がそのような事を聞いてくるとは思いませんでした。メーザー兄様は……もっと、その」


「変な人間だと思っていました?人間性がどこか欠けている、とは周りの人からよく言われるけど」


突然の発言に、そんなことはないと言い繕う。


「いや、別に問題はないよ。正直私はむしろ自分のことを人間くさいと思っているけど、まぁ、そういう意見が私に対して多いことは知っているし」


いや、仮にも国の第2王位継承者に対してそんな意見を、本人に届くくらいには発している人物が多いというなら、それはそれが問題だと思うのだが。


「それで、君はウィンターズについてどう思っていたんだい?」


聞かれて、思わず詰まる。

彼がどうしてそのようなことを聞いてくるのか、まずはそこから考えなくてはならない。


確かに私と彼とは血を分けた兄弟ではあるが、しかしそれだけだ。他のものを分けるほど仲が良くもなければ、それこそ何か理由があってこそ私と話をしに来たのだろう。


「どう、と言われましても。ウィンターズ兄様は私にとって、常に模範となる、民のことを第一に考える素晴らしいお方でした」


「おいおいおい、私は別に、君にそんな社交辞令みたいな話を聞きに来た訳じゃあないんだ。もう葬儀は終わったんだ。死者を弔うような、そんな会話は必要ないだろ?君はウィンターズの死に様についてどう思う?」


僕はそれが聞きたいんだよ--と、

死に様。確かに聞いてきているのが死に様であるならば、私の返答は正しくないだろう。

確かに、その死に様、死に際については思うところがある、ないといえば嘘にはなるが。

しかし本人がもうこの世にいないとはいえ、死者に対しての発言には些か配慮が欠けるような内容であるのだが……


そんな私の心情を見通したのか、彼はまた口を開く。


「当ててあげようか?君はウィンターズの生き様については肯定していたんだろうけど、その生き方については否定しているのさ。だから死に様には、酷く辟易したんじゃない?」


ドキリ、とそう自らの胸がなったのを感じる。当然だ。彼は、レリアハート・ウィンターズは命の判断を見誤ったのだ。その価値に対しての判断を間違えた。


きっと、今日の祭儀に参加した中で、彼のことを少しでも知っている者であれば、彼の判断を彼らしいと思う人しかいないだろう。

彼らしくないなどとは絶対に思わない。

子供をかばい、自らの身をもって盾とする。なるほど、それでこそレリアハート・ウィンターズである。

しかしその身は盾などではなく、その身は王族の身なのだ。


誰かの盾となって、ましてや平民の盾となり、死んでいいような人間ではなかった。

彼は正真正銘の王族、第1王位継承者なのだから。


「とはいえ、まぁ、誰にも真似できない彼の生き方を間違いだと断じることは、僕らにはとてもできることではないけどね」


兄が何を想い行動したのかは分からないけど、それでも結果だけを見れば、それはそれは正しい行いをし、全くもって残念な結果を齎したことになる。


「……結局、メーザー兄様は何を言いに来たのですか?私に何かを聞きに来た、というような事ではないことは何となくわかりましたけど」


というかこの人は、一切私の言を聞いてないじゃないか。その自らの考えを私をもって世界に吐き出しているだけのような気がしてならない。そんなのは一人でやって欲しいものだ。

いや、一人では出来ないからこそ私に話し掛けてきたのだろうけど。


「全く世知辛いねぇ。私はただ、兄の死を悼んでいるであろう妹の元に来て、慰めてやろうとしただけなのだが。まぁ、確かに妹を慰める私というのも悪い夢のようだし、そろそろ本題に入ろうか」


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