表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚者に聖剣は似合わない  作者: お湯とOrange
3/16

2人の兄 (上)

「貴族とはしばしば、流れる血の色が青なんじゃないか?って平民の中で話されているのはテスは知ってるかな?」


唐突に、いきなりに投げかけられたその質問に、テスと呼ばれた少女、レリアハート・ユーステスは、ただ首を傾げることしか出来なかった。


「あはは、テスはもうずっと外には出てないし、知るはずもないか」


まるで雲みたいに真白な歯を覗かせながら、とても爽やかで、その顔を見ているだけでどんな悩みも消し飛んでいきそうな笑顔ではにかむ青年。


「……私は、いえ貴族の血の色に興味もありませんが、質問の意味がよく理解できませんでした」


言葉の意味ならレリアハート・ユーステスにも理解出来た。

どうやら平民の間では、貴族には青い血が流れているようなのである。


本来、貴族に青い血が流れているとされるのは、平民とはまずの生き方が違うためである。

貴族というある種のわかりやすい特権階級に身を窶す彼ら彼女らは、畑を耕したこともなければ狩りを行うことも少ない。

屋敷の外に出ることは多くとも、陽光を遮らず、その肌に当てることは少ない。

そのため、肌自体が平民よりも白く、結果青い血液が流れる静脈までもが透けて見えるからである。


「青い血、というものについては、確かに貴族に流れているが、それは平民にだって流れている」


質問の意味を聞かれて、自らにも言葉が足りなかったことを自覚したのか、青年は爽やかで、それでいて神妙な顔つきで答える。


「そも流れている血の色なんて人間みな同じだ。しかし平民の中ではそうではないらしい。人間に優劣なんて付けることはできないし、貴族だ王族だと言っていても、所詮は人間なのに」


僕はそれが悲しい--と青年は言った。


「民草は、諦めているんだ。自分の立場に、貴族の、自らに対する横暴な扱いに、所詮は自分たちは力のない存在なのだと」


「そう思わせているのは僕達にも原因がある。だからこそ、僕は彼らと共にあり、彼らの可能性が、彼ら自身に潰されないようにその手を導いていこう」


それが、せめてもの王族として生まれた責任だからね--と言い残し、青年はどこかに歩いていった。


結局、レリアハート・ユーステスはただただ彼のよくわからない話を聞いていただけだし、結局質問の意味はよくわからなかった。

しかしそれがレリアハート・ウィンターズという人間であるのはよく知っていた。


(血の色に興味はないけど、兄の生き方には興味がある。私は兄とは違うけど、兄のように、自身の能力を民のために十全に生かせる、立派な王族になりたいと、そう思わせてくれる。)



青年--レリアハート・ウィンターズは、レリア王国第1王位継承者である。


レリア王国第37代国王レリアハート・カーテンズールの息子にして、常に民と共に歩んでいこうとする、民想いの優しい青年、それが彼だった。


王族としての才覚は何一つ持ちえなかった彼であったが、彼には武人としてこれ以上ない程の才覚に恵まれ、いつしかレリア王国最強の刃と呼ばれるほどになっていた。


しかし決して慢心することなく、他国との戦争から、近所の森の平民を脅かす小さな魔獣退治まで、数多くをこなし、王国のため、民草のために戦う人格者。


彼の最後は、突如魔獣に襲われた村にて魔獣と戦っていた時に、ふと魔獣に狙われた村民の子供を庇い魔獣の牙に貫かれるという、なんとも彼らしい終わり方であった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ