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愚者に聖剣は似合わない  作者: お湯とOrange
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八年前の出来事 (その10)

「それじゃあ、ツバサはこっちの森からヌクモリグサ、私はあっちの森からサナバグサを採ってくる。刻限は二つの太陽が重なる時ね。まぁ、私が勝つのは目に見えてるけど、ツバサも精々頑張ってよね」


エンリーは、僕に出会った時に持っていたのと同じ鞄を持って、道を挟んですぐの森へ歩いていった。


僕としても、彼女をそのまま見守りながら刻限を待つなんて愚行を行う訳でもないし、さっさと森に入るとする。


さて、僕は今、エンリーとどちらが多く薬草を摘んで来られるかという勝負をしている訳だけれど、こんな勝負は勝負になるわけがない。


なんで薬草摘みのプロフェッショナルが、僕みたいなアマチュアと競ってんだ、歴戦の海女さんと2ヶ月前に初めて海に潜った少年が競ってるようなもん、勝てるわけがないだろう。


僕がエルベスの民の村に住み始めてから、早いものでもう2ヶ月も経った。


僕はこことは異なる世界、つまるところの異世界から来た存在であると聞かされたのがもう2ヶ月前だという事だ。


エルベスの民の長、ユーリが行く所もないであろうしという事で村に住まわせてもらって、僕は人の温かさという物を知った。いや、人っていうかエルフか。


エルベスのみんなは、種族が違う僕に対してもとても優しく接してくれている。


ここが元の世界であれば、人種の違う同じ人間であってもここまで優しくしてくれるのか?といった具合で。


その優しさについて、その理由を聞いた時は驚いたものだけど、エルベスの民は、困っている人があれば助けるのは当然のことだと、その倫理観はとても素晴らしいものだった。


それはどうやらエルフという種族自体に結びつく考えであるらしい。


曰く、エルフというのは、この世界の神が人間を創造してくださった時に、弱く儚き人間を守護するためにと自らの体の一部を人間という素体に合わせて創造した種族らしい。


そのためエルフは只の人間とは違い、生まれながらにして魔力の扱いに長けている存在であるらしい。


ちなみにこの世界でいう一般的な神は何柱か存在するらしく、その数だけ扱う権能も多数にわたるらしい。


エルベスの民は、自由と許しの懺悔の神の肉体の一部により造られた種族であるらしい。


ここでいう懺悔の神とは、告解を司る神であるらしい。


まぁつまりは、悪いことをして、それを告白した場合に、それを聞いてくれる神様だという事だ。ただ聞くだけに留まり、その事柄についてその一切を干渉はしないらしいけれど。


ただ、赦しを与えることのみを行う。公正公明な神であるという。自由と懺悔とはいうけれど、そのふたつに関係はあるのだろうか?


「あっ、一本目見っけ」


木の下に生えていたヌクモリグサを一本、エンリーが持っていたのと同じ、僕の肩にかけている鞄に入れる。


ヌクモリグサとは、緑の葉に紫色の実をつけた薬草である。


エンリーが採取する薬草の名はサナバグサ。サナバグサとは毒に対する特効を持った薬草である。その葉を乾燥させ、煎じたものを沸騰、その水分を飛ばして残った粕を丁寧に丸めて塊にして飲むことによって、この世界に存在するほぼ全ての毒を体内にて中和してくれる薬になるといわれる薬草である。


効かないのは恋の病、盲目の毒なくらいなものであるらしい、知るかよ。


そして僕の採取するヌクモリグサは、その葉を乾燥させ、煎じたものを飲むことによって、空気中に漂う魔力に対する身体吸収率を、一時的にではあるが大幅に高めてくれるものであるらしい。

つまりはMPポーションというやつか?


この2つの薬草は、エルベスの民の村付近に点在する森には多分にして存在するらしい。

ただ、この薬草は風の精の加護を受けている地域でしか見られないらしく、その価値は希少であると、ユーリは言っていた。


ということはこの森、ひいては村に存在するという風の精は、他の場所に存在していることは限りなく少ないということであろうか?


ユーリはそこら辺、というかエルベスの民自体がそこら辺をあんまり詳しく説明してくれないので、僕についてもあまり知るよしはない。


というのも、僕自身がそんなことを聞くくらいならばこれからこの村で生きるにあたって必要な知識についてばかり聞いているから、知るチャンスがないだけなのだろうけれど。


ユーリは、出ていきたければ好きにしてくれて構わないし、この村で僕が生涯を終えるのも構わないと言ってくれた。


この森と村は、その周囲を険しい山脈に囲まれており、その山脈を超えなければ他の村や街などはないのだという。


そして、その山脈は人間が登るには険し過ぎるらしく、山脈を抜けたことがあるのはエルベスの民でもユーリくらいしかいないらしく、またその時は風の精によって次代の村長に選ばれた際に風の精からかなり厚めに加護をかけられ、世界を知るためにと山脈を超えた時の一度だけだという。


僕も何回か見た事はあるけれど、確かにその頂点には雪が化粧を施していて、曇りの日にはその化粧は雲によって隠されるほどだ。確かに、登山は無理だ。


つまり選択肢はひとつに絞られることになり、僕はこの村でその生涯を閉じるしかないということだ。


だから子供の役目である薬草採取については、一目で種類がわかるくらいには勉強をしたし、狩りや畑仕事など、多くのことについて学んだ。


いつまでも心優しきエルフ様におんぶにだっこではいけないのである。


だから今日こそは、勝てない勝負ではあるかもしれないけど、エンリーとの薬草採取の勝負に勝ちたいところである。


「二本目見っけ」


とはいえ、この調子では勝負は今回も負けになりそうだ。


今日はいつもより少し奥まで採取しに、森に潜ることにした。

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