八年前の出来事 (その7)
「じゃ、入り口入ってすぐに多分村長いるから、私はこれで」
エンリーは先程とおなじ要領で下に降りていった。
僕は、恥ずかしい話足がすくんで動けないでいた。
いや、何今の?空を飛んだっていうか、浮いたっていうか、とりあえず人智を超越している。
あんなの、少なくとも科学技術には見えなかった。そもそも、ツリーハウスみたいな家に住んでるような、そんな人達が最先端の科学技術を有している可能性なんてないだろうし。
本当に訳が分からない……本当にここは地球なのか?
様々な疑問が頭をよぎる。
だけれど、まぁ村長の家には着いたわけだし、実際どうやってツリーハウスまで上がっているのかという疑問も解決したわけだし、とりあえずは村長に会ってみるのが一番だろう。
*
「いらっしゃい、人の子よ」
玄関の扉を開けて目の前にいたのは、白い髪をしたよろよろのおばあちゃんだった。
相変わらず耳は長かった。
「どうも……天河翼です」
村長の家は、玄関の扉を開けたらすぐに大きな部屋になっていて、その真ん中におばあちゃんは座っていた。
「よくぞこのような辺鄙な場所まで来たものじゃ。これも何かの縁、まぁゆっくり語らおうではないか」
特に説明は受けてないけど、とりあえずはこのおばあちゃんが村長ということで間違いはなさそうだ。
「そうですね……聞きたい話がいっぱいあるので、時間の許す限り」
「紹介が遅れたの。わしはこの精霊の森の村、エルベスの民の村長、ユーリじゃ」
「私は、先程も申しました通り、天河翼です」
「あぁ、何やら不思議な名前じゃの。人間の街を訪れたことは何度かあるが、中々に類を見ん名前であることは確かじゃ」
先程から人間とか、人の子とか、どうやら自分達は人間ではないみたいな喋り方だな。
「そうじゃの、まずはその疑問からじゃ。まぁお主は記憶喪失らしいし、まずは言っておくとわしらは人間ではない。先程も言ったがエルベスの民。平たく言えばエルフの中の一部族じゃよ」
エルフ、ここに来て、本当に漫画みたいな単語が飛び出してくる。
確かに、耳が長いという特徴だけで考えてすぐに思いつくのはエルフではあるけれど、まさか本当にそんなことがあるとは思わなかった。というか、今なんで口にも出てないのに……
「なぁに、簡単な読心術というやつよの。処世術のひとつじゃ。ほら、まるでわしが魔法使いみたいに見えるじゃろ?それが狙いというのもある、カッカッカッ」
「はぁ、魔法使い……みたいっていうか、さっきのエンリーを見て思いましたけれど、本当に魔法使いなんじゃなのかって気がしてきます。というか、なんで僕が記憶喪失だと?」
「疑問が多いやつじゃのう。よいよい、ひとつずつ説明してやろう。お前が今、本当に知りたいことについてものう」
「まず、何故記憶喪失だということをわしが知っておるかじゃが、何、簡単なことじゃ。この村の中でわしが知らんことはない、全ては風の精が教えてくれるでの」
「風の精、ですか」
「さよう。次に、わしらが魔法使いかどうかじゃが、そのような存在はおらん。お主は先程のエンリーの魔法に驚いているようじゃが、あれは魔力操作による魔術の一つ。魔法と魔術は似て非なるものであるし、わしらは魔法使いではなく、魔術師と呼んだ方が適切じゃのう」
全く理解できない言葉が次から次へと飛んでくる。高度な科学技術は魔法に見えると言うし、まださっきのは科学技術だと言われる方が、魔法なんかよりは納得出来る内容だ。
「魔法と魔術は違う、ですか。その違いよりも、まず魔法がなんであるかがよくわからないのですが」
「魔法とは魔力を用いて、この世の法則に干渉する術じゃ。簡単に言えば過去に干渉したり、空間と空間を繋いで遠い地に一瞬で移動したりじゃの。まずそんなことが出来る者は存在せんが」
「次に魔術とは、魔力を織り、四大元素に変換、それを作用させる術のことじゃ。四大元素とは火・水・土・風じゃな。他にも二大要素と呼ばれる光と闇があるが、それは置いておくとして」
「四大元素ですか、なら、エンリーは魔力を風に変換して作用させたってことですか?」
「さよう。エンリーは魔力を織りて風に変換し、それを作用させ自らとお主をここまで持ち上げたわけじゃの」
「なるほど……」
なるほど、なんて言ってはいるけれど、全く理解ができない。言っている意味はなんとなく理解できなくもないけれど、まず魔力とはなんだ。そんなものが存在するのだとすれば、世紀の大発見じゃないか。
「さて、ではお主が知りたいことについて説明するが、きっとお主は理解が及ばんじゃろうて。しっかり自分の頭の中で考えながら、わしの話を自分の納得できる形に置き換えてゆっくり聞いてゆけば良い」
「魔法とか魔術だけで、頭が爆発しそうですけどね……」
「今から説明する事の前では、そんなこと風が吹けば飛ぶような些細なことよ。さて、何から話すかではあるが」
「にわかには信じられん話ではあるが、ここはお主が今まで生きてきた世界ではないであろう」