64話・俺、先輩を敬う
「ふふ...もっと...もっと、私を敬うのだ、我が彼氏コウよ!そして感謝を
述べながら、私の頭を撫で撫でをしたまえ!」
そう言うと、カノンがコウの前に自分の頭を近づけてチョンチョンと
指を差し、撫で撫でアピールをしてくる。
「了解です!では、早速...流石、俺の恋人カノン先輩は頼りになりますな~!
わしゃ、わしゃ、わしゃ!」
「うむ、うむ...中々、気分の良くなる撫で撫でである...。もっと続けるのだ!
我が彼氏よ!」
「了解です!では...わしゃ、わしゃ、わしゃ、わしゃ、わしゃ、わしゃ~!」
俺は満面の笑みを浮かべて、カノン先輩の頭を優しく撫でくり回す。
ざわざわ...ガヤガヤ......
ハッ!し、しまったぁぁぁっ!?
突如、俺の耳へ入ってくるざわガヤ声に、ふと我に返って回りのを
見渡すと、先程より痛い目線の数々が俺達へロックオンされる。
「あは、あはは...そ、それじゃ、カノン先輩、クーナさん!いつまでも
ここにいてもしょうがないし...取り敢えず、ポイズンベア退治へ行きま
しょうか!」
「ん...もっと、撫で撫でを――」
「え!?ちょっと、コウ君、いきな――」
コウはカノンとクーナの腕を強引に引っ張って、今いる場所から急いで外へ
移動する。
「ふう...ここまで来れば、もう大丈夫かな?」
クエストボードのある購買部から離れて、俺はひと安心の溜め息が
口から洩れる。
「あ、あの...コウ君、そ、そろそろ手を離してもらえないかな...?
ちょっと、恥ずかしいので...!?」
クーナが顔を真っ赤に染めて、恥ずかしそうにしている。
「あ!ゴ、ゴメン、クーナさん!強引に手を引っ張って!」
クーナさんの恥ずかしそうに述べる言葉を聞いて、俺は慌てて
掴んでいた腕をパッと離した。
「カノン先輩も、すいません!」
「ん...気にするな!彼氏に強引に引っ張られる感覚...悪くなかった!」
掴んでいたカノンの腕を離すと、カノンは頬を赤くして満足感タップリの
表情を浮かべている。
「だが...強引に腕を掴んでより、こうした方がもっと嬉しいぞ!」
「はうっ!?カノ、カノン先輩っ!?」
カノンがコウの手を取ってそう言うと、自分の指とコウの指とを重ねて
ギュッと絡めてくる。
こ、これは!?
この手と手の繋ぎ方は...世間で言う所の『恋人繋ぎ』と言うやつかぁっ!
「どうだ、コウ?やっぱ、彼女を引っ張って行くなら、これに限るだろう?」
「そ、そうですね、何か...照れますけど...良いですね、これ!」
ニヒヒッといった表情で口角を上げて笑っているカノン先輩に対し、
俺は照れながらも、屈託のない笑顔でそう答えるのだった。




