60話・俺を見る、人の噂と人の目線
「お、おい...見ろよ、あそこにカノンさんがいるぞ!」
人だかりの中にいるひとりの男が、俺達...と言うかカノン先輩に
気づいて叫声を上げる。
「な、マジか!マジだっ!?」
「あのカノン先輩でも、クエストなんて受けるんだな...?」
「何を言ってやがる、受けるに決まっているだろうが!ここで受ける
クエストでしか手に入らない素材とかもあるんだぞ!」
「なるほど...俺達も、それが目的の場合があるもんな!」
「そう言うこった。だからエリートのカノンさんがそれを手にする為に
クエストを行っても、不思議はないって事さ!」
カノンのファンが付き添いの男に、カノンだからこそ、ここへ来るんだっと
熱く熱く語って聞かせる。
「ねぇねぇ、あれ見てよ!カノン先輩の横にいる子!」
今度は別の場所にいる女生徒が、カノンではなくコウを指を差して、
隣にいる、親友に声をかける。
「カノン先輩の横...?ああ、あの子ね。あれ?でもあの子...どこかで
見た事ある気が......う~~ん?」
声をかけた親友が首を傾げると、思い出す為に思考を働かせる。
「嗚呼、思い出した!あの子は、私達1年のトップエースである
ナナ・アイシュードと、いつもここへクエストに来ていた子だよね!」
相づちを打つ様に手をポンッと叩くと、思い出した記憶を口にする。
「やっぱ、そうだよね...。でも、何で今日はカノン先輩と一緒に?」
「あの噂、本当だったのかな?」
「噂?」
「うん。ナナさんがあの子から、もう1人のトップエースのラール君に
乗り換えたらしく...結果、あの子がナナさんに振られちゃったって噂...」
「うわ...酷い事をするもんだね、私達のエースも...」
「だよね~。あんなに散々振り回しておいてさ...」
女子生徒達がその時のコウ達の状況を思い出すと、納得できないという顔を
二人がしている。
「んで、その後...意気消沈していたあの子に、カノン先輩が優しく声をかけ、
今はあんな感じに慕っちゃっているんだって!」
「そっか...それなら、あんなにベッタリしててもしょうがないね...」
そう述べ終わると、二人の女子生徒がコウの方を顔を向け、慈悲溢れる
表情で見てくる。
うう...色んな思いの乗った視線が痛い...。
これはカノン先輩が俺の彼女とバレでもしようものなら、一大事の
パターンだな......
ないハプニングなら、ないに越したことはないしなぁ...。
よし、ここは素早く迅速に行動を...
「カ、カノン先輩...そろそろ、クエストを決めませんか?」
俺はこの痛い視線から早く抜け出す為、カノン先輩の袖をちょんちょんと
摘まんで、クエストボードの方を指差す。
「ん...わかった。我が彼氏、コウよ!」
「ぶぅぅぅぅ――――――っ!?」
俺はバレない様、慎重に動こうとした矢先、いきなり発されるカノン先輩の
彼氏発言に息が切れそうなくらい吹き出した。
カノン先輩ぃぃ!また速攻でバラしちゃうんですかぁぁぁ――――っ!!
そして口から出てしまいそうなくらい、心の中で叫声を荒らげてしまうの
だった。




