55話・俺の彼女、クーナの気持ちその2
とにかく、本人がノーと言っているんだ...
その心情を汲み取って、俺とは恋人関係ないぞってアピールをすれば、
この場は取り敢えずうまく流せる口実が作れる。
そう...俺がここでクーナさんの否定に、そうだねって乗ればいいだけ
なんだ。
それでクーナさんはこの厄介な他人の視線から、今は逃れる事が
できるはず!
冷たい視線は俺だけに向けばいい......。
うん...それがいい。
それがいいんだろうけど...なんだろう、クーナさんのあの笑顔を見ていると
この辺がズキズキとしてくる...。
あのクーナさんの笑顔...無理矢理に作った様な笑顔を俺はどこかで......?
ああ...そうだ...思い出した......。
あの表情は...さっきイソヒが言っていた、ナナに彼氏ができたと聞いた時の
俺のあの表情によく似ているんだ...
そう、心から哀しい時に出る喪失な表情......。
そっか...俺はあの表情を、クーナさんにさせてしまったのか......
あの表情をクラスメイト達や他の連中に騒がれたくないって理由だけで、
クーナさんにさせてしまってもいいのだろうか......
ふ...決まっているじゃないか、
そんなの...そんなのは......
「駄目に決まっているじゃないかぁぁぁっ!!
クーナさんは俺の彼女なんだぞぉぉぉぉ――――っ!!!」
「え...こ、コウ君......って、キャンッ!?」
ナナの時に受けた、心が地の底まで落ちていくあの憂鬱感にも似た
痛い感情をハッキリと思い出した俺は、いてもたってもいられず、
気がつくとクーナさんを思いっきり、ギュッと抱きしめていた。
「あわ、あわわ...こ、コウ君!?どうしたんですか!?いきなり、
その...抱きしめてくるなん―――はうっ!?」
突然の事でテンパる姿を見せるクーナを、コウが有無も言わせずに
更に強く抱きしめ、頭をそっと優しく撫でる。
「ごめんなさい...。クーナさんをこんな表情にさせてしまって...
俺...これじゃ、クーナさんの彼氏として失格だよね...」
「え!そんな事ありません!でも...みんな...見ていますよ?
みんなに勘違い...させちゃいます...よ?」
「勘違いじゃない...勘違いじゃないよ、クーナさん。それとも
こんな体たらくな彼氏じゃ、みんなから噂されちゃうのが嫌...かな?」
「そ、そんな...事は......うう...ありません...」
コウの懺悔の...そして恵愛な言葉に、今まで我慢していた気持ちが
爆発したのか、気丈に振る舞っていた表情がドンドン悲しみ全開の
表情へ変わっていく。
「そんな事は...ううう...うわあぁぁ―――んっ!」
そして悲しみが限界を越えたクーナは、コウの胸にギュッと抱きつき、
恥ずかしい気持ちも忘れるくらい、大きい声を出して泣いた。




