50話・俺の彼女のお弁当をわけましょう!
「え~コホン!あ、あの...カノン先輩、ちょっと提案があるん
ですけど!」
俺は咳払いをして心に気合を入れると、ビシッと手を垂直に上げて
カノン先輩に話しかける。
「ん...どうした、コウ?そんな改まった顔をして?」
そんなコウの真面目な顔を見て、カノンがハテナ顔をして首を横に
小さく傾げる。
「俺の為に頑張って作ってくれたカノン先輩の手作りお弁当...
本当はひとりじめして食べたいのですが、それじゃここにいる
カノン先輩に憧れを抱いている、他のクラスメイトに対し、
気が咎めます...」
「ん...それで...?」
「はい!そこで、さっきの提案の話なのですが、みんなの憧れ
カノン先輩がこのクラスにやってきた記念と言う事で、ここは
お近づきの印として、クラスメイト達にこのお弁当のおそわけが
欲しいと言う人へ、お弁当をおすそわけしてもいいですか?」
カノン先輩に、身振り手振りで懸命に言い訳苦しい言葉を並び立てて、
おすそわけの提案を直訴する。
ざわ...ざわ...ガヤ...ガヤ...
俺達の会話に聞き耳を立てていたクラスメイトのみんなが、俺の
提案を聞いた瞬間、騒ぎ始める。
「カノン先輩の手作りお弁当を...おすそわけ...だと!?」
「くそ...コウの奴め、味な真似を...さっきまで憎しみ全開で
ごめんなさい!」
「本当、死ねばいいのにって思ちゃって、マジごめんなさい!」
「うおおお!食べたい!俺はめっさ、カノン先輩の手作りお弁当を
食べたいぞぉぉっ!」
「わ、私だって、カノン先輩の手作りお弁当...めちゃくちゃ気に
なっちゃう!」
「だよね~あの学園のアイドル、カノン先輩の手作りお弁当...嗚呼!
何て甘美な響きなんだろう♪」
「おい...それ、おっさんくさいぞ...。でも、これが切っ掛けで、
どさくさに紛れてコウ君に私のお弁当を、おすそわけできるかも♪」
「おお!その手があったかっ!」
1人が呟くとまた1人がと言う具合に、どんどんクラスメイトの声が
大きくなっていく。
「フムフム...私の彼氏であるコウを頼むぞという、手前なものもあるか...」
カノン先輩が指を顎下に当てて、真剣な面持ちをして考えるポーズを
取っている。
「はは...そこまで大袈裟に考える事でもないんですが...でも、ナナの件で
このクラスメイト達に慰めてもらったから、そのお礼も兼ねたいんですよ...」
「コ、コウ...お前...あれを感謝に思っていたのか...」
「コウ君...私達女子は、罵倒の方が多かったのに...」
コウのしんみりとした言葉を聞いて、クラスメイト達もそれに感化されて
しんみりとなっていく。
「なるほど...幼馴染ちゃんのか...そっか、それなら最早...私に異論はない。
それがあったればこそ、やさぐれなかったコウがいるだろう?」
「はい...」
微笑みを見せて俺の頬をソッと撫でてくるカノン先輩に、俺は静かに
ひと言を述べ、首を小さく縦に振る。
「しかし、おすそわけするにしても、本当に私のお弁当なんかで
お近づきの記念になりえるのだろうか...?」
「そりゃ勿論、なるに決ま―――」
「「「「なるに決まっているじゃありませんか、カノン先輩っ!!」」」」
俺の声をかき消すかの様に、クラスメイトの男女の叫声が、教室の中いっぱいに
響き渡るのだった。




