237話・俺の妹の観察が始まる
――私がナナさんと兄を観察すると決めた次の日の朝――
「お~~~い、起っきてるかぁ~~コー!早く行かないと、学校に
遅刻しちゃうぞ~~~っ!」
いつも通り、今日もナナさんが兄を呼びに来たので、早速作戦を実行
するべく、家の前にある草場の中へサッと隠れ忍んで、二人の動向を
観察していく。
「ふわぁ~おはよ~~ナナ。ふわぁあ~~~ね、眠い......」
ナナさんの呼び出しに、学校へ行く為の仕度を終えた兄が玄関のドアを
ガラッと開けると、眠そうに欠伸を何度もしながら、ナナさんのいる
場所に移動して行く。
「ハァ、起きてから結構時間が経っているというのに、まだあんなに
眠たそうに何度も欠伸をしちゃって......」
ホント、
うちの兄はだらしなさ過ぎのダメダメ人間ですねぇ。
情けないダメ兄に私が嘆息を吐いていると、
「それよりナナ。今日のお前、何かいつもよりテンション高くないか?」
兄が普段のナナさんと違う変化に気付き、それを問う。
「お、気づいちゃった♪だってほら、今日って実力テストがある日じゃん?」
「......実力テストの......日?ああぁぁあっ!?き、今日って実力テストの
日じゃねぇかぁぁぁあ!?わ、忘れてたぁぁぁぁああっ!?」
ナナさんから変化の理由を聞いた兄が、「そうだったっ!」と目を大きく
見開いて慌てふためいている。
「テストなんか受けたくない......憂鬱だぁ~......って!お、おい!?
まさかお前!実力テストがあるからそんなにテンション高いのかっ!?」
「当然よ!何せ今日のテストは中等学校に入学してから、初めて行われる
実力テストだぞ!もう昨日から待ちきれなくて、気合いがめっちゃ入り
まくりだって~のっ!」
兄の驚きにナナさんがニカッと笑って、Vサインをビシッと突き出す。
おお!
さ、流石は私のライバル!
見事な心構えですよ、ナナさんっ!
それに引き換え...
「マ、マジかよ!テストでこんなにも喜ぶ奴が存在するとはぁっ!?」
うちの兄が「嘘だろ!?」という表情をして、口を大きくあんぐりと
開けてビックリしていますね。
やれやれ。
ナナさんの言う様に、実力テストは自分の力を下民どもに見せつけられる
最高のステージだというのに。
「やれやれ...チミは分かっていないなぁ......」
私が兄に呆れていると、それと同時にナナさんも肩を竦めて嘆息を吐き、
呆れ顔で首を左右に数回振る。
そして兄の目の前に人差し指をビシッと突き出すと、
「いい?良くお聞きなさい、コー!実力テストはね、周囲の連中に自分の
実力を見せつける絶好のチャンスの場なんだよっ!くくく。みんなが私の
実力に恐れ戦く姿が今から目に浮かんでくるわ~♪」
ナナさんが「実力テスト」とはなんぞやという説明を熱い口調で力説をし
終えた後、悪どい笑みをニヤリとこぼす。
「はは...さ、さよですか。凡人の俺にはいまいち良く解らん理屈だけども、
まぁテンションを上げ過ぎて失敗しないようにな......」
熱意で瞳をキラキラさせているナナさんに、兄がやや呆れ気味な苦笑をこぼし、
軽い注意を促している。
「コホン。で、話は変わるんだけどよ。さっきから気になっていたその手に
持っている大きなカバンは一体何なんだ?」
あ、それは私も気になっていました。
「ん?これの事?これはねぇ、魔法付与の為に使う道具が入っているんだよ。
ほら、こんな感じの♪」
ナナさんがそう言うと、カバンの中から適当にひとつ道具を取り出し、
それを兄に見せてきた。
「なるほど。魔法付与の道具か!そう言えばお前、付与魔法を扱うクラブに
所属してたもんな!」
「......付与魔法のクラブ?」
ああ...そういえば、ナナさんって魔法付与の才能が高いんですよねぇ。
これで道具を作成できるギフトさえ覚えていたら、私以上の魔道具使いに
なれたでしょうに。
「さぁって、雑談はここまでにしておいて。そろそろ早く学校に行くよ、
コー。せっかく朝早く呼びに来てるっていうのに、遅刻してたんじゃ、
本末転倒も良いところだよっ!」
「はは!承知致しました、親分っ!」
「だ、誰が親分だ――――はうっ!?」
兄の発言にナナさんが怒って近づこうとした瞬間、ナナさんが重そうに
持っていた大きなカバンをサッと手に取る。
そして、
「ほれ。行くぞ、ナナ!」
兄がそう言うと、学校の方角に身体を向けてゆっくり歩いて行った。
「あ、ちょっと待ってよ、コー♪」
兄のさりげない優しさ行為にナナさんが頬を赤くした後、兄の後を
早足でテクテクと追い駆けて行く。




