216話・俺、用は済んだので、この場を離脱する
「あ、あの小僧!お前様を攻撃せず、棍棒を取っただけじゃとっ!?」
あ!クィーンの奴、動揺で防御体勢を解いて、棍棒を取りやすい位置に
動かしたぞ!
「くくく、そのチャンス、逃がさぁぁんっ!」
『穿せ!コールド・エッジィィィッ!』
俺は素早く右手を前に突き出して、コールド・エッジを詠唱し、
無数の氷の刃をクィーンが持つ棍棒を目掛けてピンポイントで次々と
射ち出していく!
『く、さ、させませんよ!アイス・ウォォォ―――ルッ!』
クィーンが無数に飛んでくる氷の刃を防ごうと、アイス・ウォールを
詠唱して大きな氷の壁を目の前に作り出す!
だが、しかし...
「く、魔法の威力も桁違いだと!?キャアアアッ!!」
クィーンのアイス・ウォールでは、コウの射ち出した無数の氷の刃を
堪えきれず、粉々に砕け散っていく!
そして氷の刃が棍棒を装備しているクィーンの手に向かって次々と直撃して
いくと、その痛みに耐えきれなくなったクィーンは、その手から棍棒を
ポロッと落とす。
「よっしゃぁぁっ!棍棒いただきだぁぁあぁぁっ!!」
クィーンの手からこぼれ落ちて地面へと落下していく棍棒に目掛けて
俺は素早く突進して行く!
そして俺はその手にクィーンの棍棒を見事にダイレクトキャッチする。
「おお!やっと...やっと、あいつらのレア棍棒をゲットだぜぇぇいっ!
うっしゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺は左手と右手に収まっている二つのレア棍棒を見て、身体中が感動で
内震え、心の底から喜びの叫声を荒らげた。
「お、おのれぇぇ!ひ、人族如きにここまで翻弄されるとはなっ!」
「わ、我々から武器を取り上げて、勝った気でいる様ですが、我々の力は
そんな武器なんぞ無くても、全く関係ないのですよ、オホホホホホッ!」
コウにしてやられたゴブリンキングが悔しさで拳をブルブルと震わせ、
ゴブリンクィーンもまた、虚しい程の威勢で高笑いを上げる。
「くくく...棍棒さえ手に入れば、もうお前達にもこんな場所にも
用はないぜっ!」
後の事は、学園の強い奴や偉い奴にでも任せておけばいいしな!
「そういう訳なので、俺はここいらで失礼させてもらうよ、お二人さん!
セティ!残っている最後の力を振り絞り、この場所から緊急脱出するから、
そのサポートをよろっ!」
『ガッテン承知です♪』
コウの号令にセティが笑顔で返事を返すと、この場を去る為に大地を
力いっぱいに蹴り上げて空中へ飛び上がると、出口を目指して一直線に
猛ダッシュで後退していく!
「なっ!?ど、どういう事だ、あの人の子?あんなに大きく距離を取って?
ちとばかり離れ過ぎではないのか!?」
「あの動き...も、もしや、戦闘の為の行動ではない?」
小僧が距離を取って後退している方角は......
ハッ!?
「ま、まさかあの小僧、ここから逃げる行動を取っているのか!?」
「に、逃げるだと!?我々をここまで翻弄できる力を持っている癖にか!?」
ゴブリンクィーンの思考して出した結論に、ゴブリンキング目を見開いて、
冗談だろと言わんばかりの喫驚をする。
「これは私の推測ですが...もしかしてあの小僧、最初から我々の棍棒が
狙いだったのでは!?」
「ハァ!?我々の棍棒が狙いだと!?いくらなんでも、それは極論な推測だろ!
何故、人族があやつが我々の棍棒を欲するというのだ?」
「そ、そうですね、流石にこの考えは推測にもなっておりませんね...」
ゴブリンキングの呆れ口調での反論に、ゴブリンクィーンも正論だと思い、
その意見に同意する。
「それでどうしますか、キング?あの小僧を追いかけますか?」
「いいや、止めておくとしよう。正直、あのスピードに追いつける気が
全くせんしな...」
それに追いついたとしても、楽に勝たせてもくれんだろう...チッ人族め、
キングたる我をここまで追い詰めておきながら逃げるか...
「愚弄者めが!」
この場からドンドン離れて行くコウを見て、ゴブリンキングが静かに
そう言葉を吐き捨てると、ゆっくり歩き、自分の玉座へと戻って行く。




